Ashley Hutchings - Son Of Morris On

0 Comments
Ashley Hutchings - Son Of Morris On (1976)
B014I78SMM

 ロックを聴いているとそれぞれの国の風習をモチーフにした歌詞やタイトル、アルバムコンセプトまでもが登場するので、それぞれの言語をそのまま理解出来ない自分は圧倒的に音楽からしかそのバンドに入り込めないが、それでもツェッペリンからトラッドフォークの世界へ、またビートルズからインドの音楽へと進むようにルーツを漁ったり、歌詞を気にしてみるとその奥深さにぶち当たる。その時に調べるし、単なる意味ではなく、どうしてそういう単語や物言いが行われるかを知りたくなると今度は文化の探求にもなり、歴史を紐解く必要性まで出てくるから悩ましい。英国トラッドの世界は英国伝承漁りの宝庫で、この辺りを紐解くと英国ロックやアイルランドのルーツまで見えてくるので、昔から事ある毎に探求しており、まだ飽きないで新しい発見も多数見られる深い世界。

 Son Of Morris Onとはバンド名かアルバムタイトルなのか、そもそもはアシュレー・ハッチングスがやってみたいと考えたイングランド地方のモリスダンスで用いられる伝承音楽を纏め上げたいとの発想から集められた楽曲集。アルバムは1972年に「Morris on」が最初にリリースされ、先の「No Roses」の近辺でもあったからそこに参加していたメンバーの大半が協力した傑作アルバムに仕上がっている。今回の「Son Of Morris On」はその続編で1976年にこちらも似たようなメンバーで演奏されているが、リチャード・トンプソンやマディ・プライアのような忙しそうな方々は入っていないようだ。もっともほとんどの曲がダンスナンバー、即ち音楽演奏だけのボーカルなしソングなのでさほど有名なシンガーも不要だし、リチャード・トンプソンのエレキギターが目立つ必要もない音楽と言えばそうとも考えられる。フェアポート・コンヴェンション組からは相変わらずのデイブ・マタックスにリック・サンダース、サイモン・ニコルに奥方シャーリー・コリンズも参加しているので、何らクォリティに差は見当たらない。ただ、短めな楽曲が多いから目まぐるしく曲調が移り変わり踊るだけにしても意味深なシーンが入ってくる場合が多いが、この辺りは原曲がそういうアレンジだったか、長い時間をかけてそんな形式に進化していったか、途中ナレーションが入るような場合もありアルバムとして普通に聴いているとやはり一大絵巻を聴いているようにも感じる。つくづく英国人はこういったメロドラマと言うかストーリー仕立ての演劇風味が好きなようだ。

 ダンスナンバーとして知られているので、明るい曲調ばかりかと思えば、そこはさすがに英国仕立ての楽曲で、まったく明るいだけの楽曲はひとつもないと言えるくらいにどこか染み入るパートを持った湿り気の多い曲ばかり。それをトラッドフォークロック調のスタイルで演奏するから強調されてしまっているのか、アシュレー・ハッチングスのアレンジと解釈が伝承音楽的思想で暗くなっている面もあるだろうか。その意味ではアイルランド民謡の方がまだ強烈に極端化されている気がするが、こちらは純粋にイングランド地方に残されている伝承音楽でその分歴史的重みを重厚に感じるのが曲で聴ける面白さ。深さとも言えるが、フィドルやバグパイプがその重厚さを上手く伝えているようで、初期スティーライ・スパンにも同様の重みを感じる。さすがにアシュレー・ハッチングスの根底にある自我論そのままが音に個性として出て来ているようだ。

 アルバムジャケットは古臭い衣装を英国風なユーモアで着こなしているが、幾つかは新しい小道具も登場し時代錯誤的な面も見せたブラックなスタイル。1994年にCD化された際に既にアルビオンバンドで先行していたダンスチューンのライブから一曲収録され、またリック・サンダースの曲が最後にもう一曲追加されている。このパターンは2003年のCD再リリース時にも同様に収録されているが、音楽性からかリマスタリングは行われていないようだ。もっとも聴いている分には何ら問題もなく、リマスタリングの必要性すら感じない生に近いサウンドが聴けるので十二分に楽しめる伝承音楽。アルバム的にはこの後2002年には「Grandson of Morris On」、2004年には「Great Grandson of Morris On」として続編がリリースされているのもいずれまた聴いて取り上げていきたい。





関連記事
フレ
Posted byフレ

Comments 0

There are no comments yet.

Leave a reply