Still Life - Still Life

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Still Life - Still Life (1971)
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 70年代の英国ロック黎明期にはギターレスのバンドも多く見受けられ、その代わりには大抵オルガンを筆頭とする鍵盤奏者が在籍してヘヴィギターの代理をしているパターンが多い。故に当時一番歪んだギターに対抗できる音色をすぐ出せたハモンドオルガンが主役の時代でもあり、そのハードさはギターによるハードロックとはまた異なる円やかなドライブ感を味わえる作品が多い。もっとも両方入っているユーライア・ヒープやディープ・パープルはその代表でもあるし、一方のEL&Pもその路線でシンセサイザーの駆使まで進んでは行ったが、この頃はまだそんなカネのないB級チックなバンドがアイディアと熱意だけでひたすらシーンに登場しては消え、バンドも組んでは解消して次の仲間と一緒になり、魑魅魍魎とした人間関係の中でシーンが活性化していた。更にレーベルまでもがそこに加担し、代表的なところではVertigoやNeonなどが挙げられるだろう。そういうのも今の時代となってはコレクターも減っているだろうから、単なる歴史的背景として残されるのみだろうか。

 Still Lifeと言うバンド名の唯一作「Still Life」は1971年にVertigoからリリースされており、ダブルジャケットが縦型になっている関係上表面に見えるのは美しき花でありながら下部、即ち裏面には髑髏が見えているアートワークで妙な質感を出している。簡単に言うと髑髏のアタマの上に花が載せられているワケだ。そのアートセンスも素晴らしいながら、中に詰め込まれているサウンドもオルガンを筆頭としたこれこそ大英帝国ロックと言わんばかりに憂いと湿り気のあるこの時代を代表するかのようなハード的且つプログレッシブでもあり、メロディアスな歌もありながらのソロパートも健在と伊達に名盤珍盤扱いされているだけでなく、中の音楽もきちんとその評判に付いていってる秀作。以前はメンバー不詳だったが、今は人物名もキャリアも解明されているが、だからと言ってこのバンドのような音の何かに発展するでもなく、やはり幻のバンドはそのまま幻のバンドだ。以前聴いていた時はただただそういう英国然とした姿とオルガンの音色のまろやかさ、ボーカルラインに心奪われていたが、今回よく聴いていると、このマーティン・キュアーなるボーカリストの歌声は結構黒い系統、ソウルフル感のある歌い方歌声で、それをハモンドオルガンバックで歌っている曲が多く、しかもコーラスワークまで曲中に挟み込んでくる時もあるから面白い。案外ベースラインもこの時代らしく普通にドライブしてラインを駆け巡っているので、どこかグリグリした印象も受けるが、鍵盤がベタッと鳴らされているから黒い躍動感が抑えられて妙なハードロック感に陥れられる。何ともバランスの不思議な音色で、ある意味こういう楽器を弾けるメンツが集まってそれぞれやりたい事をやったらこうなっただけ、的な印象すら受ける作品で、B面は特にハード路線に軸足を置いているかのようだ。

 フルートとアコギと吐き捨てるかのような力強いボーカルから始まる冒頭の「People In Black」からしてウネリのあるハモンドとベースライン、歌メロ感たっぷりのボーカルラインに小技の利いたドラムと、このバンドが持ちうる方向性をそのまま打ち出した快作。続いての「Don't Go」は熱唱ボーカル型の歌ものながら暑苦しくならないのは当然か。メロウにシンフォニックに仕上げられながらもこの風味はユーライア・ヒープの野性味とは異なるセンスと言うかひ弱さと見るか美しさと見るか。そしてまたもや8分強のハモンド全開の「October Witches」でStill Lifeの方向性が明らかに決定付けられているし、黒っぽいノリ感があるのも実感できる作品。所々でのプログレッシブ感は感じるものの、基本的にはベタなオルガンハードロック路線で歌ものに近いところもあるユニークなバンドと分かるだろう。B面に入っての「Love Song No.6 (I'll Never Love You Girl)」もハモンド全開のかっこ良い一曲で、次の「Dreams」と共にユーライア・ヒープ色満載のコーラスワークと展開していく迫力あるロックが聴ける。特に「Dreams」の冒頭の呪文のような歌いっぷりからキャッチーさとハード路線の融合は見事な出来映えで、かなりの傑作に仕上がっているのでもっと売れていれば代表曲にもなっただろうとすら思える。更に最後の「Time」への展開も含めてこのB面の一連の流れはかなりのハイレベル。そう聴くとどれもこれも聴き応えのある曲ばかりに聴こえたが、どこか抜けきらないあたりがVertigoらしい作品だったか。

 それでも結果的にはかなりの長い期間カタログに残されているし、今でも購入できるアルバムだし、しっかりと歴史に残されているアルバムとして捉えればB級も何もなく、70年代の英国ロックを下支えした美しく素晴らしいアルバムとして捉えられよう。どのバンドのどのアルバムでも何かしら発掘してきてボックスセットやデラックス・エディションをリリースしている売り手側でもさすがにStill Lifeだけは手が出なかったか、何度か再発されてはいるもののリマスター盤すら出て来ていないかもしれない。それにしては随分聴きやすい音に聴こえるので案外しっかりと作られていたようにも思うし、もしかするとアナログ時代そのままでデジタル化されているからマイルドで聴きやすいのかもしれない。このくらいの質感で聴く方が味わい深くて良いとも思う。



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フレ
Posted byフレ

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