Gnidrolog - Lady Lake (Expanded Edition)

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Gnidrolog - Lady Lake (Expanded Edition) (1972)
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 70年代英国ロックの深い森を漁っていた1990年前後頃はまだCDでそれらがリリースされまくる前で、当然オリジナル盤も日本盤も各国盤も何も新品で見つける事はままならず、中古レコード屋に行ってもそうそう見る事はないし、その手のレア盤専門店を幾つか何度も回ってて初めて高値の付いたオリジナル盤を壁にかけてあるジャケットと共に見るか見ないかと言う程度。それでも見られればまだ御の字で見た事のないアルバムが当然多数。そんな時代でも僅かな情報を頼りにひたすら聴いたことも見たこともないレコードをほんの少しの紹介文だけで探して買い求める狂気。そんな時にある特定の店では何枚か激レアに近いアルバムが何度も見つかる事があり、喜んで重宝していたが、価格もそこまで高くなくてアルバムジャケットの印刷も少々滲んでいてどこか妙だったが、それでも聴けるだけでありがたかったのでチョコチョコとつまみ食いして買っていた。当然ながらそれはその店が独自で作った、いわゆるカウンターフィット盤、パイレート盤、もっと言うなら単なるコピー盤で、音はオリジナルのレコードからのダビング、と言った方が分かりやすいだろうし、ジャケットもカラーコピーに近いオリジナルからの複製印刷で社名やレーベル名やヤバそうな単語はボカしたり消したり書き直したりとそれなりな工夫を施して売っていたアイテムだ。見ればおかしいと分かるものの、それでも聴きたさ故にまんまと商法に引っ掛かっていたものだ。そのヘンもCDがリリースされた時には概ね買い直して、やはりオフィシャルCDは違う、などと思っていたが、初期のこの手のCDも実はほとんど同じ事だった。オリジナルアルバムからCDにダビングしてジャケットもそれこそ複製ものだが、CDサイズに縮まるから綺麗さはレコードジャケットほど酷くないというだけだ。今となればそのアナログ落としのCDは当然ながらアナログの質感での音なので聴きやすいとの評価もあるだろうが、全く色々なアイテムがあったものだ。

  Gnidrologが1972年にリリースしたセカンドアルバム「Lady Lake」はアルバムジャケットの秀逸さとその中味もジャケットをイメージさせるような素晴らしきアルバムとして評判が高く、自分で聴いてからも何ら違和感なく素晴らしいアルバムだと感じてもいるので、先に書けばホントに名盤だ。ただ、自分の場合はこのアルバムを正に先に書いたように、まずコピー盤レコードで入手し、その際には左上に記載されている「RCA」のロゴがこの絵に合わせたかのように描かれた月で隠されたジャケットで、なかなかに凝っていた。その後エジソンからのCDがリリースされた時に速攻で買って喜んでいたが、これも実はアナログコピーCDだったと言うオチ。そこで止まっているのでその後のホントのオリジナルマスターテープからのCD化、更にリマスター盤などは全く通っていなかったが、今回ようやく2012年に英国でリリースされたリマスターバージョン+未発表曲が一曲付けられたタイトルを聴いた。古い話で忘れていたのもあるが、やはり一皮もふた皮も膜が落ちたかのようなすっきりとした印象を持つ音の質感だったので、この名盤をまたしてもじっくりと堪能出来た。

 アルバム冒頭から一大絵巻物語の傑作「I Could Never Be A Soldier」でGnidrologの破壊性と緻密性とプログレッシブ展開の特性を同時に体感し、ボーカルはやや稚拙で弱さを感じながらも曲の繊細ぶりと見事にマッチした、これこそアルバムジャケットそのままの世界が味わえる曲。フルートが全編に鳴っているからこその浮遊感も特徴的だし、何気に曲をドライブさせるベースラインの幅広さもバンドの深みを出してくれる。11分半とアルバムの1/3を占める楽曲ながら全く飽きないし、どんどんと惹き込まれていく展開は実に魅惑的で素晴らしく、それに加えて最後の最後はリズムチェンジと共に躍動感溢れるギターソロが繰り広げられる展開でとどめを刺してくれる名曲。その余韻に浸れるかのようにブラスセクションから始められ、ピアノも美しく鳴り響く正に初期クリムゾン的センスが散りばめられたかのような「Ship」はアコギで歌い語られながらブラスも大活躍し、哀愁漂うメロディと哀しげなボーカルが印象深く、情景の展開が目に浮かぶようだ。そしてこの曲でも最後はボーカルと共にギターソロがこれもWishbone Ash並の泣きのメロディと言わんばかりに奏でられる素晴らしさ。この手の叙情性と哀愁のギターソロにはなかなかお目にかかれないので貴重な瞬間。A面最後はアコースティックな小曲「A Dog With No Collar」で、これもまた哀愁深い素朴ながらも心打つ作品で、孤高の存在感を感じられる作品で、ひとつの物語を終えたかのようにA面を締めてくれる。

 B面はアルバムタイトル曲「Lady Lake」のベースから奏でられ、最初からプログレッシブで叙情性が想像できる展開だが、意外な事にジャジーに展開するバンドの新たな展開と作風が聴けるのはユニーク。どうしてそうなる、と言わんばかりにソプラノサックスが鳴らされ、先程までのバンドとはまるで異なるアレンジにやや驚きを覚えつつ、その派手な展開が一段落してくると先程までのGnidrolog得意の展開に戻り、やはり静かめに哀愁感漂う歌メロやギターが入ってくる。既にこの展開に安心感を覚えてしまっているので、先程までのワサワサしたジャジーな展開からは一転、終盤にかけては更に意外な展開な事にややおどろおどろしたようなリフレインが繰り返し鳴らされ、しかもブラスやストリングスまでもが上乗せされてくるので、どんどん音が分厚くなり、重厚感を増してくることでリスナーを追い詰めてくる怒涛の展開。こういったパターンもあまり他では聴けないし、ある種雰囲気だけで圧倒してくる面も大きいがその効果はかなり覿面で、こちらもアルバムジャケットそのままの印象を出してくれている作品。A面最初の「I Could Never Be A Soldier」とB面最初の「Lady Lake」でジャケットの印象を打ち出しているのだから本作がアートワークと中味のベストマッチングとなっているのも頷ける話。そして今度はピアノでリスナーを新たな世界に誘ってくれる「Same Dreams」が美しく響く。3分に満たない小曲ながらもピアノとベース、ドラムに歌でしっかりと聴かせてくれる作品で前曲の重厚感ある空気感を和らげてくれている。そして最後は躍動感溢れるビートから始まりつつもここに来て妙にプログレッシブ感溢れる「Social Embarrassment」が展開される面白さ。これほどの曲が揃っているのにどうしてか次のアルバムがリリースされる事なく、シーンから消えていってしまったのは勿体無い限りだが、このアルバムが残されていた事だけでもありがたく思うべきか。

 2012年の「Lady Lake (Expanded Edition)」では遂に発見された1972年の本作レコーディング時の未発表曲「Baby Move On」が最後に加えられており、その価値を更に上げてくれている。この名曲揃いのアルバムを考慮するとどうしても外れてしまうのは納得してしまうが、しっかりとGnidrologらしい斬新な試みは行われており、アコギに鍵盤にハードなギターが鳴り、弱々しさなど皆無の熱唱型ボーカルが詰め込まれている。楽曲としてはあと数歩的な面はあるが、質感がGnidrologらしく音源発掘に感謝。しかしオリジナルアルバムリリースから50年経過して発掘されるソースも凄いし、よくそれを探したとすら思う。しかもさほど売れるバンドでもなかろうし、と色々思うがこうして聴いているリスナーがいるのも確かだし、更にサブスクにも提供しているのだからメジャーレーベルと契約しておくに越したことはないのだろう。久々に良い音で堪能した名作傑作アルバム「Lady Lake」。この手の作品の中では自分の中で相当上位に位置する作品です。



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フレ
Posted byフレ

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