Sweet Pain - Sweet Pain

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Sweet Pain - Sweet Pain (1969)
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 60年代の英国のブルース・ロック熱は何を今更と言わんばかりにロック小僧達には当然のサウンドとして広まっていったし、そこからシーンに登場したバンドやギタリストの多さはそのまま英国のロック史に刻み込まれている。60年代後半になると、そのブルースを吸収して既に他のサウンドと融合させて発展させていくピンク・フロイドのようなバンドも生み出し、正に英国のロックシーンは何でもありの実験サウンドの温床になり、そこからも素晴らしいバンドが幾つも排出されている。ブルース・ロックと一言で言っても、その実多様性に富んだバンドの個性が含まれており、クリームが登場し、またレッド・ツェッペリンが登場した頃にはジャズ畑からロックに雪崩込んできたミュージシャンも数多く、ブルースとジャズにの融合も盛んに行われ、そこにポップスも取り込んでの実験が繰り広げられてロックはありとあらゆる方向性に広がる様相を示し始めた。

 1969年にリリースされたSweet Painの唯一作「Sweet Pain」は錚々たるメンツで行われたセッションを記録した作品で、後に名を知られるメンバーとしてはサックス奏者のディック・ヘクストール=スミスが加わっている。アルバム冒頭の「The Steamer」から聴かれる如何にもこの時代のドロドロのブルース風ギターを弾いているのは後のTitus Groonの中心人物となるギタリストのスチュワート・コーウェルで、ほぼセッション・ミュージシャンのキャリアからも色艶たっぷりに弾かれる絶品モノのブルースギターは艶かしく響くので聴いてて心地良い。一転しての「Changin' Your Mind」はこちらも後にRock Work Shopのボーカルを務めるアラン・グリードとThe Aynsley Dunbar RetaliationやJesus Christ Superstarの約で知られるヴィクター・ブロックスの奥方のアンネット・ブロックスがツインボーカルで歌っている、何故に本作に収録される事になったのか不思議ですらある軽やかなボーカルソング。そしてジャズとブルースが入り混じった傑作曲とも言えるインストナンバー「Rubbin 'And Scrapin'」はギターのスチュワート・コーウェルのジャジーなブルースプレイも耳を惹くが、ここでの主役はSavoy Brownのオリジナルメンバーのハーピストとして知られているジョン・オーリアリーの吹くハープで、その二人の掛け合いはポール・バターフィールド・バターフィールド・ブルース・バンドを彷彿させるかのようなモードミュージック的なスタイルに合わせて聴けるのも頼もしくて惹き込まれていく。続いての「Sick And Tired」は前半はアンネット・ブロックスの艶めかしい歌声がムードある場を歌い抜け、ロックとは異なるバーの雰囲気を醸し出して盛り上げてくれるが、中盤あたりでのディック・ヘクストール=スミスの強烈なサックスを筆頭にハープもギターも目いっぱいにぶつかり合って、素晴らしく白熱した演奏合戦を聴かせてくれる名演が聴ける。この時代ならではのぶつかり合いだが、それぞれ素晴らしい面々によるインタープレイはクールながらも手に汗握る素晴らしさ。ちなみに名義上はJunior Dunnと変名でクレジットされているが、このセッションでのドラムはエインズレー・ダンバーなので、単なるセッションではないのも分かるだろう。「The Rooster Crows At Midnight」は先の白熱したプレイのインターバル的にラグタイム的に奏でられた楽曲で、こう言う曲が飛び出してくるのもメンバーの奥深いキャリアと来歴からか。

 アンネット・ブロックスの艶めかしい歌とディック・ヘクストール=スミスのダブルサックスが心地良い「Troubles' Trouble」はSam Crozierとクレジットされていながら実はヴィクター・ブロンクスその人のピアノがクローズアップされた場末のジャズバー的演奏が素晴らしく、ロック畑に殴り込むなら夫婦とももっと派手に参入出来た気もするが、その一撃が本アルバムとなったのだろう。それにしてもメンバーは本作からそれぞれ散り散りになり、このバンドパワーほどの白熱ぶりを聴くシーンも少なかったのは残念。またしてもハープとアラン・グリードの歌が絡み合う「Don't Break Down」はリズムはブルースながらも無国籍的な音階をバックに鳴らしているのか、実に浮遊感溢れる不思議な情緒の中でエインズレー・ダンバーのややサイケなドラムプレイが目立つような作風。「It's A Woman's Way」ではアコギとアンネット・ブロックスの歌による色っぽい作風が聴けるアクセントの強い楽曲で。こちらもまた場末のスナック感漂っていて好ましい一曲。そしてオーソドックスにブルーススタイルを踏襲している「General Smit 」はディック・ヘクストール=スミスのサックスにギター、ハープが絡み、それぞれのソロプレイが艷やかに決まる如何にもセッション的なスタイルで、ディック・ヘクストール=スミスのサックスに感動していると、次にはスチュワート・コーウェルの見事なブルーススタイルのギターソロが鳴り響き、またもや惹き込まれ、その後はジョン・オーリアリーのハープがシカゴブルースとは大きく異なり、ロングトーンスタイルで吹かれまくるのもユニーク。そしてスロージャズブルースの「Trouble In Mind」はこれもまたアンネット・ブロックスお得意の儚く健気で場末なムードが堪らない歌ものにソロが絡み合う素晴らしい雰囲気を出した快作。最後はスタジオのサイケデリックなお遊び的な音色が収録された「Song Of The Medusa」でどこまで真面目にやってるアルバムなのかよく分からないが、中身は実に素晴らしい演奏がたっぷりと聴ける知られていないアルバムながらも傑作。

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フレ
Posted byフレ

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