Richard & Linda Thompson - Sunnyvista

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Richard & Linda Thompson - Sunnyvista (1979)
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 有象無象にプレイヤーがいるギタリストのポジション。そこで音を聴いて分かるプレイヤーになるのは相当の個性が必要になるし、それも一曲二曲の話ではなくキャリアも曲数も含めて知られるほどでなければ、またいつでもその特性が素人にも分かるような個性が無ければ記憶されない。適度にロックを知っている輩に知っているギタリストの名前を挙げてもらうとどれくらいの数が出てくるだろう。10人くらいは普通に出てくると思うが個性的な特徴も含めて挙げ連ねてくれと言われるとそれも厳しいような気がするので、それだけ一般的な楽器でありながら個性を出すのが難しい楽器かもしれない。もっともどの楽器でもそれは同じだし歌にしても同じくなので後は曲調や組み合わせなど色々な要素があってのミュージシャンの評価となる。英国のロックギタリストとしては名が挙がらないかもしれないが、いつ聴いても不思議な音色のギターが特徴的だと自分的には思うリチャード・トンプソンはいつかきちんと制覇したいと思っているミュージシャンのひとりだが、なかなか要領を得ないのがこれまた難しくて深いギタリスト。それでも音色には特徴があるので先日も思い出した次第。

 Richard & Linda Thompsonの1979年リリース5枚目のアルバム「Sunnyvista」はこのジャケットからしてかなり尖った作品と想像できるし、一方ではかなり挑戦的なジャケットとも思えるので躊躇もしたアルバム。聴いてみればリチャード・トンプソンらしいギターの音色がどこでも鳴っているのは当然なので、なかなか聴き応えのある作品だが、当時は迷作とまで言われたらしい。これまでのリチャードとリンダ・トンプソンのアルバムはエレクトリックトラッドから発展してやや民族的な曲調も取り入れたあくまでもそっちの世界に近い音作りだったが、前作「First Light」あたりからアメリカ人とのセッションを入れてロック的融合を果たし、本作ではミュージシャン関係は英国人に戻しているものの楽曲のバリエーションがずいぶんと幅広くなっているので、リチャード、何処へ行くのか、と危ぶまれた作品のようだ。後追いで聴いている限りではそこまで迷走した作品にも思えず、きちんとバリエーションごとの音色と楽曲が仕上げられている傑作に近いとすら感じているが、確かに楽曲単位で好みも出るし深さが異なるのもあるかもしれない。所詮音楽はそういうモノだから何ら違和感は無いが、それでもこれがリチャード・トンプソンの作品なのかと思うとワクワクしてしまう作風もあってギタープレイと共に味わえる。

 冒頭の「Civilisation」から軽快なロック作品が飛び出して快活にロールしてくれるのがまず意表を突かれるし、このギターの音色は相変わらずのリチャード・トンプソン節で、それでもここまで歪んだ音も際立つしシンセサイザーの音も時代を反映しているので斬新。曲そのものは踊りたくなるレベルにキャッチーなのでオープニングにはばっちりのロック曲。続いての「Borrowed Time」はハードロック調と言われる場合が多いらしいが、今の基準だと到底ハードロックには聴こえないので、そのヘンの単語の使い方はやや異なるが、それでもギター中心の作風に仕上げているこれもロック色強い作品でカッコ良い。それでもこの時代にこんな妙なロックを聴かせながらハードロックだと言える作品もないし、単にギターがいつもよりも凝っててヘヴィに鳴らしている、という程度だろう。それでも曲はミドルテンポでどこかダイアー・ストレイツ風味もする。そして軽快なケイジャン的リズムで奏でられる「Saturday Rolling Around」も明るく快活でリンダの良さが飛び出してくるエレクトリックフォーク風味のある味付け。そういえば本作にはフェアポート・コンヴェンションからデイブ・ペグデイブ・マタックス、スティーライ・スパンからジョン・カークパトリックも参加し、更に鍵盤でラビットまでも参加しているので何かと昔の仲間との再会を果たした意味合いも大きいようだ。そのジョン・カークパトリックのアコーディオンが綺羅びやかにオープニングから飾ってくれる「You're Going to Need Somebody」も軽快でついつい踊りたくなる楽曲。リチャード・トンプソンのギターとの絡みもさすがにばっちりで、音色的にも近しいムードなのは機器やすさを増しているようだ。A面最後はスローリズムでシンプルな「Why Do You Turn Your Back?」で歌を聴かせる作風へと展開するも面白みにはやや欠けるが、アクセント的にはありな曲。

 B面は概ねリンダのボーカルがフューチャーされてガクンと雰囲気の変わる曲が並ぶが、リンダの歌声の場合はいわゆるトラッドフォーク系のクリスタルボイスではなく、やや粘り気のある歌声でもあるので先程までの軽やかさから湿ったムードへと変わっているようにすら思える「Sunnyvista」からスタート。続いての「Lonely Hearts」もしっとりしてリチャード・トンプソンのギターの音色が美しく響くバラード調の曲でロック路線からは大きく離れていくし、次の「Sisters」も歌もので聴かせてくれる作品。リチャード・トンプソンのギターソロがいつもながら個性的で無国籍感溢れる叙情性とでも言うのか、ホント、この人のプレイだと分かる音色。そして打って変わって時代を反映するかのようにファンクソウル系のリズムとパーカッションを使った「Justice in the Streets」が斬新なファンキーに聞こえてくる。特にリチャード・トンプソンがこういうのをプレイする意味もさほど無さそうだが、ギターを聴いていると、こんなファンキー曲で到底こういう風に弾くプレイヤーも見当たらないので何とも奇妙なサウンドを耳にしている気分。アルバム最後を飾るのはこれまたリンダの雰囲気たっぷりのバラードソング。A面の警戒で快活なロック風作品からB面は聴かせるサウンドとアルバムが構成されており、それでもどれでもリチャード・トンプソンのプレイに耳が惹き付けられるものの、曲としても色々と試した作品だったようだ。

 1992年にCDで再発された時に当時のシングルだった実にスタンダードなリチャード&リンダ・トンプソンらしい「Georgie On A Spree」が追加されている。その後は2020年にボックスセット「HARD LUCK STORIES 1972 - 1982」がリリースされた時に多数の未発表マテリアルが追加されているようだ。夫婦デュオでしばらく上手く続いていたがいつしか二人は離れてユニットも解消し、80年代を通過していくが、個人的にはこの活動はずいぶんとリチャード・トンプソンを成長させたとも思えるし、思い切り飛び出す瞬間を阻害したとも思える。以降のリチャード・トンプソンの音楽遍歴を見ているともっと早くからこういう個性的ギタリスト面を出した作品を出せていれば、とも思うが実際どうだったのかはもちろん知らない。





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フレ
Posted byフレ

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