Free - Highway +6

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Free - Highway +6 (1970)
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 昔のロックバンドの寿命は何となく数年から長くても10年持てば御の字程度のものだった。少なくともロック全盛期の60年代後半から70年代はそれくらいの寿命の短さながら、大きな花火のようにドカンとぶち上げて一気に沈んでいくパターンも多く、また、無茶苦茶濃いアルバムやライブ活動を残しながらも実は数年程度しか仕事していなかった有名バンドも数多くある。クリームはあれだけロック史にインパクトを残しながらわずか3年程度の活動、ジミヘンも同じくらいだし、ジャニスにしてもドアーズにしても皆そんな感じで、英国ロック史の黎明期に於いては数年の間に1枚アルバムリリースして解体していったバンドも多数、それこそが宝庫としてマニアには喜ばれているが、そう思うとストーンズなんてのは驚異だ。ビートルズだって8年程度、その他の60年代のマージービートバンドはもっと短命、クリムゾンだって5年程度。それでも今でもロック史に残るアルバムやバンドと言えば彼らの名は外せないだろうし、それがその短期間に出てきた作品や伝説だ。本日のお題のフリーにしても1968年初頭にアルバムデビュー、1971年には空中分解、その後再結成したもののまた1973年には解散しているからその程度の期間しか活動出来ていないが、それでもこれほどの信者が日本にはいるし、世界中にもいるだろう。

 Freeの1970年リリース4枚目のオリジナルアルバム「Highway」はもう絶頂期に録音されているからポール・ロジャーズにしてもアンディ・フレイザーにしても才能溢れまくっていた頃、ポール・コソフのギタープレイも最高のブルースが聴けるぜ、と思いきや、意外な事にここでのフリーはあの衝撃のブルースロックバンドとはやや趣が異なる。既に初期の重々しいブルースロックからは逸脱して、新しい方向性や楽曲のセンスを大事にしたクリエイティブな音楽性に向いているので、当時からアルバムの評価は芳しくないようだ。その割にヒット曲も幾つか放っているので決して売れなかったワケでもなさそうだが、当時のリスナーが求めていたフリー像からするとやや大人しく静か目でメロウな作風が多い事を好まなかったのかもしれない。その分ポール・ロジャーズの歌声の充実ぶりは色艶たっぷりに聴けるので、その意味での評価は高まったようだが、既に「Alright Now」というヒット曲を放ったバンドに期待するアルバムにしてはやや地味だったか。中身はかなりの傑作だと自分では思っているし、今回聴いてても改めてしっとりと細かい所までよく練り込まれたプレイが聴けるのに驚いたくらいだ。

 冒頭の「The Highway Song」はオールドタイプなR&Rパターンで始まり、ピアノまで転がしてくれるアルバムの出だしとしては期待したくなる曲だが、何の展開もなく、そのままのオールドタイプなR&Rで進んでいくあたりがやや中途半端感を出しているか。ポール・コソフの艷やかなギターソロプレイの音色は涎モノの魅力をそこだけ放っているが、それもギター好きな自分だけかもしれない、あまりにも普通に描き切ってしまった曲。しっとりとノスタルジックさを味わえる良い曲なのは間違いない。出鼻をくじかれた感があるものの、その次にはこれぞフリーとばかりのポール・コソフ作曲の「The Stealer」が炸裂してくれるのでようやく来たか、と言った感じだが、その実それほどヘヴィな楽曲でもないしギター弾きまくりバージョンでもないので、アルバムで聴くとこじんまりと収められているようにも聴こえる。それでもこれこそフリーの醍醐味、とばかりにギターソロの強烈さはやはり音色とレスポールの妖絶さに惹き込まれ、ポール・ロジャーズの熱唱がそこに追い打ちを掛けるし、最後のソロも良い音してます、ホントに。これこそレスポールの魅力でハイポジション部に移動した時の1音半チョーキングのカッコ良さと言ったらない。そしてまた静かめな楽曲の「On My Way」になり、どうにもこのアルバムはロックノリに乏しい印象を与えてしまうが、この歌い上げ楽曲もフリーの得意技でオルガンが印象的だが、アンディ・フレイザーの手にかかるとその時の気分でこういう曲が増えてしまうのかもしれない。その流れを組んでのピアノをフューチャーした「Be My Friend」も知られた静かな楽曲で、ノリはフリー独特のリズムが聴かれるし、メロトロンまでも導入しているが、やはり大人しいイメージが付きまとう。ポール・ロジャーズの歌を明らかに聴かせる面に徹しているようにも思うし、アンディ・フレイザーを含めてバンドの新しい方向性の模索の成功例かもしれないが、ここでの救いはやはり哀しみのギタリスト、ポール・コソフの泣きのプレイとそこに掛かる終盤のポール・ロジャーズの熱唱ぶりの絡み、そしてサイモン・カークのドタバタ感情溢れまくりのドラミングが堪らない。更にアンディ・フレイザーのピアノが絶妙に鳴っているのもあるから、これこそフリーか、納得してしまうA面最後の曲でしっかりと締められる。

 B面も冒頭から静かめな「Sunny Day」でしっとりムードはそのまま、ポール・コソフではない、おそらくはアンディ・フレイザーのギターが顕著に目立つ歌もの作品。そしてご存知「Ride On Pony」のドタバタノリが始まる。スタジオ盤でのフリーはどうしてもやや線の細いバンドの音がそのまま収録されてしまい、この曲でもやや物足りないのは自分がライブバージョンに慣れすぎているせいだろうか、それでもこのグルーブ感とポール・ロジャーズの熱唱ぶりに加え、いつまでも絶賛のポール・コソフのプレイに痺れる。正にフリーを代表するノリとギタープレイ、歌唱力とアルバムのハイライト曲。するとピアノが鳴り響き、またもや静かに聴かせる曲「Love You So」が奏でられ、ポール・コソフのギターが遠くで泣きながらメロトロンも加えられる。美しい曲だと素直に思うが、これはサイモン・カークの曲らしいので、バンド全員でそういう方向性を目指したアルバムだったと言う事のようだ。その流れのままやや硬質なギターアルペジオで始まる「Bodie」は英国風味たっぷりの歌もの作品。こうして聴くとアンディ・フレイザーのセンスは実はフリーのある側面だけで、大きくイメージに貢献していたのは他のメンバーの曲だったのかもしれないとすら思う。ただ、ベースプレイのユニークさはここでも健在でボワンボワンとした音でしっかり聴ける。アルバム最後は「Soon I Will Be Gone」とこれまた寂しさの募る曲だが、最後の曲らしく壮大なコーラスワークも交えてゆったりとしたリズムで飾ってくれる。面白いことにこれだけイマイチ静かな曲ばかりだと書きながらもここまで聴くともの凄くフリーを味わったという充実感がある。どれも出し過ぎず適度に聴かせ、曲のクォリティはハイレベルで維持し、必要な楽器群をきちんと鳴らして聴かせる、それで良いのだ、と。ライブはライブでブルース・ロック面を打ち出していけば良いし、となるほどな感覚。素晴らしい。

 2002年にリリースされたリマスター&ボーナストラック&紙ジャケバージョン「Highway +6」では音の良さもさる事ながら、ボーナストラックが嬉しくて聴きまくった。「My Brother Jake」はシングルとして有名だが、元々は1970年なのにモノラルバージョンでリリースされ、ここではそのモノラルが収録されているが、アメリカ盤「Free Live!」にはステレオバージョンが収録されていたのでモノステ違い。そのB面の「Only My Soul」が続けて収録されているが、こちらの方は見事にフリーらしいグルーブのある作品で、もしかしたら音が良いとフリーの面白さは半減してしまうのかもしれないので、モノラルバージョンがオススメか。そしてBBCセッションから「Ride On Pony」と「Be My Friend」が出てくるが、この「Ride On Pony」の重さとドタバタ感はアルバムバージョンの比じゃないくらいに超絶ヘヴィでカッコ良く、これぞフリーの醍醐味とばかりのパワフルな演奏が聴ける。ライブになるとリズムが倍ほど遅くなるバンドもそうそうないだろう。同じように「Be My Friend」もヘヴィさを増しているので聴き応え満点だが、この「Be My Friend」は当時BBCラジオで放送されなかったテイクを収録しているようなので、それもまた面白い収録でマニア心をくすぐる。そして馴染みのない「Rain」はボックスセットがリリースされるまでは未発表曲だったが、ここではやはりそれらしくどこか未完成チックな中途半端な感じに聴こえるので発掘そのものに価値がある一曲だろう。最後がこれまた強烈中の強烈な「The Stealer」のUSシングルミックスバージョンで、冒頭からポール・コソフのチョーキングソロが入ってくるロックファン向け。ミックスそのものが派手でワイルドなのでギタリスト諸氏は大抵こちらを好むだろうし、エンディングはアルバムバージョンに比べてちょいと長く熱いプレイが聴けるので最強。

 2016年にもリマスタリングされているので、またクリアで分離の良い音質で聴けるようになっているらしいが、フリーの場合はそこまで分離が良いのが正しいのか、モノラルにまでミックスを極端にした方が良いのか分からない。ただ、そうして色々な取り組みが行われて歴史的に残されて忘れられないように引き継がれていくのは良いと思うし、たった数年しか活動してなかったバンドがそこまで熱量を持って迎え入れられるのも素晴らしいと思う。自分も何十年も聴いているが未だに飽きないし、まだ発見するし聴いてて痺れるし熱くなってくるのだから凄い。





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フレ
Posted byフレ

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