Ray Davies - The Storyteller

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Ray Davies - The Storyteller (1998)
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 1993年The Kinks久々の来日公演、1995年5月に再度来日公演、その年の暮れに何故かメインパーソンのレイ・デイヴィスがソロで来日公演、その後1996年にはThe Kinksのアコースティックライブ盤「To the Bone」もリリースされ、一体何がどうなっていた時期なのか、ただ、この時期以降The Kinksとしての新作アルバムはリリースされていないので、バンド活動のほぼ終焉の時期とソロ開始活動のプリスタートが重なったのか、とも思った。ところが、実際はThe Kinksの作品の再リリースのプロモーション的意味合いも強かったため、バンドが崩壊しているならレイ・デイヴィスのソロでThe Kinksの名を忘れられないように広めておきたかったとの意図だったらしいが、そこで上手くこの合間を縫ったのが弟のデイブ・デイヴィスで、彼は彼で独自のバンドを始動させてそもそも歪んだギターを開発したギタリストだから派手な音が好みだし、歌にしてもハイトーンでキャラも豪快なのでウケたのはコチラだったとのオチも付く。もっとも天才的才能を持ち合わせた兄のレイ・デイヴィスと作品の質では比べ物にならないが、時代の中でウケるという要素は重要だ。

 そんなRay Daviesのソロ活動は1994年に自身で執筆した「エックス・レイ」なる半自伝的小説を題材にして、そのバックミュージックのイメージで組まれたベストソング集とも言えるし、新曲も交えている事から新たにその情景を意識して作り上げた作品も融合させての意欲作としてスタート。1995年には既にサイドギタリストと二人だけのライブ活動をアチコチで実施しながらの来日公演は、小さなハコでアコギで弾き語りながら、しかもその本を片手にフレーズを読みながら冗談を交えて楽曲を演奏する、デイブとのお茶目な話やロック史的には貴重な歪んだ音を出すアンプとの逸話や古き良きロンドンのノスタルジーなど含めて随分とこなれたこれまでに見たことのないようなショウで楽しませてくれた。分かりやすい英語を話す人なので、MCも割と分かりやすい部分も多く、事前に本を読んでおけば概ねどの部分を話して歌っているのかが分かったし、曲はほぼ知っているから楽しめた懐かしいライブ。そんな活動を繰り広げながらアルバムが全然リリースされなかったので、果たしてこれはどうするのだろうか、単なる趣味でやっているのか、とまで思ったが様々な大人の事情が絡んでアルバムがリリースされなかったらしい。それでも1998年になってようやく「The Storyteller」がリリースされ、その姿を世に表してくれたが、嬉しかったのは最初と最後に新曲となる「Storytellor」と「Londn Song」のスタジオ盤バージョンがきちんと録音されて入れられた点だった。ライブでも聴いてて良い曲だと思っていたので、こうしてスタジオ盤でリリースされて何度も聴けるのはありがたいものだ。その間に挟まれているのはライブアルバムでショウの大半が収録されているので、どういう雰囲気だったかもよく分かるし、レイ・デイヴィスも観客も楽しみながら古き良き歴史を味わっている姿が垣間見れる。しかもThe Kinksのベストヒット集のような楽曲が新解釈のアコースティックとレイ・デイヴィスの歌声で演奏されるのだから堪らない。サイドギタリストのピートも職人芸的に要所要所で絶妙なプレイを聴かせてくれるので、全くの安心感と息の合い方もプロフェッショナル。それでも最後には皆で盛り上がるのだから真の大道芸人。

 作品的に新曲は上記2曲と「That Old Black Magic」「X-Ray」「Art School」「Back in the Front Room」「The Ballad of Jullie Finkle」が書き下ろされている。自分的にはもう「The Ballad of Jullie Finkle」と「London Song」が好きで、天才はいつになってもホントに才能が枯れない天才なのだなとつくづく実感した次第だし、今久しぶりに聴いてもやはり良い曲ばかりで、聞き入りながら当時のライブを思い起こしていた。今はそのリアルタイム性はないが、普通にアルバムとして聴いてみてもこうして奏でられる名曲群の数々の素晴らしさは実感できるハズだ。この時確か「Two Sisters」もやっていて、それがまた素晴らしい曲と染み入る演奏だったのでここに入らなかったのを少々残念に思った記憶までも思い出したが、もう随分昔の話になってしまった。もし今から初めてこの作品に取り組んでみようとする方がいるのならまずは「エックス・レイ」の翻訳本を読んでから、各楽曲の前のダイアログからどのあたりを話しているのかを認識してレイ・デイヴィスの話を聴いて曲を楽しむと、このライブアルバムはアッという間に聴けてしまうだろう。実際にはCDサイズフルの74分の演奏が収録されているので相当長いハズだがあれこれとレイ・デイヴィスの物語を理解しながら眺めて聴いているとすぐに終わってしまい、またそのループをする、そして今度はギターの素晴らしさにもも耳を惹き付けられ、曲の良さもまた堪能し、すっかりこの会場でライブを見ているかのような気になる。白熱のライブだけがライブ盤の名盤ではなく、こういうライブ盤によるライブ再現の楽しみを提示してくれた作品とも言えるか。キンクスもレイ・デイヴィスもホント良い曲ばかり。

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フレ
Posted byフレ

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背中合わせ  

「エックス·レイ」は奇妙な小説ですがはっきりした自伝で、なかなか面白かったですね。今度音楽の方も聴いてみます。
しかし芸術家というものは自分自身を深淵まで掘るばかりでなく、それを白日の下に晒すという、つくづく覚悟の要る仕事だなあと思います:^)

2021/02/25 (Thu) 21:32 | EDIT | REPLY |   
フレ
フレ  
>背中合わせさん

小説なのに自伝…、妙な話でしたね。音とのマッチ感が楽しいです。
芸術家はねぇ、ホント、全てが商売ですね。勇気のいる仕事と思います。

2021/02/28 (Sun) 14:51 | EDIT | REPLY |   

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