Shirley Collins And The Albion Country Band - No Roses (2017 Remastered)

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Shirley Collins And The Albion Country Band - No Roses (2017 Remastered) (1971)
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 英国音楽の根っこにはトラディショナルフォークがあり、国民性の源にもなっている。そのトラディショナルフォークはいつまでも英国で脈々と受け継がれている音楽で、近年ようやく口承文化から録音されて記録に残される状態になったが、その伝道師の一端を担った人がアシュレー・ハッチングス。彼のキャリアはフェアポート・コンヴェンションからスティーライ・スパン、更にアルビオンバンドと名前を変えていくが、それよりもアシュレー・ハッチングスの周囲に集まるプレイヤー達の英国人気質が伝承音楽への造詣を深め、また時代に即した音色を加えながら古き良き音楽に息吹を与えて蘇らせている。地味ながらもその活動は着々とレコードからCD、そして現代の音楽へも残されており、時代を超えての掛け橋の機能を果たしている点は賞賛に値する。

 その活動の集大成的ターニングポイントともなった「No Roses」は、1971年にリリースされているので、シーンからはやや遅れ気味だが、この時点までのアシュレー・ハッチングスはただひたすらに伝承音楽を歴史に残す方向を見ていたようで、始終していたがこの辺りでは確実に残すためには優れたミュージシャンを集めて最高の作品としておかなければの意からこの時代で最も相応しいメンバーを勢揃いさせて録音している。これまで既にフォークの世界で既に名を馳せていたShirley Collinsを引っ張り込み、バックの演奏陣営には馴染みのトラッド連中に加えてこの時期に知り合っていた面々を全て総動員しての一大傑作絵巻を作り上げている。アルバムリリース時のバンド名はShirley Collins & The Albion Bandとして、The Albion Bandに全ての面々を入れ込んでいるが、実際にはバンドではなく参加したメンバー全てをそう物語っているようだ。意外な人脈ではサックス奏者のロル・コックスヒルと元Mighty Babyのドラムのロジャー・パウエルが目を引くが、リチャード・トンプソンやデイブ・マタックスを始め、マディ・プライヤー、サイモン・ニコル、ジョン・カークパトリックなど馴染みの面々がガッチリと固めているから、楽曲毎の演者の違いをさほど感じないままにアルバムが進められていく。収録されている曲は全てトラディショナルフォークの伝承音楽で、タイトルを見ると割と血生臭い単語が並ぶのもそもそも英国伝承音楽はその手の事件をモチーフに教訓として語られている面が強いからだが、その辺りを知らないで訳詞まで入っていくとこの歌声と演奏でほのぼのとしている割におどろおどろしい内容に驚くかも知れない。それこそが英国の奥深くに漂う文化の伝統と知ると更に興味を抱いて深みに入るので、楽しみを深掘りするにはもってこいの素材。

 本作の聴きどころは幾つもあるが、楽曲的に群を抜いているのは7分半にも及ぶ「 Murder Of Maria Marten」組曲。冒頭のややおどろおどろしいハーディ・ガーディを含むトラッド風味なサウンドにリチャード・トンプソンのいつもの独特のギターが重なり、至宝のシャーリー・コリンズの淡々とした歌声が物語を紡いで序章を終えるとハーディ・ガーディをバックに捉えようによって殺伐とした情景を歌い上げているようにも聴ける静かな曲が間に挟まれ、同じメロディでいつものトラッドなムードが奏でられる展開。相変わらずのリチャード・トンプソンの美しきギターの音色が心に染み入り、男性陣営のコーラスも重なり終盤へ向けて音が詰め込まれていき、最終的には第二章のハーディ・ガーディをバックにした歌声によるエンディングで締め括られる。他の曲も多少牧歌的な雰囲気とも思える面もあるが概ね恒例のリズムと曲調が奏でられ、演奏陣営のレベルの高さと確かな腕前でしっとりと聴かせる素晴らしさ。アシュレー・ハッチングスが最高のメンバーで演奏したがった理由も聴けば当然の如くこれ以上はないくらいのプレイが奏でられ、適所で絶妙な音が鳴る美しさは他で類を見ない絶品に仕上がっている。

 2017年にリマスタリングが施されたがボーナス・トラックは収録されずオリジナルナンバーのみで荘厳な一枚を聴かせる素晴らしさ。これまでよりも更に深みを増した音色にも聴けるレンジの広さのおかげで、個人的にはフィドルとリチャード・トンプソンのギターが素晴らしく聴けるありがたみを堪能している。





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フレ
Posted byフレ

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