Humble Pie - Thunderbox
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Humble Pie - Thunderbox (1974)

ロックの歌手は歌を歌えるの意味だけでなくバンドのフロントマンとして歌を歌っている人もいるし、そもそも歌なのか雄叫びなのか音階があるのかないのか、まで個性的なシンガーと言うには多種多様の人がレコードに録音を残している不思議な世界。何が書きたいか、例えばロバート・プラントのボーカルは素晴らしいが、彼が普通の歌をメロディアスに歌唱力豊かに歌うとは到底想像できない。同じようにスティーブ・マリオットも似たような感覚で普通に歌手らしい歌が歌えるような気がしない。スティーブ・マリオットはアルバムでかなりカバー曲を残しているので、その歌手たるスタンスがオリジナルや他の歌手と比べられるのも面白いし、それを聴いていると案の定全く超個性的過ぎる歌手の歌声でカバーしてる姿が聴ける。
Humble Pieの1974年リリース作「Thunderbox」はバンドが姿を保っている終盤の時期に差し掛かったアルバムで、12曲中5曲がカバーソングで占められている。スティーブ・マリオットとクレム・クリムソンの二人のソングライターがいるので曲に困ったとは思えないし、おそらくはスティーブ・マリオットが自分の曲をやるよりも、自分がよく聴いていた曲を思い切り歌い上げたい気分だったからこうなったような気もする。オリジナルナンバーはほとんどがクレム・クリムソン作品なので、彼は普通に作曲してて次作に持ち込んだと考えられる。いずれにしてもこの頃にしては珍しくカバー曲が多いアルバムで、それがほとんど黒人ソウル系の作品からなので、とにかくファンキーでソウルフルで、ハンブル・パイらしいアレンジとリズムでズンズン響いてくるドロドロのアルバムになっている。アルバム単位で捉えると結果的に随分と散漫な印象もするし、どこに焦点が当てられた作品かも分かりにくい仕上がりだが、何度か聴いていると単純にスティーブ・マリオットが自身の個性的な歌声を存分に発揮したいためのアルバムだろうと想像する。一方のバンドメンバーにしてもここまでの演奏をするのは並大抵の仕事ではないので、かなり食らいついてアプローチしただろう。クレム・クリムソンはその中でもスライド・ギターを入れたり、ヘヴィなギターサウンドを持ち込んだりとブルースロッカー的スタンスを貫いている面もあるが、バンドそのものの演奏テンションはとてつもなく高い。それを更に持ち上げているのは当然スティーブ・マリオットのもっと上を行くソウルフルなボーカルスタンス。これが凄い。
冒頭のアルバム・タイトル曲「Thunderbox」は軽快なツインギターの如何にもロックバンドらしい歪んだ音で流れてくるので、相変わらずハンブル・パイはブルース・ロックをがっつりとカマしてくれるヘヴィなバンドだと安心する。ブラックベリーズのバックコーラスも健在でキャッチーなスタイルは見事にクレム・クリムソンとスティーブ・マリオットの合体作。ヘヴィロックとブルースとソウルが融合したアクの強い素晴らしきナンバーでついついリズムを取ってしまうノリの良い作品。続いての「Groovin' With Jesus」はゴスペルファンクバンドで知られているデトロイト出身のThe Violinairesが1971年にリリースした曲のカバーで、恐らくその斬新なスタイルに刺激を受けたから本作でカバーしたか。とてつもなくファンキーで乾いた感触のするスタイルでロック界では聴けないムードながら、さすがスティーブ・マリオットの歌声ならでは文句なしにオリジナリティ溢れる曲として聴ける。「 I Can't Stand The Rain」は1973年にリリースされたメンフィス出身のアン・ピーブルズのシングルのカバー。ハンブル・パイを筆頭にロン・ウッドもグラハム・セントラル・ステーション、ローウェル・ジョージ、ティナ・ターナーなどもカバーしているメジャーな楽曲だが、スティーブ・マリオットのソウルフルな歌声がどのバージョンに比べても突出した仕上がり。そして実によく知られている「Anna (Go To Him)」のオリジナルは1962年にアーサー・アレキサンダーが放ったシングルだが、それよりもビートルズでジョン・レノンが歌ってカバーしている方が知られているだろう。その同じ曲をスティーブ・マリオットが本作で収録しているのは当然知っててだろうとは思うが、その出来映えと来たら圧倒的にぶっ飛ぶソウルフルなスタイルすぎて比較不能。そういう次元ではないあまりにも強烈なスティーブ・マリオットの歌声は冒頭に述べたような歌手論を突き抜けたところに存在している。続く「No Way」は実はハンブル・パイオリジナル曲で、グレッグ・リドリーとスティーブ・マリオットが書いているのに、ここまでヘヴィでグリグリなミーターズ紛いのソウル曲でオルガンまで鳴っている。言われなければオリジナル曲とは思えないほど黒人ソウル系に肉薄したサウンドが作り上げられているのも見事なバンドの成長ぶり。「Rally With Ali」はその名の通りにモハメド・アリ応援歌の内容だがオリジナルナンバーでもここまでファンクなサウンドで作り上げられている。その中でもクレム・クリムソンはワウペダルギターをグリグリと織り交ぜてロックスタンスをキープ、そしてハマっている姿はなかなかイケてる。
先の「Rally With Ali」と「 Don't Worry, Be Happy」はアルバムクレジットが「The Pie」となっているので、バンドセッション中心に出来上がった曲のようだ。そう思って聴くとどちらもファンキーなノリ一発でバンド全員で盛り上がって演奏しているように聴こえてくるし、ブラックベリーズのコーラスも絶妙に楽しんでいる雰囲気。こちらもクレム・クリムソンの出番も押さえられ、ジェリー・シャーリーのファンクなドラミングもかなり迫っててユニーク。そして再度登場したアン・ピーブルズの1972年リリース作「99 Pounds」はここまでのスーパーファンキー路線からやや落ち着いた感のあるモダンなR&B的サウンドでやや癒やされるが、スティーブ・マリオットの歌声が入るとそれもいつものスタイルに変貌。ここでもクレム・クリムソンが気を吐いたギターを鳴らしているのが嬉しい。そのスタンスは次のクレム・クリムソンオリジナルナンバー「Every Single Day」に持ち込まれ、ようやくファンクではなく、ヘヴィブルース・ロックが冒頭の「Thunderbox」以来久々に登場してほっとする。ここでのクレム・クリムソンはスライドプレイにワウペダルを混ぜた、ヌルヌルしたギターソロをプレイしており、それはそれでファンクのヌルヌルなイメージとも混ざり、いやらしいサウンドとしても聴ける。1957年のチャック・ベリー作ながらさほど知られてもいなそうな「No Money Down」もハンブル・パイらしいヘヴィブルーススタイルで奏でられているので安心して聴いていられるが、先程までのグリグリさを思うとやや薄くなった味わいが物足りなさすら覚える。その雰囲気を察知したかのように奏でられる1973年のドビー・グレイのバラード曲「 Drift Away」。スティーブ・マリオットではなく、ベースのグレッグ・リドリーかドラムのジェリー・シャーリーが歌っているのでいわゆる普通の歌。その分聴きやすいアクセントとして丁度良い塩梅。最後はスタックスレーベルで有名なThe Staple Singerの1974年リリース作「Oh La-De-Da」でブラックベリーズ大活躍の皆で大合唱スタイルで仕上げてきた。クレム・クリムソンはやはりここでもきちんとロックンロールギターを弾いてロックバンドらしさを主張している上手さ。
どうにもとっ散らかったアルバム、曲ばかりが入っている作品の印象もあったがじっくりと何回も聴いているとスティーブ・マリオットのやりたかった曲、歌いたかった歌唱を当時インパクト絶大だったファンクを織り交ぜて表現した作品。そしてクレム・クリムソンのブルース・ロックへのこだわりが生み出した快作とイメージが変わった。アルバムジャケットの鍵穴とセクシー路線のヒプノシス案はどこでも話題になるので多くは語らないが、そのジャケットと中身の濃さがまるでチグハグなナイスなアルバム。

ロックの歌手は歌を歌えるの意味だけでなくバンドのフロントマンとして歌を歌っている人もいるし、そもそも歌なのか雄叫びなのか音階があるのかないのか、まで個性的なシンガーと言うには多種多様の人がレコードに録音を残している不思議な世界。何が書きたいか、例えばロバート・プラントのボーカルは素晴らしいが、彼が普通の歌をメロディアスに歌唱力豊かに歌うとは到底想像できない。同じようにスティーブ・マリオットも似たような感覚で普通に歌手らしい歌が歌えるような気がしない。スティーブ・マリオットはアルバムでかなりカバー曲を残しているので、その歌手たるスタンスがオリジナルや他の歌手と比べられるのも面白いし、それを聴いていると案の定全く超個性的過ぎる歌手の歌声でカバーしてる姿が聴ける。
Humble Pieの1974年リリース作「Thunderbox」はバンドが姿を保っている終盤の時期に差し掛かったアルバムで、12曲中5曲がカバーソングで占められている。スティーブ・マリオットとクレム・クリムソンの二人のソングライターがいるので曲に困ったとは思えないし、おそらくはスティーブ・マリオットが自分の曲をやるよりも、自分がよく聴いていた曲を思い切り歌い上げたい気分だったからこうなったような気もする。オリジナルナンバーはほとんどがクレム・クリムソン作品なので、彼は普通に作曲してて次作に持ち込んだと考えられる。いずれにしてもこの頃にしては珍しくカバー曲が多いアルバムで、それがほとんど黒人ソウル系の作品からなので、とにかくファンキーでソウルフルで、ハンブル・パイらしいアレンジとリズムでズンズン響いてくるドロドロのアルバムになっている。アルバム単位で捉えると結果的に随分と散漫な印象もするし、どこに焦点が当てられた作品かも分かりにくい仕上がりだが、何度か聴いていると単純にスティーブ・マリオットが自身の個性的な歌声を存分に発揮したいためのアルバムだろうと想像する。一方のバンドメンバーにしてもここまでの演奏をするのは並大抵の仕事ではないので、かなり食らいついてアプローチしただろう。クレム・クリムソンはその中でもスライド・ギターを入れたり、ヘヴィなギターサウンドを持ち込んだりとブルースロッカー的スタンスを貫いている面もあるが、バンドそのものの演奏テンションはとてつもなく高い。それを更に持ち上げているのは当然スティーブ・マリオットのもっと上を行くソウルフルなボーカルスタンス。これが凄い。
冒頭のアルバム・タイトル曲「Thunderbox」は軽快なツインギターの如何にもロックバンドらしい歪んだ音で流れてくるので、相変わらずハンブル・パイはブルース・ロックをがっつりとカマしてくれるヘヴィなバンドだと安心する。ブラックベリーズのバックコーラスも健在でキャッチーなスタイルは見事にクレム・クリムソンとスティーブ・マリオットの合体作。ヘヴィロックとブルースとソウルが融合したアクの強い素晴らしきナンバーでついついリズムを取ってしまうノリの良い作品。続いての「Groovin' With Jesus」はゴスペルファンクバンドで知られているデトロイト出身のThe Violinairesが1971年にリリースした曲のカバーで、恐らくその斬新なスタイルに刺激を受けたから本作でカバーしたか。とてつもなくファンキーで乾いた感触のするスタイルでロック界では聴けないムードながら、さすがスティーブ・マリオットの歌声ならでは文句なしにオリジナリティ溢れる曲として聴ける。「 I Can't Stand The Rain」は1973年にリリースされたメンフィス出身のアン・ピーブルズのシングルのカバー。ハンブル・パイを筆頭にロン・ウッドもグラハム・セントラル・ステーション、ローウェル・ジョージ、ティナ・ターナーなどもカバーしているメジャーな楽曲だが、スティーブ・マリオットのソウルフルな歌声がどのバージョンに比べても突出した仕上がり。そして実によく知られている「Anna (Go To Him)」のオリジナルは1962年にアーサー・アレキサンダーが放ったシングルだが、それよりもビートルズでジョン・レノンが歌ってカバーしている方が知られているだろう。その同じ曲をスティーブ・マリオットが本作で収録しているのは当然知っててだろうとは思うが、その出来映えと来たら圧倒的にぶっ飛ぶソウルフルなスタイルすぎて比較不能。そういう次元ではないあまりにも強烈なスティーブ・マリオットの歌声は冒頭に述べたような歌手論を突き抜けたところに存在している。続く「No Way」は実はハンブル・パイオリジナル曲で、グレッグ・リドリーとスティーブ・マリオットが書いているのに、ここまでヘヴィでグリグリなミーターズ紛いのソウル曲でオルガンまで鳴っている。言われなければオリジナル曲とは思えないほど黒人ソウル系に肉薄したサウンドが作り上げられているのも見事なバンドの成長ぶり。「Rally With Ali」はその名の通りにモハメド・アリ応援歌の内容だがオリジナルナンバーでもここまでファンクなサウンドで作り上げられている。その中でもクレム・クリムソンはワウペダルギターをグリグリと織り交ぜてロックスタンスをキープ、そしてハマっている姿はなかなかイケてる。
先の「Rally With Ali」と「 Don't Worry, Be Happy」はアルバムクレジットが「The Pie」となっているので、バンドセッション中心に出来上がった曲のようだ。そう思って聴くとどちらもファンキーなノリ一発でバンド全員で盛り上がって演奏しているように聴こえてくるし、ブラックベリーズのコーラスも絶妙に楽しんでいる雰囲気。こちらもクレム・クリムソンの出番も押さえられ、ジェリー・シャーリーのファンクなドラミングもかなり迫っててユニーク。そして再度登場したアン・ピーブルズの1972年リリース作「99 Pounds」はここまでのスーパーファンキー路線からやや落ち着いた感のあるモダンなR&B的サウンドでやや癒やされるが、スティーブ・マリオットの歌声が入るとそれもいつものスタイルに変貌。ここでもクレム・クリムソンが気を吐いたギターを鳴らしているのが嬉しい。そのスタンスは次のクレム・クリムソンオリジナルナンバー「Every Single Day」に持ち込まれ、ようやくファンクではなく、ヘヴィブルース・ロックが冒頭の「Thunderbox」以来久々に登場してほっとする。ここでのクレム・クリムソンはスライドプレイにワウペダルを混ぜた、ヌルヌルしたギターソロをプレイしており、それはそれでファンクのヌルヌルなイメージとも混ざり、いやらしいサウンドとしても聴ける。1957年のチャック・ベリー作ながらさほど知られてもいなそうな「No Money Down」もハンブル・パイらしいヘヴィブルーススタイルで奏でられているので安心して聴いていられるが、先程までのグリグリさを思うとやや薄くなった味わいが物足りなさすら覚える。その雰囲気を察知したかのように奏でられる1973年のドビー・グレイのバラード曲「 Drift Away」。スティーブ・マリオットではなく、ベースのグレッグ・リドリーかドラムのジェリー・シャーリーが歌っているのでいわゆる普通の歌。その分聴きやすいアクセントとして丁度良い塩梅。最後はスタックスレーベルで有名なThe Staple Singerの1974年リリース作「Oh La-De-Da」でブラックベリーズ大活躍の皆で大合唱スタイルで仕上げてきた。クレム・クリムソンはやはりここでもきちんとロックンロールギターを弾いてロックバンドらしさを主張している上手さ。
どうにもとっ散らかったアルバム、曲ばかりが入っている作品の印象もあったがじっくりと何回も聴いているとスティーブ・マリオットのやりたかった曲、歌いたかった歌唱を当時インパクト絶大だったファンクを織り交ぜて表現した作品。そしてクレム・クリムソンのブルース・ロックへのこだわりが生み出した快作とイメージが変わった。アルバムジャケットの鍵穴とセクシー路線のヒプノシス案はどこでも話題になるので多くは語らないが、そのジャケットと中身の濃さがまるでチグハグなナイスなアルバム。
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