Daisy Jopling - Who's Who

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Daisy Jopling - Who's Who (2019)
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 ロックにバイオリンが持ち込まれたのは随分古い歴史になるだろう。自分が知っているだけでも70年前後には既にその音色も聴かれるし、マニアックだがEast of Edenのデイブ・アーバスが知られているだろうか。もっともその後にデヴィッド・クロスやダリル・ウェイと言ったプログレ界を代表する2者の名が知られているだろうし、High Tideからボウイのバックまでも務めたサイモン・ハウスもいる。イタリアのマウロ・パガーニもその系統からすれば知られているロック界にいるバイオリン奏者だ。バンド単位になればもう少し増えてくるが、それでもさほど多くはなく、アルバムや楽曲単位でバイオリンがフューチャーされるのは当然音楽なので普通にあるが、パーマネントでバンドにバイオリン奏者が在籍しているパターンはそれほど多くはないかも。String Driven ThingやEsperantoもエキゾチックなプレイが聴けるので、初めて聴いた頃から好きなバンドだった。たまにしか聴けないから好きなのもあるし、耳にした時にはかなりインパクトを残す音色なので好みなのもあるが、やはりギター好きだからそのソロイスト的音色とプレイが好きなのだろう。

 そんな流れで何か無いかと探していると随分ユニークなアルバムをBandcampで見つけたのでじっくりと聞き入ってしまった。デイジー・ジョプリンなる英国の女性バイオリニストがThe Whoの作品をバイオリンでカバーしているというアルバム「Who's Who」だ。この方、王立音楽学院出身の当然ながら本物のクラシック畑の方らしくキャリアもかなり積まれていて随分と輝かしいい功績も残されているようなので、知らない自分は当然その世界のモグリながら、こうしてロック界の楽曲をプレイする事でリスナーを広げると言う演奏者側の目的は十分果たされている。その一方でThe Whoのロックオペラ「Tommy」の影響力の大きさをも知る結果にもなるが、既にロックオペラの代表となり、クラシック界でも評価され、世界中で持て囃されてもいるので作品としても音楽としても優れたアルバムとして知られているのだろう。ここまで幅広く浸透しているロックのアルバムはさほど多くないし、多分ビートルズくらいじゃないだろうか。そしてデイジー・ジョプリンの本作もThe Whoのベスト選曲が収められているかと思えばその大半が「Tommy」のカバー曲なのでクラシック界から見た時の音楽的完成度の高さを誇るとの見方が現れているのかもしれない。それでも存分に楽しめるだろうと聴いてみるが、全体を通して当然ながら気品と尊厳が溢れており、ロックの粗雑さなどは皆無、美しく完璧で上品な音色と風格で彩られた大人の作品。だからこそか、アルバムの持つ本質的な良さや素晴らしさが剥き出しになって伝わってくるので、デイジー・ジョプリンとバンドの演奏に対する真摯な愛情が感じられる。

 アルバム「Tommy」のオープニングと同じく「Overture」から始まるが、そのお淑やかさと気品溢れるバイオリンの音色とプレイはこうも人によって異なるものかとギターと同じく千差万別感を感じた。アレンジは特に大きく変えていないのでそのままと言えばそのままだが、全てインストかと思っていたら「Captain Walker didn'd come home」のフレーズだけ歌われているのもユニークで印象深かった。その美しき流れのまま穏やかに「Behind Blue Eyes」は完全インストで流され、バイオリンもこうして聴くと様々な引き方や音の出し方があるものだとその幅の広さに感嘆していた。オープニングのシンセ部分までも今では簡単にカバー出来るのか「無法の世界」もそのままカバーされ、楽曲の優れたメロディラインと物語性に惚れ惚れしているとあの「Yeahhhhh」の部分だけ雄叫びを上げてくれるあたりにニヤリと。以降は「Tommy」代表曲が続けられるので、クラシック演奏家に向いた楽曲なのかもなと普通に聴けてしまっている自分がいるが、概ねThe Whoが短縮版Tommyを演奏する際の曲ばかりなので馴染みやすい。「Sparks」はやや大人しい感じに纏められているのが少々物足りないものの、元々はそういう曲。こういう場合に大抵入ってくる「Christmas」は単調ながらもどこか魅力のある面があるのだろう。そして「Go To The Mirror」と題されつつも実際は「See Me Feel Me」のインパクトが強く、ここでもバイオリンで躍動感溢れるその旋律が聴けるのは楽曲の良さの勝利。続けての「Smash The Mirror」はコーラス部分だけがしっかりと入っている合唱団的な面も現れてアレンジを工夫しているようだが、同じように「I'm Free」もロックのダイナミズムをクラシック楽器類、バイオリンとピアノとクワイヤで表現するとこうなるよ、と上品に味付けされて最後の合唱まで楽しめる。やはり「Tommy」は凄いな、との印象が強く残るが、そこで最後で「Baba O'riley」。シングルカットしたPVをリリースするだけあって、楽曲の素晴らしさをより一層感じる面も強いが、見事なまでなバイオリンプレイの特徴を活かした格好良いプレイ。やはりThe Whoはロックだ、と感じつつ原曲に忠実なバイオリンソロプレイをより一層伸び伸びと躍動感溢れるスタイルで聴かせてくれる部分は最高に素晴らしい。これだけ嬉しそうに楽しそうにウキウキとしてくるようなバイオリンソロを聴けるのもこの曲の特権だろうし、それをここまで素晴らしく再現しているデイジー・ジョプリンの完璧さも素晴らしい。クラシック界からしたら当然かもしれないが、新たな息吹でこうして感動させてくれるのは嬉しい限り。

 こういう形で新しいミュージシャンを知る機会も増えているが、それだけロックの歴史が音楽の歴史と絡み合い、様々なミュージシャンが音楽人生の過程においてジャンルを問わずに音楽を耳にする事で複合的なセッションも多くなっている、クラシックのミュージシャンがロックを演奏するなど低俗な世界に足を踏み入れやがって、的な面も薄れてきたのかもしれない。そもそもそういう境目も無かったのかもしれないが、クラシック畑のミュージシャンがプログレを演奏する、こういう普通のロックを演奏する、それがビートルズやジャズだけでなくて普通に出てくるのが面白くなってきた時代。それでいて、これほどに素晴らしい演奏を聴かせてくれるのだから有り難いが、情報受信側が追いつけていない面もあり、まだまだ発掘しないと、と改めて感じた。それでもこのユニークな音世界に感謝。





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フレ
Posted byフレ

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