Babe Ruth - First Base (Bonus Track Version)

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Babe Ruth - First Base (Bonus Track Version) (1972)
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 オリジナルメンバーが全員バンドから離脱してもバンド名は残るし、その途中からバンドを支えていたメンバーが準オリジナルメンバー的なポジションで貢献していれば、そのバンドはオリジナルメンバー不在でもしっかりと存続していくし、そういうバンドもそれなりの数あるのも面白い。ただ、そういう形態になってしまうと大抵はリスナーから見捨てられてしまい、低迷期に入って解体する場合が多いので、やはりどこかオリジナルメンバーがきちんと残っていないとバンドの存続意義が見いだせない、リスナーからしても同じバンド名でやり続けるのも認めにくい風潮もあるのだろう。一番はやっているメンバー側がそれなら、と思う方が多いのかもしれないが、悩ましいのはそこでバンド名を改めて活動する勇気。腐っても鯛、とは言わないが、活動歴があれば多少なりともバンド名が知られているからセールス面では期待できるが、バンド名変えたらまたその知名度アップからスタートとなるから大変。だからと言って誰のバンドか分からないバンドを語るのもよろしくない、というお話。大抵はバンドのキャリア後期になると起こってくるのでそこまで神経質にもならないで済むが。

 Babe Ruthも最終的には上述のような不思議なバンドとなったが、末期はバーニー・マーズデンが陣頭指揮を取り、ドン・エイリーを鍵盤に、ベースにはニール・マーレイを迎えての同バンド名での活動とアルバムリリースまで行っていたが、その功績はさほど知られていない。一般的に、と言うかそれなりの英国ロック好きのリスナーからするとBabe Ruthはやはりアラン・シャックロックとジェニー・ハーンの歌がなければダメだ、少なくともジェニー・ハーンの歌は絶対となるので5枚目の「Kid's Stuff」は邪道と。ただ、この「Kid's Stuff」がかなり良い出来映えの作品で、自分としてはBabe Ruth名義であろうとなかろうと好きなアルバムの音だし、メンツを見て納得もする作品。本日はその5枚目ではなく、1972年にリリースされたファーストアルバム「First Base」だが、オリジナルリリース時は全6曲しか収録していないどの曲も長尺に仕上げられた傑作だった。長尺であっても決してダレる事もなく、どちらかと言えば夢中になるようなアレンジや楽曲の展開が練り込まれており、それに加えてジェニー・ハーンのお転婆娘的ボーカルがカッコ良く決まっているので魅力的。今ではどう紹介されているケースが多いかよく知らないが、プログレバンドではないし、どちらかと言えばハードロックバンドだと思う。ただ、単純に70年代のハードロックバンドかとなるとそうでもなく、緻密にドラマティックに練られた楽曲はプログレッシブにも展開されるが、ジェニー・ハーンの歌が圧倒的にロックな作風。そこにコンガやピアノも入ってくるので単純にハードロックとも言い切れない妙な質感があり、ボーカルにしても男女ツインボーカル体制で奏でてくれる楽曲もあり、聴きどころは多い。

 冒頭の「Wells Fargo」は挨拶代わりのハードロックなリフに妙なリズムが絡み合ってシンプルにカッコ良く聴こえてくるが、このままギターソロかと思う所で唐突にサックスのソロが始まる意外性がインパクト絶大。その後のソロではきちんとギターソロが出てくるが、それも既にブルースからは逸脱したフレーズ、ハードロック的なギターソロが奏でられているのは先進的ですらあるだろう。そして終盤はまたサックスのソロで冒頭のハードロックのリフそのままが鳴っているにも関わらず随分とジャジーなムードで進んでいく不思議さ。続く「The Runaways」はガラリと変わってピアノ中心のバラードにジェニー・ハーンの歌が絡み、ストリングスまでもが織り込まれてくる叙情詩。中盤からはあのルネッサンスのようなバンドサウンドで穏やかに展開されていく美しさが光る素晴らしきパターンで、どんどんと盛り上がって行く協奏曲のような出来映え。そして唐突にフランク・ザッパのカバー曲「King Kong」がロック的なアレンジで飛び出してくるが、ザッパバージョンは時代性も含めて浮遊感が強かったが、こちらはさすがにロックバンド的な尖り具合を持ったスタイルで聴かせてくれるインストナンバーに仕上げている。

 Babe Ruthはこの後、カナダで人気を博したようだが、そのきっかけともなったのがカナダで売れたシンガー、Jesse Winchesterのカバー曲ともなった「Black Dog」だったようだ。自分的にはこちらの原曲は聴いた事がなかったので今回改めて聴き比べてみたが、牧歌的なオリジナルに比べてBabe Ruthバージョンはそもそも8分まで拡張してある事から分かるように、牧歌的なスタイルから始まり、ピアノを取り込んで軽やかにクラシカルな風味で展開してからロックエッセンスを強化してジェニー・ハーンの歌声を発散、更にギターを被せて大盛り上がり大会のアレンジを施しているから素晴らしい。誰が聴いてもドラマティックに聴こえる美しき、そして叙情性の強いアレンジで全く別の曲に仕立て直している。アラン・シャックロックのギタープレイの叙情性がさほど評価されていないようだが、つくづく素晴らしいセンスの持ち主だと思う。そしてもうひとつの傑作「The Mexican」は「夕陽のガンマン」のテーマ曲のカバーとなっており、当時からすれば誰もが知っていた映画とテーマ曲で、これもまた人気を博した要素のひとつとなったらしい。しかもシングルカットされていたから余計に知名度は上がっていった事だろう。ロック的に聴いているとアラン・シャックロックの器用さが目立ち、ラテンと言うのかスティールギターと言うのか、およそロック界では聴かれないテクニカルなスケールとフレーズがそこかしこで鳴らされている。それを持っても普通にロック的に歌ってしまっているジェニー・ハーンの歌も素晴らしいバランスで成り立っている不思議さ。終盤までワンパターンと言えばワンパターンで攻め込んでくるBabe Ruthでは珍しい楽曲かもしれない。最後の「Joker」はエレピからコンガが鳴り始め、そこに歪んだヘヴィギターのリフが炸裂する全く普通ではあり得ない展開が施され、ジェニー・ハーンとアラン・シャックロックのツインボーカルでかなり異質感の漂うハードプログレッシブ・ロックをパワフルに奏でている。途中からコンガが強調され、またヘヴィギターも暴れまくり、怒涛の音の洪水が重ねられて終焉を迎える圧巻の一曲で締めてくれる。

 1995年頃にドイツのレパートワーからCDで再発され、その際にはボーナス・トラックとして「The Mexican」のシングルバージョン、単純にオミットして短くしたもの、と「The Mexican」から「夕陽のガンマン」部分を抜粋した「Theme From For A Few Dollars More」のシングルバージョンが収録されていた。その後は2007年にリマスタリングされたようで、今回はこのリマスター盤を聴いていたが、当然の事ながら随分とクリアで輪郭のはっきりした音に生まれ変わっており、またベースの音もはっきりと出てきたのでBabe Ruthの妙なグルーブがより一層楽しめて聴けた。この辺はボーナス・トラックも付けられていないので良し悪しあるが、個人的に大好きなバンドのアルバムなので音が綺麗になってくれただけで有り難く聴いていた。YouTubeではいくつかの当時のテレビでのライブ映像も見られるので、昔じゃ幻でしかなかったジェニー・ハーンの動く姿が見られるのも素晴らしい。





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フレ
Posted byフレ

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