The Damned - The Black Album (Deluxe Edition)

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The Damned - The Black Album (Deluxe Edition) (1980)
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 ロンドンパンクの波は数年間だけ一瞬輝いたのみでシーンはすぐに移り変わり、また変貌していったのでその実、パンクはこの時期だけで終わった、とも見れる。その後地味にそのエッセンスを活かしながらシーンでは少しのバンドが存在している程度には根付いているが、今でも初期ロンドンパンクバンド達の伝説は語り継がれているし、それ以上の衝撃を与え切れていないかもしれない。ニッチな世界であれば近年のパンクバンドも相当尖っているのもあってカッコ良いので一概には言えないが、どうしたってパイオニア連中は強い。そのロンドンパンク勢でもホントにパンクだったのはSex Pistols、The Damned、The Clashで、The Stranglersはスピリッツはそのまま以上だが、音楽的にはあまりにも高尚すぎる、と言うか既にニューウェイブ、インダストリアル的方向にあり、The Jamはパンクと言うよりもモッズだった。その3つのバンドを比べてみてもSex Pistolsはアルバム一枚で終了、The Clashは早いウチにレゲエやダブと融合し、勢いだけのパンクだけではない方向へ転換、The Damnedもバンドが安定しなかったのもあるが、早々にニューウェイブな方向を持ち込んでいったが、それでも1980年頃なので、最初にパンクで出て来て一番長い期間パンクをやってたバンドだったとも言える。そのThe Damnedの1980年リリースの4枚目のアルバム「The Black Album」は、後のバンドの方向性を決定付けた新しい試みを奏でた作品として刻まれている。

 アルバム「The Black Album」はスタジオ録音が1枚半分あり、最後のD面はライブ寄せ集めで過去のThe Damnedのスタイルをおさらいしているが、その1枚半のスタジオ盤も、C面の「Curtain Call」が17分強を占めているので、実質アルバム1枚分に「Curtain Call」の抱き合せとなり、中途半端な長さで出来上がってしまったとの印象。2005年に「The Black Album (Deluxe Edition)」としてデラックス・エディションがリリースされた際に数々のスタジオアウトテイク曲、未発表楽曲が追加されていたので、真の2枚組アルバムとしてThe Beatlesの「White Album」の対抗作品としてリリース出来たのかもしれない。ところが1980年当時に上記のような中途半端な収録曲数でリリースされたのは、今聴き直してみれば分かるが、アルバム収録のレベルにある楽曲までには至らず、また、そもそも収録されている楽曲群もバリエーション豊かな点はともかくながら、そこまで粒揃いのレベルにない作品もあり、少々背伸びしてしまった感もあったようにも思う。一方、ボーナストラックに収録された楽曲群を目一杯2枚組アルバムとして未発表にしないでアルバムのあちこちに散りばめて収録していれば、きちんとした2枚組アルバムとして評価されたかもしれないが、いまさら何を言っててもそれは単なる夢物語。実際にはベストチョイスした楽曲を集めたらスタジオ盤で1枚半分となり、最後は勢いあるダムドのライブそのままを聴かせて新しい世界についてこれないリスナーを引き戻している作りとしてリリース。

 その甲斐あってか、アルバム「The Black Album」は自分もそうだがThe Damnedの歴史の中ではかなり上位を占める傑作アルバムに仕上がっていると思う。パンクバンドの作品として聴くとあまりにもバリエーション豊かにシンセサイザーやピアノまで入るのだから、似つかわしくない作風だし、ダムドのあの勢いは何処へ行ったのだ、と言いたくなる面もあるが幾つかはそういう不満を解消してくれるビートの利いたダムドらしい「Hit or Miss」のような曲もあるのだから文句も言い切れない。それよりもアルバム冒頭を飾る「Wait for the Blackout」のようにこれまでに聴いた事のないようなサウンドを奏でているダムドのセンスに魅力を感じるべきだ。「Dr Jekyll and Mr Hyde」などは墓掘り人夫だったデイヴ・バニヤンそのままの姿が表れているかのような作風で、音楽的に相当深化した曲が幾つも収録されている点に気づくし、そこが気になってみれば、その集大成が「Curtain Call」に詰め込まれており、この深みが出来てしまったからこそThe Damnedと言うバンドが以降はニューウェイブ、ゴシック・ロックの筆頭にもなったと思える。まさか数年前におバカなスタンスで騒いでいたパンクバンドがこれほどに深淵で荘厳なサウンドと歌詞、パフォーマンスを聴かせるなど誰が想像出来ただろうか。意外な才能が組み合わされたThe Damnedのもうひとつの最高傑作として名高い楽曲。その素晴らしさに浸った後のD面では勢いありまくりのパンクそのままのThe Damnedのライブが聴けるのだから振れ幅が広いし、奥深さを楽しめる素晴らしいアルバム構成。

 2005年にリリースされた「The Black Album (Deluxe Edition)」でのボーナストラックは本編に入っててもおかしくなさそうながらもあと一歩捻りが足りないと判断されたか、過去と未来を繋ぐような作風の「White Rabbit」、シンセの入ったパンクスタイルを模索したかのような「Rabid (Over You)」、何かのサウンドモチーフかと思われるようなギター中心のインストサウンドで構築されている「Seagulls」はやや実験的すぎるキライがあったか。「The History Of The World (Part 1) (Single Version)」は文字通りにシングルバージョンだが効果音不足やミックス違いが聴かれるので、アルバム収録前のバージョンから作られたようにも聞こえる。そのB面には「I Believe The Impossible」と「Sugar And Spite」が収録されており、前者はどうにも中途半端なミドルテンポのロックだがラフすぎるのと未完成っぽくもある楽曲、後者もややサイケがかったイメージ曲のようで、いずれもキャプテン・センシブルとラット・スキャビーズで録音した作品。「There Ain't No Sanity Clause」はパンクそのままのダムドの勢いあるスタイルが聴ける爆音作で、同じように爆音と言えば先のライブと同じシェパートンでの模様から収録されたMC5のカバー「Looking At You」が凄い。ここでしれっと入っているのが不思議なくらいに強烈なライブなのでぶっ飛ぶ事間違いなし。最後は「White Rabbit (Extended Version)」の拡張バージョンで締められたボーナストラックも楽しみ存分なボリュームたっぷりのデラックス盤に仕上がっている。オリジナルアルバムそのもののバラツキ感もありつつ、ボーナストラックも混ぜて聴いていると更に幅広い展開を広げていた当時のThe Damnedの姿が垣間見れる気がする。そんな葛藤があっての以降のスタイルへの変貌だったと知るとより一層楽しめていくだろう。そこまで考えずとも単純にこのアルバム、深みを味わえる傑作です。





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フレ
Posted byフレ

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