Grateful Dead - American Beauty

Grateful Dead - American Beauty (1970)


　グレイトフル・デッドの世界はサイケデリックから始まりブルーグラスやカントリーへ進化していく。その過程でロックも取り入れてしまい独特のヒッピー思想が根を張り、意識しないままにサザンロックの源流にもなりオールマンやリトル・フィートへも因子を残している不思議。グレイトフル・デッド自体はこだわりを持たずに気ままに奏でる音、心地良さを探求した音を取り入れてペダルスティールや大らかな曲と大陸風景を映し出すイメージの曲が並び、いつしかアメリカを表すバンドの音の代表にもなった。普通にロック好きなだけで聴いても理解しにくい世界だからグレイトフル・デッドを聴いている時点である程度ロックやアメリカンミュージックを志向していると理解出来る。

　1970年にリリースされた6枚目のオリジナルアルバム「American Beauty」は前作「Workingman's Dead」と同じくカントリーブルーグラス路線を継承した大傑作アルバムで、自由奔放さ加減が他の何者も寄せ付けない平和で心落ち着く音を聴かせてくれるので、ロックの形態を取りつつもおおよそロックらしい片鱗を持たない不思議な作品、つまりがアメリカの音楽をちょっと聴きやすい風味にして演奏しているレベル。目を閉じれば大陸のなにもない砂漠街道をイメージする感覚、せせこましい事も一切なくゆるやかに心穏やかに聴いていられる素晴らしい空気感で、他には聴けない味わいぶりとジャンル分けにも意味がなく、もっと書けば今の時代には全く似つかわしくない原始的な世界に似合う素敵な曲が並ぶ。Grateful Deadのファンの間でも名盤と語られており、またベスト盤にも入る曲も数多く収録されているから本作が優れたアルバムと分かる。ただ、グレイトフル・デッドの名盤は数多いから結局10枚くらいは名盤になるが。

　ペダルスティールの乾いた音とフォークと緩やかなリズムがロックから遠ざけてくれる音色の源で、尖った部分のないマイルドどころか砂が舞い上がるような質感に望郷の想いを傾ける作風ばかり。若い頃から英国ハードロックやロックを中心に聴いていたが、近年ジャズ・フュージョンから落ち着いた音色の作品も染み入るようになり、久々にグレイトフル・デッドのアメリカンなカントリーサウンドを聴いたら、アメリカ人が最後に田舎に籠もって聴き続ける音楽がグレイトフル・デッドと納得する哀愁感。こういう音楽世界も素晴らしい。

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