The Spencer Davis Group - Their First LP

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The Spencer Davis Group - Their First LP (1965)
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 この50年くらいの残された音楽の録音技術の進歩たるや恐るべし勢いだとつくづく思う。今でも50年代や60年代の音源を聴く事も多いし、ロックの偉人達もこの頃に最初の録音を行っているからファーストアルバムやデビュー作品は大抵この頃に録音されたソースになる。それを今聴くと、とことんまで録音技術が古くて聴きにくい面があるのは当然、それでいながら一方ではアーティストの個性や特性が強烈に聴けるのは面白く、録音がシンプルだから当人たちの持つポテンシャル、実力がそのまま録音されるに等しいからだろう。ロバート・ジョンソンなどモロにギター一本弾いて同時に歌っているそのままをマイクで録音したままが今でも聴けるあのレコーディングだから、どれだけロバジョンが凄かった事か分かるだろう。今ああいう録音スタイルで短時間で出来る人は多くないし、出来てもあそこまでの白熱ぶりが出せないとすら思う。今回も1965年リリースのアルバムなので、聴いた瞬間から古い音で、どうにも聴きにくいと不満げに思いつつも、出てきた音を聴いていたらそれがどうでもよくなってしまうくらいに凄かったので、考えを改め、やはりどの時代であっても良いもの、凄いものはそのまま凄いのだ、と。

 The Spencer Davis Groupの1965年リリースデビューアルバム「Their First LP」。当然ながらのモノラル録音で、その前にシングルでリリースされていた曲とアルバム収録曲で構成されているが、何と言ってもThe Spencer Davis Groupと言えばスティーブ・ウィンウッドが世間に初めて出てきた時のバンドで、その凄さを見せつけるかのようなアルバムにしか聴こえない。冒頭の「My Babe」の始まりからして時代を感じさせるどこにでもあるような普通の3コードのR&Bで歌が始まっても普通にこの頃のバンドの姿そのままなので、大した事ないじゃないか、と思っているとそれは単なる前兆で、途中からスティーブ・ウィンウッドのとんでもない歌が炸裂してくる。笑うしかないと言うくらいにぶっ飛んだ器の違いがあからさまに出ており、この曲のこういう構成でリスナーをぶっ飛ばす策略も見事に当時も成功しただろうと思うくらいの凄まじさ。一気に目が覚めてアルバム丸ごとをきちんと聴こうという気になるし、実際聴いていると、バンドの曲や音はこの時代そのままなのでそこまで特筆すべき点も無さそうだが、ただ、ソリッドなギタープレイやピアノも妙にセンスを感じるので、コレも多分スティーブ・ウィンウッドが弾いているプレイだろうと思いつつ、やはり歌声の強烈さに耳を惹かれる。この当時まだスティーブ・ウィンウッド16歳らしいが、もっとも大人になろうが子供時代だろうが才能の話なので幾つであってもこの凄さは最初からだろう。兄のマフと一緒にバンドに参加していたが、この才能を身近に知っていた兄ならば当然バックサポートに回ってでもこの才能を活かしきっていく方向を探しただろう。そのひとつのある意味餌食がスペンサー・デイヴィスで、本人もそこそこマルチに演奏して歌も歌っていた人なのに今じゃ全てがスティーブ・ウィンウッドの踏み台としてしか認識されていない始末。ここまでの天才と関わってしまうとそれもしょうがないが、ある意味不遇。

 何が凄いか、このしょぼいバックとバンドの演奏でしかない中、黒い歌声と言うだけでなく、感情豊かな表現に恵まれていたり、よく聴いてみればやはり抜けの違い、粘り具合のような白人独特の部分はそのまま残されているから突出した歌手と言うだけかもしれない。ただ、それも凄い。更に楽器を演奏する才能にも恵まれているし作曲も既にこの時点で「Here Right Now」を提供している。曲調自体は普通に3コードなブルース作品なので才覚を出しているものでもないが、歌メロと歌唱を聴いているとやはり凄いなと単純に思う。可哀相な事にスペンサー・デイヴィスも割と歌っていたりするので、その対比が良くも悪くも耳に付き、それを売りにしていた部分もあったかもしれないが、到底スペンサー・デイヴィスだけでは成り立たなかっただろうとは感じる。「I'm Blue」では当時ポップスで売れていたミリーがほとんど歌っているが、これもまた特徴あるゲスト出演で、歌に続いて絶妙に弾かれるギターソロはスティーブ・ウィンウッドだろうか、とても60年代とは思えないスムーズで今でも通じるセンス溢れるギターソロが聴ける。もしかしたらスペンサー・デイヴィスかもしれないが、それでも見事なプレイだ。そういえばこのアルバムの大半は往年のブルースメンなどのカバー曲ばかりなので、この時点でそこまで原曲との違いも無さそうには思うが、その中でスティーブ・ウィンウッドの「It hurt Me So」がもう一曲入れられているのも快挙。そして、他の曲とのクォリティの差がない、どころか逆に突出した感すらある、後々に聴かれるようなスティーブ・ウィンウッドらしさの片鱗すら感じられるセンスの良さが出ている。リズムもモダンだし、オルガンピアノ中心ながらメロディアスに歌われ、楽曲構成もそれらしくムードが出されているし、単純に良い曲がアルバムの最後を飾っているのも自信の証明か。凄いな。

 2013年になって日本からThe Spencer Davis Groupのリマスターシリーズがリリースされていき、その時にボーナストラックとして当時のシングルAB面などが9曲追加になったバージョンが今は標準的になっているようだ。どれだけリマスタリングしてもそこまで変わらない気もするが、スティーブ・ウィンウッドのこの歌声が突出してくるならばリマスター盤をきちんと聴く意味もあるだろう。「It's Gonna Work Out Fine」など、ホントに黒人歌手が歌っているようにしか聴こえない。この後のスティーブ・ウィンウッドの歴史を既に知っている身としては、この類稀なる才能をもっともっと違う方向で発揮してもらいたかったとは思うが、この時点でのスティーブ・ウィンウッドの凄まじさは存分に味わえる作品。





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フレ
Posted byフレ

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