Skin Alley - Two Quid Deal?

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Skin Alley - Two Quid Deal? (1972)
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 レコード屋に行って、パッと見て目立つジャケットである事、しかもそれがどんな音かイメージ出来るようなジャケットの方が望ましいが、そこは商売なので音とリンクする方が良いのか、メンバーをイメージする方が良いのか勘違いさせるが良いか、様々な思惑が入り交じる顔の部分とも言える。ロックの最初期はビートルズやストーンズを筆頭にメンバーが何者であるかと見せたジャケットばかりだったが、いつしかアルバムの中味をイメージさせるようなデザインになっていき、70年代に入る頃にはアートワークと中味の音とはまるでリンクしない別の作品との立て付けも多くなってきたように思う。そこで出てくるのがアート集団で、ヒプノシスやキーフ、ロジャー・ディーンと有名なジャケットも出てくるし、それもひとつのロック史として認識されている。アメリカではアンディ・ウォーホールデザインのヴェルヴェッツのバナナジャケットが有名だろうし、何でもありな時代に突入していった。特に先のアート集団のジャケットを使う場合は中味の音楽とまるでリンクしない場合が多く、バンド側がOK出せばそれで進んでしまったようで、冒頭の文章に戻ると、これ、どんなバンドで音なのだろうか、とレコード屋で現物を見て考える。リアルタイムな時代ならともかく、後追いで中古盤を買い漁る身になると、今ここで入手しなければ多分次は無い、コレクターの鉄則は「見た時が買い時」なので余計に悩むが、まずはゲット。1972年のアルバムでこのジャケットでなら外さないだろう、との邪推までは必要だ。

 Skin Alleyの1972年3枚目のアルバム「Two Quid Deal?」はご覧の通りチーズを持ったミッキーマウスもどきが「二重取引する?」と訊いているのか、何やら意味深で悩ましいが蓋を開けてみればスタンダードにカッコ良いブリティッシュ・ロックそのままが飛び出してきた。ギターのボブ・ジェームズはブルースベースの見事なギターを奏でてくれて、しかもハコギター系のサウンドで線が細いながらも美しきトーンで要所要所で艶やかにプレイしているから心地良い。一方の元Atomic Roosterのマルチ奏者のニック・グラハムがその才能を活かして新参者にも関わらず全面でバンドに貢献しており、大半の曲を書き上げてベースのみならず鍵盤系も演奏しているようで、綺羅びやかに美しい曲が飛び交う。鍵盤はバンドの中心人物のハズのポーランド人Krzysztof Juszkiewiczが担っているのでそもそもKrzysztof Juszkiewiczが弾いているだろうが、両者のタッチやセンスが明らかに異なるので聴いているとこっちかな、こっちだろうな、のように鍵盤系の音の違いは分かってくる。そしてボーカルやコーラスもその3名で担っているから幅広いサウンドを奏でて展開しているのも魅力的。果たしてどういう音かと問われるとこれが書きにくい音で、巷の解説ではブルースにも根差したジャズ・ロック、プログレッシブ・ロック、との言い方のようだが、確かにそういう書き方が賢明だろうとは思う。ただ、プログレッシブ・ロックと言うほどプログレッシブに変拍子や展開がある長い曲はないし、アレンジももっとストレートなのでそこまででもない。ジャズ・ロックと言われるのはいわゆるジャズ音楽的な鍵盤が目立つ部分と単純なブルーススケールだけではないギタープレイによるものだと思うが、かと言ってそれがジャズ的かと言われてもそうでもない。もっと複雑に絡み合って、音楽を構築してアレンジしてポップの世界に収めようとしているような楽しげで賑やかな音楽とでも言おうか。コーラスワークやボーカルも使いつつ、管楽器も入りつつギターも泣きながらピアノもアコーディオンも登場してジャジーなドラミングもありつつ、曲に任せてアレンジと展開が変わっていく、そんなハイセンスな作品で、到底このアルバムジャケットから想像されるような作品ではない。もっとマイナーになるがSun Treaderという英国のバンドの「ZIN-ZIN」のジャケットも中味とまるで異なるジャズ・ロックが展開されていたり、Catapillaでもそれは同じくで、この頃の英国のバンドはホント、素晴らしい。

 冒頭の「Nick's Seven」は文字通りニック・グラハムが作った曲でシャウトするハードロック調のセンスの良いサウンド、それこそギターソロのフレーズがジャジーでセンスよく始まり、途中でワウペダルがグワングワンとかかりながらエグく攻めてくるインパクトある曲。「So Many People」はボブ・ジェームズの曲でギタリストらしいオープニングで始まるもののチープなサウンドが如何にもらしいが、そのまま進みながらもソロパートはフルートの出番で随分とメロディックに吹かれ、そのチープなギターと相まってかなりユニークなイメージを出してくれる。その延長線にあるかと思うかのような「Bad Words And Evil People」はコーラス歌ものに仕上げており、こちらもまたチープにドライブする軽快なロックサウンド。「Graveyard Shuffle」は大いに歌い上げる怒涛のバラードソング、と言うよりも壮大なドラマを奏でる作風とも言える集大成サウンドで戯曲的ですらある興味深い作品。B面に入っての「So Glad」はややソウルがかったようなスタイルの曲で、アメリカでの契約がStaxレーベルだった事からそうなったか、随分と物珍しいアレンジが施されている。「 A Final Coat 」ではピアノから始まるものの、こちらもドタバタと喜劇的な三拍子で紡がれる英国ユーモアの効いた作品でサックスのソロパートが目立つ不思議な一曲。そして大作「Skin Valley Serenade」では仰々しいドラマが繰り広げられ、正しくプログレッシブ・ロックと言われても不思議はないフルートが美しく鳴り響き、繊細な情景が浮かび上がる素晴らしいサウンドが象徴的。続いての「The Demagogue 」はその余韻を味わせるかのように始まりつつ、また粗暴なボーカルが響いてくるミドルテンポで少々仰々しい感触のあるサウンドにハモンドが重なりムード満点に展開される。アルバム最後の「Sun Music」はアコースティックギターで奏でられる静かなムードから始まるものの、ピアノやコケティッシュなコーラスも入ってきてどこか遠くまで行ってしまいがちなアヴァンギャルド感すら漂うアシッド的雰囲気で終える妙な曲。どれもこれも一筋縄ではいかないし、一括りにこういうサウンドとも言えないのは当然ながら、聴けば聴くほどに魅力的に解明したくなる深みを持ったアルバムなのはこの時代ならではの楽しみ。ジャケットに騙されて入手してみてもここまで味わえれば十二分に元を取れているだろう。

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フレ
Posted byフレ

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