Roxy Music - Roxy Music (1999 Remastered)

ブライアン・イーノの名は楽器の演奏者としてよりも名プロデューサーとしての方が知られている気がする。U2やボウイとのコラボに新鋭バンドの作品を手伝ったりもしていて、そのどれもが名盤並びに問題作として取り上げられる事が多く、結果的にはそのバンドやアーティストの根幹を担う、真髄を引っ張り出した作品として持ち上げられる事も多い。演奏者、クリエイターとしてのイーノはこれもまたソロ活動よりもロバート・フリップとの組み合わせの方が知られていたりするので本質的に自分自身の音楽性だけでは商業ベースに乗りにくいのも自覚しているだろうし、故に誰かとコラボする方が商業ベースに乗せやすい事も熟知しているようだ。一応シンセサイザー奏者とは名乗っているが、普通にピアノを弾き語っているようなシーンは思い付かない。それでは何をしているのか、と問われてもよく分からないのが実態で、プロデュースにしてもどこまでどうやって関わってああいう作品を仕上げているのかも全く見えないので分からない。ただ、出てきた音やバンドの話を聴くと、とてつもない手法でポテンシャルが引っ張り出されるらしく、様々なアイディアを試してはチャレンジしていくようだ。素人のリスナーからするとホントにプロデューサーがどこまで何をどうやっているのかが分からないのはもどかしい。
デビューした年代やその尖ったファッションからグラムロックのカテゴリに分類されてしまっているRoxy Musicは、実はそのカテゴリにはまるで属さないかもしれないバンドと音楽志向で、言うならばThe Velvet Undergroundのガレージ芸術性とKing Crimson的叙情性、プログレッシブセンスを織り交ぜてアメリカ風味の歌詞や情景、サウンドで割ったような独特の融合サウンドで、どちらかと言えば芸術家集団による音楽アートに近いサウンドを初期は奏でていた。少なくともブライアン・イーノが在籍していた時代は一人だけ素っ頓狂なシンセ音が鳴らされる事も多く、確実にアートの世界を醸し出していた。何かのインタビューで読んだが、イーノが影響を受けた音楽は時代的に当然ながらエルビス・プレスリーやそこらのポップスやロカビリー、モータウンあたりも入ってくるようだが、さすがイーノと唸らされたのは、それらの音楽そのものではなく、例えばギターが鳴らされた時のリバーブ音の違いによって、そのリバーブ音はどうしたら鳴るのか、効果音的なものがあれば、それは何の音で、どうしたら鳴るのか、などの残響音や効果音、エフェクト音の方に興味を惹かれてしまって、ただただひたすらにそこを探求して70年代初頭に初めて出てきたシンセサイザーの虜になり、その様々な音色とスタジオワークにハマり込んでいったらしい。さすが、常人とはまるで異なる視点で音楽を聴き、全く異なるセンスからその音を探求してその世界にいる変人。そんな思考回路の人間が初めてシーンにバンドの一員として飛び出してきたのがRoxy Musicのファースト「Roxy Music」だ。1972年リリースのキテレツなアルバムの主は当然ブライアン・フェリーだが、これがまた素っ頓狂なボーカルメロディを歌う奇人と言っても良いだろうセンスの持ち主に、完全に芸術肌のフィル・マンザネラにアンディ・マッケイとメロディ部隊のぶっ飛び具合も含めてなかなかにプログレッシブでポジティブでアートセンス溢れる音を残してくれている。
正直、何度も何度もこのアルバムに挑戦し、聴いているが、この素っ頓狂な歌と意味不明なメロディ部隊とイーノのかけ離れた鍵盤の音が自分にはマッチせず、やってる事は凄いと言うか、やはりイーノのぶっ飛び具合は分かるが、音楽として、アルバムとしての良さ、凄さ、名盤と言われるあたりが理解出来ていない。どこにも属さないサウンドと言えばそれは分かる。上手い下手もロックだからどちらでも良いし、それではプログレッシブな曲調かと問われても、そこまで複雑さは無く、もっとアート・ロック的に流れていき組み立てられているとも言える。それでいて歌心はあるのかとなれば、とてもそうは思えず、個性的なセンスが歌として流れ、アメリカの映画から切り取られたかのような題材を歌詞に持ち込み、一般的なセンスとは異なるスタイルらしいが、それは音楽を聴いている際にはさほど意味を成さず、せいぜい効果音に拳銃の音が入ってくるのも珍しいと思う程度。そうして何度も何度も聴いているが、今でもよく分からない。深みがあるのかどうなのか、「Re-make/Re-Model」を聴いてぶっ飛んだ、などのレビューもあったりするので、恐らくそういう破壊力のある曲のハズだが、どうにもそこまでは思えない。ただ、全編を通してイーノのキテレツな鍵盤やシンセの音はフレーズも音色もぶっ飛んでるのは分かりやすい。それに加えてアンディ・マッケイのサックスもかなり鳴らされていて、目立つので普通のロックバンドの音とは随分異なるし、サックスが入ってくると妙に聴きやすくなる部分もある。そのクールな佇まいを見せるバンドの音世界のくせに実はフィル・マンザネラのギターはかなり乱暴に野性味のある歪んだ音で割り込んできたりソロを奏でていたりするのも変わっていて、そのヘンはヴェルヴェッツ的ガレージ的と言われる所以でもあろう。それがまた曲に合っている合っていないとは別の次元での破壊力だから聴いてて悩ましい。まともなのはドラムのポール・トンプソンくらいだろうか。ブライアン・フェリーはアルバムジャケット見て大笑いするくらいにぶっ飛んだ髪型がイケてるのは冗談としても、本作に入ってる歌そのものの貧弱さ、頼りなささ、そもそも音程はどうなってる、とすら思えるメロディラインと不思議な個性を放っているが、存在感の大きさはとんでもなく強く、イーノの主張と双璧を成す。
ちなみに英国では最初にシングルカットされたためにアルバムには入らなかった「Virginia Plain」はアメリカ盤には収録され、後に英国盤でも同様に収録、今ではそれが世界標準盤となっているが、1999年にリマスタリングされてほとんどのアルバムが再発されたが、その後20年近く何ら変化なく、2018年になりようやくファーストアルバムだけ「ロキシー・ミュージック(スーパー・デラックス・エディション)(完全生産限定盤)(DVD付)」ととんでもない内容の3CD+DVDの仕様でリリースされ、アングラ音源も含めての世界初登場となったデモバージョンやアルバム丸ごとのスタジオアウトテイクが収録されてファンを驚かせたらしい。が、自分的にはまだそこに到達するレベルにないため珍しく飛びつかずに黙ってオリジナルアルバムを聴いている。ただ、気になるので情報だけ整理しておくと、オリジナルアルバム部分は1999年リマスターバージョンをそのまま採用しているらしいのでその意味では目新しさはない様子。2枚目のディスクは先のデモ・アウトテイク関連の目玉。3枚目はBBCライブソースがかなり充実して収録されており、DVDは最初期のテレビライブ中心の映像集となっているようだ。自分が生きてる間にその楽しみをきちんと味わえるかどうか自信はないが、とりあえず「If There Is Something」の妙なムードとプログレッシブな雰囲気、「Would You Believe?」のキャッチーなポップさ、「Sea Breezes」のプログレ展開は理解出来つつある。それとイーノのシンセサイザーは分かってきたので、何となくもうちょっとすると全体的に理解出来そうな感じはしているが、ここまで難儀だと好む音でないのは変わらないだろう。
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