David Bowie - hours...(Deluxe Edition)

2 Comments
David Bowie - hours...(Deluxe Edition) (1999)
B006HH5ZM8

 世紀末も近づいた1999年、これまで革新的で前にしか進まない音楽を作り上げていたデヴィッド・ボウイが、ふと立ち止まったかのような新作「hours」をリリースした。いつも良い意味で期待を裏切るばかりだったボウイが、ここに来て一般的なリスナーでも聴きやすく、時代そのままのサウンドをハイレベルで届ける当たり前の姿が逆に新鮮で、それはそれとして上々の評価を得たのも記憶に新しいが、それも随分昔の話となっている。自分がそれだけ年齢を重ね、ボウイも他界し、確実に時代は過ぎ去っていくが、改めて聴き直してみればまるで音の古さは感じないし、今目の前でボウイが作り上げた音とも聴けるような感触はさすがボウイの作品と唸らされる。ロックし過ぎないようなサウンドを聴きたい時に手にする事が多かった「hours」も随分聴いていなかったので久しぶりだ。

 冒頭の「Thursday's Child」のゆったりしたムードで始まる歌は木曜日の気怠い夕暮れに聴くにはぴったりの落ち着きムードソングで、淡々とした楽曲をバックに美しいコーラスとメロディラインだけでリスナーを惹き付けていく素晴らしき曲。続いての「Something In The Air」もテンポは似たようなムードながらもアレンジが最先端的で音色がフルデジタルサウンドながら機械的に感じさせない作りが見事。この時代からマニュピレーターの重要さを知らしめているあたりがさすが。そして最初期のボウイを彷彿させるアコースティックの歌メロが主役の「Survive」も先端のサウンドを合わせて古き新しいサウンドを生み出している。メロトロンのようなストリングス的背景とアコギなのにデジタルサウンドと独特のトーンのギターで一筋縄では行かないゆったりした楽曲。続いての「If I'm Dreaming My Life」もテンポは変わらずにゆったり大らかなサウンドで、オーソドックスなバンド形態の楽曲だが、ややアレンジが複雑に絡み合っていながらボーカルラインはそのまま残されたメロディが繋ぎ止められるユニークなもの。「Seven」もアコースティックサウンドで紡がれる最初期ボウイ的サウンドに近いが、さすがに相当洗練されたアレンジが施されたメロディメイカー、ボウイの心に染み入る傑作。聴き様によっては単なるフォーク作品とも捉えられるが、そうは聴かせないところがボウイらしい。普通にエイトビートのロック的解釈で奏でられるマイナー調の「What's Really Happening」はハイレベルなデジタルツールを使い倒した曲ながら、やや単調にもなりがちな雰囲気もある一曲。リーブス・ガブレルスのギタープレイが宙を舞い、その単調さを感じさせない目まぐるしさを演出している。ようやく飛び出してきたボウイ流ロックの「The Pretty Things Are Going To Hell」はこれまであまり聴かれなかった歌メロが組み立てられたハイテンションな一曲。ある種普通にロックとしてカッコ良いと思えるサウンドに仕上げており、それこそが珍しい音作りだが、本作内では一際目立つ印象を残す。続いての「New Angels Of Promise」は静かめなムードある楽曲でボウイよりもアレンジや楽曲そのものの音色が聴かせる曲で、演奏陣営の腕の見せどころとばかりのプレイが素晴らしい。こちらもデジタルサウンドを駆使しつつもバンド感を感じるロックが味わえる面白さ。「Brilliant Adventure」はどこか宗教的、しかも琴の音色が聴けるから和風感もあるインスト楽曲で、日本人だから心が妙に落ち着く美しい作品。ボウイがこのような曲をこの時点で作って収録するのも不思議。通常盤の最終曲「The Dreamers」はリズムはやや速めなビートとタイトなビートが絡み合う不思議なアレンジサウンドながら、70年代後期頃のボウイを彷彿させるメロディとアレンジ感がやや懐かしさを醸し出すが、そこまで意識しないままに作られていると推測される。

 以降はボーナストラック曲として各国アルバムやシングル盤に収録されているが、2007年にデラックス・エディション盤「Hours/Collector's Edition」がリリースされ、それらの楽曲全てと各種ミックス違いバージョンも収録されていた。「We All Go Through」もアルバム本編前半に収録された楽曲群に近いアレンジとクォリティの楽曲だが、特筆すべき個性がそこまででもなかったのか、本編には未収録と判断されている。ただ、同時期にリリースされていたのであまりアウトテイク的イメージもなく、普通に聴けてしまう楽曲。「1917」は実験的なデジタルサウンドを持ち込んだサイバー的サウンドなので、相当検討されたと思うが、今の時代になってから聴くと古さを感じる面もあるので当時外したセンスはさすがと思う。曲は凝りまくったアレンジや音色が詰め込まれておりかなり凝っててカッコ良い。「We Shall Go To Town」も大らかにゆったりとした流れに任せた曲で、効果音的サウンドが宙を舞う昔で言えばサイケデリック風サウンドとも称される雰囲気で、アルバム内にあっても不思議はなかったが、収録する場所が難しかったか。唯一自分が当時馴染みのなかった「No-One Calls」もデジタル駆使サウンドで、元々がゲームサウンドからの派生で出来たアルバムの路線もあったからか、この曲はその色合いを濃く残したサウンドコラージュとも言える作品。ボーナストラックにしか相応しくないとも言えようか。

 2007年にリリースされたデラックス・エディション盤「Hours/Collector's Edition」には半分程度の曲の各種リミックスや編集バージョン、もしくはゲームサウンドトラック:オミクロンに収録されたバージョンやデモバージョンまでも収録されているので、各種の違いを堪能できるが、この頃から音源編集バージョンが増え出し、コレクター的見地からするとさすがに追い掛けきれなくなってきた時代。纏めてリリースされれば聴きようもあるが、バラバラで出てくると何があるのかを抑えるにも苦労する。その意味で今ならデラックス・エディション盤がこの頃のボウイを抑えるのは丁度良いアイテム。





関連記事
フレ
Posted byフレ

Comments 2

There are no comments yet.
photofloyd(風呂井戸)  

David Bowie 、私にとっては非常に珍しいというか、変わったというか・・・そんな存在でした。昔のグラム・ロックという時代はどうでもよかったんですが、パンク時代も全く興味なかった。
それが、あのベルリン3部作にて全く変わった見方ができた。
「LOW」には完全にノックアウトされ、もともとイーノのファンだったのでなおさらですが、"ワルシャワの幻想"にはぞっこんでした。「Hiroes」もインパクトあって・・・その後ながれ流れて「The Next Day」の復活では、すでに全てを認める巨匠の感すらあった。
 私にとっては今でも不思議な存在です。
 懐かしく回顧させていただいてますが・・・・ロック界で彼はやっぱり貴重な孤高な存在ですね。
 

2021/05/12 (Wed) 15:22 | EDIT | REPLY |   
フレ
フレ  
>photofloyd(風呂井戸) さん

何をしでかすか読めなくて出てきたら最先端の先、本作ではようやく「普通」感ありましたがそれでもハイテク駆使しまくりで「普通」だから凄いです。
最後の最後まで革新的な人でしたね。

2021/05/16 (Sun) 11:42 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply