David Bowie - The Rise And Fall Of Ziggy Stardust And The Spiders From Mars (30th Anniversary Deluxe Edition) (1972)

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David Bowie - The Rise And Fall Of Ziggy Stardust And The Spiders From Mars (30th Anniversary Deluxe Edition) (1972)
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 1970年代初頭、既にシーンにデビューを果たしていたデヴィッド・ボウイは初めこそ多少話題は取れたもののどうしてもこの時期ではカルト的な人気でしかなく、センスも才能も豊かでルックスも良いと来ているのにアルバムをリリースするも期待ほどのセールスには届かず、何かあと一手を打って名を轟かせスーパースター入りしたいと考えていたようだ。その直前にはパントマイムの世界に戻って修行と言うか邪念を振り払う活動に身を費やしたりもしたようだが、決め手はストーンズの名曲でも有名な妻アンジーのちょっとしたメイクと髪型のアイディアからジギーというキャラクター作りが始まり、同時にひとつの架空の物語の創作へも繋がり、当然ながらの楽曲制作はこれまでのアイディアの発展形とその頃のバンドメンバーで出来うる方向性を見定めての作品をひたすら創り上げていった。今では最終的なジギーの姿も認識されているが、当初はあそこまで派手なメイクや衣装ではなく、当然まだ人気もそこまで無かったから予算の都合もあっただろうが、少々宇宙的中性的なエッセンスでメイクを施していた程度だった。1972年の6月にアルバムをリリースしてテレビやラジオへの出演でその奇抜な衣装やメイク、出で立ちをお茶の間に振りまいてツアーに周り、最大限のプロモーション活動に勤しみながらあれよあれよと言う間に人気を博していき、シングルはヒットして一躍スーパースターの仲間入り、それはデヴィッド・ボウイではなく、ジギーと言う地球に落ちてきたポップアイコンの人気だった。

 そんなアイディアを溜め込み創って制作して出来上がったDavid Bowieの最高傑作と名高い「The Rise And Fall Of Ziggy Stardust And The Spiders From Mars」も1990年にはライコディスクからボーナストラック付きでカタログのほとんどがリリースされ、更に2002年に30周年記念盤として2CDで拡張盤「The Rise And Fall Of Ziggy Stardust And The Spiders From Mars (30th Anniversary Deluxe Edition)」がリリース、2012年には40周年記念盤として新たなミックスが施されてリリースされているのでオリジナルアルバム楽曲以外にも同時期に録音されたボウイの作品を一気に聴けるようになっている。自分的には1990年盤と2002年盤の拡張盤でかなり満足したので、それ以降は手を出していないが、近年のこの手の作品はボーナストラックの蔵出しも一段落し、ひたすらに音質アップが施される風潮にあるので、それはそれでまた異なった味わいを楽しめるのだろうが、さすがに満腹感も溢れてきたのも事実。なので、今回は2002年の30周年記念盤で陽の目を見た各種ボーナストラックに注目してみたい。当時はそこまでオフィシャルでリリースしてくれるのかと嬉しくて即座に手に入れて聴き漁っていたが、当然アルバム冒頭から聴くと、つくづくこのアルバムの出来の良さ、素晴らしさに感動して何度も何度も聴き直してしまった記憶がある。そもそも好きだから何度も聴いていたが、上記と矛盾するとは言え、やはり音質アップでくっきりと聴けたのは大きかった。

 さて、2002年の「The Rise And Fall Of Ziggy Stardust And The Spiders From Mars (30th Anniversary Deluxe Edition)」の2枚目のディスクは1971年にボウイが衣装デザイナーのフレディ・バレッティをフロントに仕立てて、バックは当然その頃のSpiders From Marsの面々とボウイでリリースしたシングル「Moonage Daydream」「Hang Onto Yourself 」のAB面から始まる。当初はフロントボーカルがフレディ・バレッティだったし、録音時もそうだったがミックス時点ではそのボーカルを絞りまくって、結果的にはほぼボウイの声しか聴こえてこないシングルに仕上がっている。後から聴けば随分とチープなサウンドとデモテープレベルに近い録音でしかなく、到底あの究極のロック作品になるようには思えない地味な録音に聴こえる。このセンスは売れる前のボウイの特徴でもあり、何かがこれではいけない、と化けてハードロック路線に舵を切ったのが大成功だったのだろう。恐らくそこにはミック・ロンソンのギタープレイにもインスピレーションを得ているだろうし、当の本人も相当アルバムや楽曲作りに貢献したのに報われていないなどと発言していた事もあるので、事実に近いと思う。「Hang Onto Yourself 」もこの時代の単なるポップソングでしかないように聴こえるし、まだまだ売れ線、売れる、垢抜けたサウンド作りの肝を知らなかった時代のボウイの初々しい作品として捉えておこう。これが、ああなるなど夢にも思わなかっただろうが、その化け具合のセンスの良さこそロックビジネス。そしてこの頃に録音されたであろうデモテープから「Lady Stardust」と「Ziggy Stardust 」の2曲が収められているが、とにかくこの手の作風のボウイのデモテープは美しさが募る素晴らしさ。メロディにしても歌声にしても音色にしても繊細で星屑が舞い落ちてくるかのように、正にスターダストが舞っているシーンが浮かんでくるかのような綺麗なデモ。ピアノにボーカルが数回重ねられているだけでこの美しさだから全く才能の塊として思えない素晴らしさ。「Ziggy Stardust 」にしても12弦ギター一本だけでボウイがもうほぼ完成形そのままを歌い上げている素晴らしきデモで、こうして発表したくなるのは全く有り難いレベルでの作品。そして正にジギーアルバムがリリースされる頃に録音されたシングル「John, I'm Only Dancing」の最初のバージョンが収録されている。この後1973年4月頃にサックスが被せられたバージョンが録音されており、いつしかしれっとシングル曲の中味がサックスバージョンに差し替えられていた逸話を持つ摩訶不思議な楽曲。更に1979年に「John, I'm Only Dancing (Again)」バージョンも存在するのでどこがどうしてか、相当に気に入っていた曲なのだろう。普通にアコギから始まるビートのロックにしか過ぎないように聴こえるが、自分の感覚とリリースする側とは異なっているらしい。そして映画のタイトルにもなった「Velvet Goldmine」はここで未発表にするクォリティではないハイレベルな楽曲だが、当時のボウイの絶頂のセンスからするとお蔵入りレベルだったか。1975年の「Space Oddity」再発シングルのB面に収録されるまでは未発表状態のまま、アルバムに至っては1982年のコンピレーション作品「Rare」まで未収録状態だったらしい。

 1971年リリースの「Holy Holy」はここに収録されるには少々時代が古すぎて、作品的には興味深いがジギー時代の綺羅びやかで派手な楽曲と比べると地味でアコースティック色が強すぎるキライがある。ジャック・ブレルの「Amsterdam」のカバー曲はライブでは定番になり、ひとつのハイライトを飾ってもいたが、シングル「Sorrow」のB面でのリリースは1973年秋なので既にジギー終了後と遅かったようだ。ただ、作品の録音時期は正にジギー期なので、ここでの12弦ギターとボウイの鬼気迫る歌はビシビシと突き刺さってくる凄みのある一曲。「The Supermen」は1970年にアルバム「世界を売った男」の収録曲とは異なるバージョンで、Spiders From Marsの力強い演奏とここでも浮遊するボウイの歌声で彩られて1971年12月に再度録音されたもの。どうにもボウイは垢抜けたスタイルでの録音とアレンジを覚えてから初期のお気に入り楽曲をこうしてリメイクする事も粛々と進めていたフシがある。一方ジギーアルバム録音期にアルバムにはそぐわないと判断されてのお蔵入りとなったチャック・ベリーのカバーとなる「Round And Round」が聴けるが、アルバムに合う合わないよりもボウイがチャック・ベリーをプレイするイメージが無かったため、そのような曲をここで録音していた事の方が驚き。更にそのR&Rスタイルを模倣したかのような「Sweet Head」も同様にアルバムから外れた楽曲らしいが、こちらは逆にアルバムに入っていても良かったかもしれないという風味が漂う。「時計じかけのオレンジ」にも影響を受けての曲らしい。最後は「Moonage Daydream」の美しくも素晴らしい別ミックスバージョンで、いつ聴いてもミック・ロンソンの最後の宙を舞うかのようなギターソロが最高だ。このギターソロだけでこのアルバムの価値は数段階上がったとも言える程。ちなみに2012年リリースの40周年記念盤では「Moonage Daydream」の完全インストバージョンが収録されていて、ボウイの歌はないがその分ミック・ロンソンのギターに集中できる珍しいテイクが聴けるのも、このギターソロの凄さ故だろう。逆にユニークなのは珍しくも「Ziggy Stardust 」のボウイのボーカルのみのテイクが収められているあたりで、どういう理由でこういう不思議な出し方をするのか、おかげでボウイの歌い方がこれでもかと研究できる逸材には仕上がっている。他にも幾つかのボーカルのみのテイクが出ているので何かでマルチトラックソースが出回ったのかもしれない。

 オリジナルアルバム本編の素晴らしさに加えてボーナストラックの貴重さと楽曲レベルの高さも当時は未発表だったものが、こうして時を経ていくつものバージョンが聴き比べられ、そしてボウイの仕事にじっくりと取り組めるのもマニア的には嬉しい悲鳴。さすがに近年はそこまで多種多様の興味深いアイテムがリリースされる事も、自分自身も注目する機会も減っているが、ロックの奥深さはこうした所にもあるのは事実。さあ、また聴こう。







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フレ
Posted byフレ

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