Cheap Trick - In Another World

0 Comments
Cheap Trick - In Another World (2021)
B08TZ9LXPG

 近年70年代のロックを彷彿させるバンドが新たに多数出て来て、現代のロック色と微妙に融合させているから完全に古いだけでもなく、時代を反映させたリバイバルやオマージュ的なニュアンスも感じられ、古きを新しく仕立て直した新たな世界の構築とも言える作品が多い。70年代からロックを聴いているような古いリスナーにしてみれば、今ここでそれを聴かなくても古いオリジナルのバンドの方を聴いていればそれで十二分と味わえるが、考えてみれば今の時代に70年代を知らないリスナーの方が多いし、そのリスナー達にあの雰囲気を届けられる伝道師のような橋渡しをしている今のバンドに対してもう少し愛情を注いでも良いような気がする。ところが今度は面白い事に本家本元の70年代のバンドそのものが今の時代に自身へのオマージュ、言い換えるとオリジナルバンドとしてのプライドをぶつけてきた部分も感じられる強烈な作品が届けられた。

 我らがCheap Trickの2021年リリース新作「In Another World」は、これまでのチープ・トリック史上で70年代も含めて最高傑作と言ってしまえる大傑作。名盤とは言わないが大傑作。アルバムの冒頭から大笑いしながら聴けるだろうし、果たして何がそこまで自分で気に入るのか、一瞬考えてしまうがそれはチープ・トリックそのままの甘いパワーポップサウンドが全開しているからだと気づく。そもそもチープ・トリックが始祖でもあるので、今更彼らがパワーポップを出してきたからと言っても、ある種当たり前の姿をそのまま出しているだけだが、そのレベルが違う。過去作品を全て肯定し、更に磨きを加え、そこに自分たちも今のバンドがやっている手法、つまり70年代のオマージュと現代風味を合わせた技のように、チープ・トリックはチープ・トリック自らのパワーポップサウンドと、彼らの大好きなビートルズをオマージュして今の時代のサウンドも混ぜてアルバムに突っ込んだ。どこの何を聴いてもチープ・トリックサウンドだし、一方ではビートルズにしか聴こえないメロディや音のコラージュ、アレンジ手法だが、これまで聴いた事のない感覚でのチープ・トリック節そのままが素晴らしい。このコーラスワーク、メロディセンスの素晴らしさ、ビートルズオマージュのバランスの良さ、そしてチープ・トリック自身の独自路線の音色。加えてここまでロックなバンドだったかと唸らせるツインギターの絡みのカッコ良さと幾つかの曲に対するギターフレーズの流用も素晴らしい。ギターの音色も随分と研究したのか、ナチュラルでギターらしいサウンドが左右から聴けて、ロックバンドの鏡的にカッコ良い。

 近年の70年代オマージュバンドの全てに真っ向から回答をぶつけてくれたかのような快活な楽曲が並び、アルバム丸ごと一気に何度聴いてても元気が溢れてくるナイスな傑作。メンバーチェンジがどうの、とマニア的な見地で見れば所詮はチープ・トリック紛いのバンドだとの意見も出てくるが、リック・ニールセンが今を切り出し、おそらくは年齢と共にビートルズへの愛情や情熱も最後の最後まで残ったからこそここで発散させつつのアレンジを持ち込み、パワーポップ全開作品を繰り広げたと思われる。近年の作品全てがこのレベルかどうかは聴けていないので、自分は知らないが、今回の「In Another World」は目立ったジャケットも手伝って聴いてみればそれほどに素晴らしいアルバムだった。今のチープ・トリックでも十分にシーンのど真ん中に切り込んで対抗できるぜ、と70歳のジジイたちのバンドがロックシーンに投げ込んできた傑作。





関連記事
フレ
Posted byフレ

Comments 0

There are no comments yet.

Leave a reply