Humble Pie - Performance Rockin' the Fillmore

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Humble Pie - Performance Rockin' the Fillmore (1971)
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 ロックやソウル、ポップスも然りだがその辺りの音楽を聴いているとやたらと上手い歌を歌う人や演奏が凄く上手い人が当然のごとくたくさんいるのも分かるし、プロである以上それが普通だから当然と言えば当然ながら、その中でも更に凄さを持つ圧倒的な才能を発揮している人達も多い。一方で名盤や良い曲と称される作品は決して上手いだけではなく、音楽的なものや歌唱、メロディや楽器の使い方などそもそも感動できる瞬間が多数ある傾向が多い。名盤=多数の人が称賛するアルバム、という意味では当然そうなるだろうし、良い曲も同じだろう。有り体に言えば歌が上手い歌手、楽器の上手いミュージシャンはプレイヤーとしての才能に優れているワケで、クリエイティブな才能とは別の話。そしてクリエイティブな才能でも音楽を学び理論的にきちんと把握して作り上げる人と、本能的にそういう作品が出来上がる人、そしてその両方を兼ね添えている天才もいるが、ここに楽器の音色を全て把握しているからこそ作り上げれるクリエイターもいる。様々なアルバムを聴いていると、凄いな、と思う反面、曲がもっと良ければ、良い曲が多ければ、という作品もあれば、逆もあるのが面白い。面白いと言っては失礼で、それがセールスや後の知名度に大きく反映される要素だとも思っている。

 Humble Pieの代表的名盤として誉れ高い「Performance Rockin' the Fillmore」は1971年5月28、29日のフィルモア・イーストでの昼夜2公演づつ、計4公演のライブレコーディング素材からベストテイクを抽出して作られたライブアルバムだ。まだ初期メンバーのピーター・フランプトンがギターで参加している時期で、一方のスティーブ・マリオットが主導を取ったハード&ブルースロックに舵を切った時代性を考慮してみればピタリと当てはまる白熱のプレイがこれでもかとばかりに聴ける。バンドとしてはピーター・フランプトンの作風を前面に出しても売れず、二人の融合アルバムでもイマイチ、スティーブ・マリオットの志向するハードロック&ブルース路線が世間的に持て囃されていたのもあって、そっちにシフトして奮起してアメリカを制覇しにかかったのが前作「ロック・オン」と本ライブアルバムだとも言える。この後、ピーター・フランプトンがバンドから離脱するのは大いなる音楽性の違いからだが、この時点で既に離脱を決めていたからこそここまでハード&ブルース・ロック路線を目一杯スティーブ・マリオットも発揮できたのだろうし、ピーター・フランプトンも単に嫌いじゃないからギタリストとしてプレイしまくるという選択をしたのだろう。どの曲もどの曲もピーター・フランプトンのギタープレイの艶やかさがこれだけ泥臭いブルース・ロックの中でまるで異なる世界を見せてくれるように弾いている。いわゆるブルーススケール一辺倒のフレーズは皆無で、メジャースケール中心のプレイが飛び出してくるのだから面白い。しかも流暢な速弾きと言うか流れるようなフレーズが得意気にプレイされてくるから目立つ事この上なく、曲中はマイナーなリフやフレーズなのだからそのギャップもこの時期のHumble Pieらしい、と言うかピーター・フランプトン時代の特徴。更にこのフィルモア・イーストで行われたライブ曲はほぼ全てがカバー曲のアレンジばかりでオリジナルアルバムに未収録の曲中心に演奏されているのも、ブルースロックバンドへ舵を切った証だろうか、自分たちがやりたい曲が自分たちのオリジナル曲に無かった、とも捉えられる珍しいパターンのライブアルバム。

 冒頭の「Four Day Creep」はアイダ・コックスなるシンガーの曲のカバーで、まださらりと演奏されているが始めからピーター・フランプトンのギターソロが際立ち、ハッとする面が大きい。「I'm Ready」はアルバム「大地と海の歌」に収録されているが、ウィリー・ディクソンのあの歌詞を持ち込みつつも曲は自分たち流のブルース・ロックという変わったパターンながらここでは更に拡張したヘヴィブルースでかなり長尺に仕立てている。続いての「Stone Cold Fever」は唯一のHumble Pieオリジナル曲で当時の新作「ロック・オン」に収録されているが、これもまたヘヴィに仕立てられたスティーブ・マリオット絶叫の歌とそれらしいギターのリフがカッコ良いナンバー。そして23分半にも渡る「I Walk on Gilded Splinters」はDr.Johnの曲のカバーらしいが自分は原曲を聴いたことないので、どうなってるか分からないが、ここまで無茶苦茶なインプロヴィゼーション楽曲ではないだろうし、そもそもこんな風に展開されるにふさわしい曲とは思えないが、見事なまでにバンドのアドリブプレイがやや冗長ながらもひたすら繰り広げられ、ちょこっとだけ歌も入るが後はライブらしい仕上がりの本作の目玉でもあり嫌われる一曲でもあるか。そしてマディ・ウォーターズで有名な「Rollin' Stone」も「ロック・オン」に収録されているが、これはもうHumble Pieバージョンとして確立してしまった感ある程のバージョンで、観客との掛け合いまで聴ける16分強の全くのブルース・ロックバージョンで、最強のライブバンドとして君臨した一曲。そしてレイ・チャールズの「Hallelujah I Love Her So」はピーター・フランプトンのギターソロがキレまくりの素晴らしさで泥々のライブの中でずっと光り輝くような美しさを保ってくれている。最後の「I Don't Need No Doctor」もレイ・チャールズの作品だったのか、いずれもオリジナルは知らないが、既にハンブル・パイの曲としてしか聴けていない自分がここに居る。

 とにかくどれもこれもスティーブ・マリオットの歌が熱くて凄いし、ピーター・フランプトンのギターが真逆を行く清涼感を出しているヘヴィなライブブルース・ロックアルバムだが、カバー中心だからとも言えるが、良い曲が無い。良い演奏素晴らしい演奏熱い演奏で占められているので文句なしの名盤として語られているが、良い曲での良い演奏が無いのでアルバムとしては結構聴き辛さもある。それはもちろん長尺アドリブ曲が多いからそのダラけ具合が耐えられない、熱くてテンション高いばかりで疲れるなどの贅沢な理由もあるだろうが、一番は曲そのものが面白みに欠ける点だと思っている。ライブだからその熱気を伝えたアルバムとしては評価が無茶苦茶高いのは分かるが、曲が、と言うところに於いては恐らくこの後のクレム・クリムソン時代の楽曲の方がしっかりと出来ている面も大きいだろう。ただ、名演奏のライブアルバムな事に変わりはないし、そのプレイぶりで聴いている人をノックアウトする、虜にするパワーは伝わってくるライブアルバム。しかも2013年にはその4公演分の丸ごと完全収録の「Performance - Rockin' the Filmore The Complete Recordings」の4枚組CDまでもがリリースされたので、ライブの全貌が4回楽しめるようになった。ここで抜粋されたテイクが何故選ばれたかもよく分かるし、面白いのは4公演ともこの7曲からの抜粋しか演奏していないあたりで、ライブアルバム制作を視野にライブを行っていたのも分かる。更に曲順も実際のライブではほぼ固定されているので、今の時代ならば並べ直して聴く方が良いのかもしれない。当時はLP2枚組、片面最大23分程度の縛りもあっただろうから実際には最後に演奏されていた「Stone Cold Fever」が3曲目に入っていたり、「Rollin' Stone」と「Hallelujah I Love Her So」が入れ替わっていたりする。それでもアナログ時代から名盤とされてきたのだから問題ないだろうが、まさかここまでのソースがしっかりとしたクォリティで出てくるとは思わなかったので、それはそれでかなり重宝して聴きまくったものだ。良い曲が無い、と言い切っているが何の事はない、それでもこの手の白熱ライブは大好きなのでどれもこれも聴きまくっているのは変わらない。





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フレ
Posted byフレ

Comments 2

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おーぐろ  
No title

原曲を知らなければハンブル・パイのオリジナルかと思うくらい
アレンジもプレイもハマってますよねぇ 
ちなみに「I Don't Need No Doctor」はW.A.S.P.の曲だと思ってました(笑 

2021/03/07 (Sun) 15:18 | EDIT | REPLY |   
フレ
フレ  
>おーぐろさん

最近はどっちでも何でも良いか、とも思います(笑)。

2021/03/07 (Sun) 22:13 | EDIT | REPLY |   

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