Hummingbird - Diamond Nights

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Hummingbird - Diamond Nights (1977)
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 ロックは様々な音楽と混じり合い幅を広げて今でも変貌しつつあるが、70年代はもう少し大胆にジャズを混ぜてみよう、ソウルを入れてみよう、レゲエも気持ち良いぞ、と言うような感じでジャンルを融合させる大雑把なものだった。いつしかそれだけでは通用しなくなったので更に細分化された取り入れ方になっている。ブルース・ロックとファンクやジャズを混ぜてみる、それぞれの畑のプレイヤーがセッションを試みて音を奏でてみる、相応にテクニックや基本的な音楽のバックグラウンドが無ければ成り立たないのは当然ながら、ジェフ・ベックを見れば分かるようにクロスオーヴァーした世界はひとつの可能性をもたらした。以前からそういった融合は多数行われていたが、ジャンルを跨いだミュージシャンが混じり合って広く知れ渡った例としてはこの頃だと思われる。

 Hummingbirdの1977年リリース三枚目にして最終作「Diamond Nights」。不動のメンツではボブ・テンチ、クライブ・チェアマン、マックス・ミドルトンで、バーナード・パーディは前作から参加、ロバート・アーワイは本作で参加したようだ。このバンドのマックス・ミドルトンとジェフ・ベックとの邂逅は第二期ベック・グループにまで遡り、マックス・ミドルトンが在籍したHummingbirdは1975年にはデビューアルバムをリリースしていたが、マックス・ミドルトンはジェフ・ベックの「Wired」のセッションにも参加して「Led Boots」の作曲者としてクレジットされている。アルバム冒頭を飾るクラヴィネットのサウンドと印象的なメロディは今でも代表曲となる素晴らしき作品だが、その曲を作った本人が在籍するHummingbirdの本作では冒頭に「Led Boots」の歌入りで普通のリズムのバージョンが収録されているのはさほど知られていない。かく言う自分もその情報を知ってはいたものの、聴く時に意識しないで流してみたらどこかで聴いたフレーズが耳に入り、それでいて歌も入っているのでどこか妙な感触で、瞬間的にジェフ・ベックの「Led Boots」とは思い当たらなかったが、しばらくしてマックス・ミドルトンだからオリジナルの方かと気づいた。ところが年代的にはジェフ・ベックのアルバムリリースの方が先なので、こちらに収録作品は元々のアイディアそのままを歌入りで録音したものだと思う。アルバム全体を聴いてても妙なリズムに進むような事はなさそうなバンドなので、あのヘンなスタイルはジェフ・ベック独特のアレンジだろうと。そして本作に収録されているバージョンの聴きやすい事、そして上手い具合に裏メロ的にあのフレーズが絡んでくるのは聴いてて痛快。その一曲のために聴く価値ありとは言い過ぎだが、なかなかこういうパターンも聴けないので研究し甲斐もある。

 アルバム「Diamond Nights」はハミングバードの最終作だが、この手のサウンドはこの時期に既に発展しており、バンドのスタンスと合わなくなって来たからの解体だと読んでいる。クロスオーヴァーな世界とオシャレなサウンド、ロックからはかなりかけ離れた聴かせる音楽の世界を奏でているバンドにも聴こえてしまうので、彼ら固有メンバーでやり続ける理由も見当たらなくなったか。勝手な推測なので実はまるで違うかもしれないが、この後のシーンに渦巻く音楽を知っているから余計にそう思う。ただ、聴いていて思うのはマックス・ミドルトンのクラヴィネットのサウンドは今でも本作の時点でも聴けば一発で分かる個性的な音色で、だからこそジェフ・ベックも使った気がする。そのクラヴィネットサウンドがマッチした曲が多数入っているハミングバードのアルバム。どの曲もテクニカルでプレイヤー気質のあるリスナーからは実に楽しめて聴き応えのあるアンサンブルが奏でられているが、一般的に聴くだけのリスナーはやや軽めに響くだろう。ロックから出てきたミュージシャンでここまでフュージョンに進んだ例も多くはないので、その意味では貴重なバンドのアルバムだが、出てくる音が完全に向こうの世界過ぎた。ただ、面白いのはこのハミングバードと並行してボブ・テンチが進めていたロジャー・チャップマンとのStreetwalkerからはみ出した曲が幾つか用いられているようで、ロックの歴史は実に様々な方向と絡み合う姿。

 そんな面倒な事を考えずに普通に「Led Boots」の歌入りを楽しみ、マックス・ミドルトンのクラヴィネットを味わい、クライブ・チェアマンのベースに馴染みながらアルバムを聴いていると随分と心地良いサウンドに包まれる作品だ。



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フレ
Posted byフレ

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