The Smiths - The Smiths (Remastered)

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The Smiths - The Smiths (Remastered) (1984)
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 昔々、どうして攻撃的で直線的なロックそのもののパンクとチャラチャラと根暗で陰鬱で軟弱な世界のニューウェイブが常に同じ括りで語られているのが不思議だった。ポスト・パンクと呼ばれたジャンルの存在も不思議で、直訳すればパンク直後のパンク、となるが、出てきた音はこれもまた陰鬱で難解で攻撃的な姿勢はあるものの音としては妙に暗いゆったりとしたリズムの音の印象で、パンクのあの初期衝動は最初だけだったのか、結局パンクとは表街道を走るメジャーポップ路線の裏側にあるアンダーグラウンドの世界を指すのか、とすら思っていた。今でもそのあたりの括りは進化系ではあるものの明らかにリスナーの異なる音楽ジャンルじゃないかと思っているが、そもそもがSex Pistolsのジョン・ライドンがP.I.Lで出したサウンドが発祥だろうし、The Damnedの進化系がニューウェイブだし、The Stranglersの発展した世界がインダストリアル、ノーウェイブだろうしとパンクの元祖バンド達の生み出した世界だからおかしくはない。ただ、聴く側は好みが明らかに異なるだろうというだけ。

 The Smithsの1984年デビューアルバム「The Smiths」は当時からニューウェイブとして語られ、それもポスト・パンク的なポジションから出てきたような印象すらあったが、聴いてみて一瞬で拒絶した経験がある。まだパンクの初期衝動が好きで若さに溢れていた頃にこの軟弱にも聴こえるサウンドを聴いてしまうと到底耳にする事の出来ない音だった。今でこそこういう音だし、ギターの広がり感やモリッシーの唯一無二の世界観の存在は貴重なバンドの代表でもあろうとは理解するが、好き嫌いで言えば好きではないし、好んで聴く音でもない。それなのに何が好きじゃないかをじっくりと解明するために結構な回数聴いているのがThe Smiths。その甲斐あってか割と聴けてしまうし、こういう音だった、曲だった、と思い出してしまうくらいだからその曲のキャッチーさ加減はよく出来ているのだろうと思う。そしてかなりバリエーションに富んだ作風を奏でていたのも何度も聴いていると分かってきて、ジョニー・マーのギターの使い方の上手さに舌を巻く。この頃こういうギタープレイを全面に出していたのはU2かポリスか、即ちエッジかアンディ・サマーズか、の所にジョニー・マーだ。冒頭の一瞬で拒絶したのはもちろんモリッシーの歌い方、歌声に、歌詞の噂についてもやや拒否反応もあったから。それに加えてジョニー・マーのギターの素晴らしさは後に分かった話で、当時は歪んだ音でガツンとくるハードロック系のギターサウンドが好きだったから拒絶してた面もあり、もうちょっと耳が肥えてから聴けば素直に聴けたのかもしれない。ただ、今聴いていてもやはりどこかBGM的に流して聴いてしまう曲が多く、それだけソフトで馴染みやすいメロディと演奏を奏でていたのだろうから、ガツンとは来ない。

 まるで異なる聴き方として、こういう音を出すバンドは他にいるかとなれば居ないし、この歌にしても唯一無二だし、その意味でさすが英国のニューウェイブの代表、80年代の英国はスミスありき、その後はThe Stone Rosesだ、との文句も確かに、と納得する。そんな知識と感覚のまま久々に聴いているが、冒頭の静かな曲の甘いメロディやらキャッチーな楽曲に続き、やや激しめにポスト・パンク的に聴ける「Miserable Lie」がオシャレでドライブしていてややハッとする楽曲。その後はまたこれぞザ・スミス的曲が続き、やはりジョニー・マーの音の広がりのセンスの良さが響く。その中での「This Charming Man」のギターイントロのカッコ良さと曲の組み立てのセンスの見事さは突出している。リズムはモータウンながらもこの歌い方とメロディ、それでギターが空間系とこれまでに存在しなかった曲が繰り広げられているセンス。この曲でリスナーを多数掴んだのも納得の出来映え。その勢いを踏襲してか「Still Ill 」もビートの利いた展開で進められ、「Hand In Glove」は王道ロック的な雰囲気すら持つ良いメロディの楽曲でバンドの幅広さを物語っているし、その幅広さは次の「What Difference Does It Make」でも更に増長され、「I Don't Owe You Anything」のスミスらしい曲へと繋げられる。最後は「Suffer Little Children」と妙なバラードソングで終わりとなるが、今に至るまでリマスタリングされた事はあるようだが、ボーナストラック付きやデラックス・エディションはリリースされておらず、純然たるアルバムとして存在しているらしい。この辺はある意味男気あるバンドとも言えるが、元々がラフ・トレードなのでそこまでのソースが残されていないだけかもしれない。

 久々にじっくり聴いたがアナログ時代B面の後半の方が楽しめたかな。それでもやはり苦手なスタイルには変わりないし、今も昔も苦手な部類だ。それでも曲の良さとジョニー・マーのギター云々に対する感覚はこれもまた同じく、自分ではこういうギターを弾けるとは思えないし取り組むこともないだろうが、さすがに天才の閃きを感じるセンスをバシバシと聴ける素晴らしさがある、衝撃のデビュー・アルバム。





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フレ
Posted byフレ

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