The Pretty Things - S.F. Sorrow at Abbey Road 1998

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The Pretty Things - S.F. Sorrow at Abbey Road 1998
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 The WhoとThe Kinksは大英帝国らしいバンドとして知られているし、音を聴けば聴くほどにこれこそが大英帝国からしか出て来ない音、コンセプト、メロディ、そして空気感だろうと知る事になる。基本はそこに置きながら他にも多数のバンドを聴いていると、ますます彼らの英国性の高さ、突出具合が顕著になってくるが、一方では他にも英国性の高いバンドが多数ある事にも気づくし、そういう音を深く聴き漁っていくのも楽しくなってくる。いつしか70年代の英国ロックのサウンドはそれこそが大英帝国からしか出て来ないだろうロックの個性としてひとつの大きな枠組みを形成していた。ちょっと遡って60年代はもっとバンドも少なかったし、逆にそこまで英国性を打ち出したバンドも多くなかった。素直にアメリカのロックやブルース、モータウンやジャズから影響されてのロック、ポップ色が強かったからと思うが、その一通りの洗礼を受け終わってみれば自分たち自身の音楽やアルバム作りに早くも目覚めていき、英国らしさが顕著になってきたとも言える。筆頭格はビートルズになるだろうが、60年代中後半には既に数多くのバンドがその個性を出していた。それが意図したものかどうかはともかく、自分たちらしさを打ち出したらそうなった、とも言える。

 The Pretty Thingsが1969年にリリースしたコンセプトアルバムの傑作「SF Sorrow」もそういった作品のひとつで、元々がビートバンド、サイケデリックバンド、ブルースバンドと英国ロック発祥からそのままの音楽性を歩んできた彼らがたどり着いたひとつの姿。いまいち自分たち自身の音楽性、個性を出し切れない頃に、バンドメンバー全員で売れる売れないを考えずに、やってみたい音楽を探求してみようとなって初心に立ち返って作品作りに入ったらしい。その時に影響が大きかったのがかの有名なTwinkの奇抜な発想で、彼がこのとんでもないコンセプトアルバム的な思想、すなわち一人の男の人生をアルバムで物語ってみたら面白いんじゃないか、と。コンセプトがそこから始まっていき、楽曲はこれまでの集大成的サウンドと、時代を反映させたサイケ風味やトラッドからのアコギ感、この頃よく出てきたシタールやバンジョーも用いながら、同じスタジオ、つまりアビーロード・スタジオで同時期に録音していたビートルズやピンク・フロイドからの音のパクリも受けながら制作していったようだ。その結果1968年の時点でこのロック界初のコンセプトアルバムはほぼ完成されていたが、大人の事情でリリースが遅れ遅れになっていった。それでも英国ではThe Whoの「Tommy」より数ヶ月前にリリースされたが、アメリカでは逆に数ヶ月後にリリースされた事で両国での評判が異なっていった。今となってはどっちがどうでもさほど関係なく、またThe Whoのピート・タウンゼントが本作をパクったというのも時系列的に考えにくく、ほぼ同時期にキンクスのレイ・デイヴィスもピート・タウンゼントもプリティーズもこういった思考に向いたと考えられる。もっともそれぞれがそれぞれの作品を結果的に聴いた言い分はあるとは思うが。

 その傑作アルバム「SF Sorrow」は地道にロック界で評判を勝ち取り、決して派手な名盤扱いはされないが、それでも英国ロックの世界に入れば出てくるくらいの名盤として語られる。その辺はThe Pretty Thingsのメンバー入れ替わりによりライブ活動が上手く行われなかったプロモーション不足によるものも大きかったのだろう。それでもアルバムリリース後40年が経過した1998年にはこの「SF Sorrow」のアルバム丸ごとライブをそれなりのオリジナルメンバーでやろうと機運が高まり、来歴的にも相応しいアビーロードスタジオに観客を入れてライブ録音と録画を実施、何とも驚く事にアルバムの構成を繋ぐナレーションにはあのアーサー・ブラウンが配置され、いくつかの楽曲ではもっと驚く事にデヴィッド・ギルモアが驚愕のプレイを聴かせてくれる。正直言ってこの二人の参加だけで見る価値が高まるが、そもそものThe Pretty Thingsの面々の器用な演奏ぶりも素晴らしく、ドラムのスキップ・アレンは少々不安に思ったのか自分の息子をパーカッショニストとして同時に参加させているが、ディック・テイラーとフィル・メイの存在感の大きさは素晴らしい。また、バンドには後年参加し始めていたフランク・ホランドが演奏面の脇役をきちんとこなしており、スタジオ盤でもそうだったのかわからないが、驚いたのはサイケデリック風味のところでアコギをバイオリンの弓でプレイしている姿だったり、器用なギタープレイだったりするので演奏面の安定感は実に高い。当然ながらのデヴィッド・ギルモアの昇天するかのようなギタープレイはさすがに同じ60年代のサイケデリックロックを風靡したギタリストで、同じ時代の楽曲でのそのプレイぶりは格が違う。普通にプレイしても目立つのにこの中では更に一際目立っている素晴らしさ。単なる懐メロのアルバム再演ライブかと思いきや、とんでもなく高品質なライブが見れてしまうのは有り難い発見。

 このライブは2000年になり映像作品「S.F. Sorrow at Abbey Road 1998」としてリリースされているが、一方何度かのオリジナルアルバムリマスタリング再発で2010年にリリースされたバージョン「SF Sorrow + Live at Abbey Road」ではボーナスディスクとしてこのライブが加えられている。さすがにロック界の名盤と称されるだけあって何種類ものリマスタリングバージョンがリリースされているが、このアルバムに限っては多分オリジナル楽曲オンリーのディスクが一番似合っている気がする。ボーナス・トラックはほぼこの頃にリリースされたシングルのAB面なので、作風としての違和感はないが、少なくとも別ディスクで聴ける方が自分的には好ましい。なかなか取り付きにくい作品かもしれないが、何度か聴いているとその大英帝国らしい音や雰囲気や歌詞の組み方にしてもハマっていくと思う。ただ、理解しにくい面が強いのはあるので試験石的アルバムとも言えるかもしれない。



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フレ
Posted byフレ

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