Kadavar - For The Dead Travel Fast

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Kadavar - For The Dead Travel Fast (2019)
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 70年代のジャーマンハードロックバンド勢は一瞬だけの輝きだったかもしれないが、確実にシーンに楔を打ち込んでインパクトを放った面はあった。その影響は英国で言うならばNWOBHMの一連の流れと同じようなマニアックなインパクトだったかもしれないが、ブルースの全く入らないハードロックのあり方、つまりはヘヴィメタルとの近接ぶりをもっとも最初の頃に無意識ながらも奏でていたのがこの頃のドイツのハードロック連中だったと思う。そのバンド群のレコードは今でもドイツ国内で簡単に手に入るかどうかは知らないが、恐らくはそこまで容易に聴ける代物でもないような気がするし、ほんの一瞬だけのバンドばかりなので、ニッチに追い掛けていなければ聴けなかっただろう。それでも自分も含めて追えば聴けるのだから、まだ有り難い。同じように紆余曲折を得ながらその辺に辿り着いて、しかもど真ん中から影響を受けてバンドを組み、その類の音をそのまま演奏してメジャーシーンに登場する、さらに全世界に知られるバンドになろうとは夢にも思わなかっただろう。しかも妥協する事なく、そのままの姿とプレイと演奏で出て来たにもかかわらず、だから凄い。

 Kadavarの2019年リリース5枚目のオリジナルアルバム「For The Dead Travel Fast」は冒頭からそもそもがブラック・サバスなムードで、楽曲がヘヴィに始まってもそれは今ならストーナーロックと言われるが、普通にブラック・サバスのノリで、おおらかなシャッフルリズムにゆったりと刻まれるリフと正にオジーそのままに近い呪われたようなボーカルで歌われる雰囲気たっぷりなスタートだ。基本的にどの曲もこのムードは貫かれているので、カダヴァーと言うバンドの基本スタンスではあるが、2013年のデビュー時よりも更に一層70年代風味に近づいているようで、見事な古さぶりが味わえる。これが今の時代に世界的にある程度は受け入れられているバンドの最新の姿とは到底思えないが、どこか新しい側面があるのだろう。ブラック・サバスを知らない世代なら当然刺激的ではあるが、サバスを知っている世代からしたら、これならサバス聴いてても同じだろう、と思うのかもしれない。ところがロックシーンはよく出来ていて、実際聴いてみればブラック・サバス的ではあるが、やはりカダヴァーのセンスが浮き上がってくるし、現代風味のサウンドとアレンジが施されているので、ユニークな感覚が楽しめる。この辺りが肯定できないと近年のシーンを理解出来ないので勿体なくなる。何度も聴くアルバムかどうかは作品の出来映え次第だが、少なくとも若い世代がここまでブラック・サバスの世界観に惚れ抜いてプレイする姿勢は聴いてても見ていてもパワーを感じる。大体この遅いスピードでメタリックなリフを刻んで演奏する事自体が根気の要るプレイだとすら思うくらい。

 雰囲気はそのものだが、メロディは割と流れていく旋律で歌われていたり、ギターにしてもそういうメロディラインが印象的なのでブラック・サバスのあのムードとはやや異なり、暗黒面は薄いようにも感じる。その分ドロドロ的な印象を受けるが、一方でドイツのバンドらしい硬さはあまり聴かれず、さすがに時代もこなれてきたか良質なハードロックヘヴィサウンドで、意外な事にかなり聴きやすい。ギターの音もエッジが立っていない、演奏がドタバタしない、歌が円やかとおおよそメタルらしさとは無縁のヘヴィサウンドだからだろう。その雰囲気が心地良いので流しながらも何度か聴いているとその内にこのムードが楽しめるようになり、そこは決して黒い世界ではなく明るい世界へと迎えるムードだったりもする。随分と不思議なサウンドに彩られたバンドとアルバムで、確実にアメリカでは出せないような味わい。それにしてもこのルックス、一体いつの連中だとつくづく凝り具合にも呆れるほど。







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フレ
Posted byフレ

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