Lou Reed - Lou Reed's Berlin

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Lou Reed - Lou Reed's Berlin (2006)
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 物語をコンセプトアルバムで再現している作品はそこそこロック界にも存在しているが、今まで割とそういう作品を作れる、作って世にリリースして評価を得る、そもそもコンセプトアルバムの物語を思い付く、物語を書き切れるなど様々な才能が試される面もあってそこまで数多くリリースされていないと思っていた。しかし幾つものコンセプトアルバムを聴いていて大抵思うのが物語性はともかく、一曲づつの楽曲の良し悪し、出来映えや凝り具合やカッコ良さからするとそこまで全てが凄い曲で出来ているアルバムはほぼ無いという気がしている。自分的には物語も一曲毎の曲のカッコ良さも全てが素晴らしく出来上がっていると思って聴いているのはThe Whoの「四重人格」くらいだろう。「Tommy」はそこまで一曲づつが良いワケでもないし、「The Wall」にしても半分くらいは凄い曲だが、半分はそこまで凝る必要がないからか凝ってない、物語の雰囲気に合わせた曲調と言う方が相応しいと思っている。その他ジェネシスにしてもプリティ・シングスにしても同様だしThe Kinksのパイ時代末期もそりゃ曲はどれも最高だが、名曲ばかりだとも言い切れないし、やや趣が異なるとも言えるので少々違うし、どっちかと言えばRCA時代の方がコンセプト的かもしれない。近年のバンドのアルバムならそうでもないかもしれないが、基本的に物語の情景を意識するとどうしても曲がシンプルにならざるを得ないものもあるのだろう、と考えるとそれはおかしくないし、至極当然の成り行きな気がする。だから名盤と言われてもその角度が異なるので取り組み方も変わる。

 Lou Reedが1973年にリリースしたコンセプトアルバム「ベルリン」も雰囲気はもの凄いがアルバムそのものが名盤かとなると、そうも言われないし自分も好きな方だが、どこか掴み切れないままで月日が過ぎ去っていたのはある。今回色々なアルバムを聴き直しているところにこの作品もまた出会ったので何度か聴いているが、ふと2006年の12月にニューヨークのブルックリンでこの「ベルリン」を完全再現したライブアルバム、映像の「Lou Reed's Berlin」を見てみたら、何とも凄い事にオリジナルアルバムのテンションとは異なるが、更に重みを増したライブが繰り広げられており、ついつい見入ってしまった。オリジナル盤の方は多彩なゲスト陣営に研ぎ澄まされた音色がアチコチに振りかけられた繊細な姿を魅せていたが、こちらのライブバージョンではそもそもギタリストがあのハードロック野郎、とまで言われたスティーブ・ハンターがSGを鳴らしているので実にロック的。どころか完全に一人舞台に近いくらいに弾きまくっているし、当然ルー・リードがプレイすると合図すればそっちに主導権は譲るものの、何せSGなので粒の粗い歪音でステージと曲を支配する。その効果も想定内でルー・リードが相変わらずブツブツとシャガレ声で歌と言うかナレーションと言うか、歌手のそれとは異なるフロントを担っており、その後ろで弾かれるベースの的確さやドラミングの凄腕さ加減がバンドの充実度を表しているのもさすが。そのバックをしても、ルー・リードのこの作品の醸し出す雰囲気は重苦しく、下世話なドラマが展開されていき、スクリーンにはそれをイメージさせる退廃的な映像が流れるのもステージショウらしい姿。聞けば5日間に渡ってライブを行ってフィルムに収録した作品と言うのだから、ライブフィルムではなく立派な映画、記録映画として制作されているようだ。ただしライブが全編記録されているので、素直にその雰囲気を味わえるし、熱量がきちんと伝わってくる作品に仕上がっているのもジュリアン・シュナベルなるルー・リードの良き理解者である映画監督だったからこその話。

 冒頭はブルックリンの聖歌隊の合唱から始まり、オリジナルアルバムでも聞けた美しく素晴らしい音色のピアノが飛び交いアルバム再現が始まる。その後からはハードロック的な音色のギターがありつつもルー・リードのギター遊び場面も見られるので、随分と楽しみながらライブを組み立てて指揮しているようだ。バックにはオーケストラも鎮座して場を創り上げているし、珍しい事に指揮者すらステージにいる始末。この普通の音楽家達はルー・リードのこの妙な物語をどう思いながら演奏していたのだろうか、訊いてみたい気もする。「ベルリン」というアルバムの物語は知られているようにものすごく退廃的でどうしようもなく救いようのない世界を描いており、コンセプトアルバムやロックやポップスの作品がもっと芸術的な領域にも進出するべきだとの意向もあったと聞く。だから故、実に芸術性の高いキャバレーの女性に恋をした男性、そして同居して幸せに生活しつつも、別の男、ジムが登場して当然そうなり、更に自分のオトコとジムが男性同士でも関係を持ち、どんな三角関係かと芸術性が高まる。更に相手の不明な子供を妊娠して出産するもジャンキーの女性には子育ては不可と判断され「Mummy!」の叫び声を残したまま子供とは切り離され自殺、それを傍目に見ている男性の悲しい歌、叫びで終わる、と思いきやその悲しい叫びも一般的な喪失感からの悲しさではなく、悲しい運命に対しての冷め具合、その宿命に対しての呪いへの悲しみとよく分からない芸術性を持った作品で、それこそルー・リードの世界観そのままとも言えるが、そんな作品が奏でられる以上、明るい曲があるハズもなく、また脳天気な作品にもならず、ただただ悲惨な、言い換えれば芸術性の高い作風が立ち並ぶ、と言いたいが、概ね歌詞で物語を語る以外ないので、そういう呟きが似合う曲調に近づいていくのは冒頭のコンセプトアルバムでの有りがちな姿に親しくなる。ただ、それでも十二分にリスナーを虜にする魔力は持ち得ているので曲の良さではなく、コンセプトの深さ、芸術性の高さでアルバムがリスナーの心に染み込むのに時間が掛かった作品とも言えるだろう。ルー・リードが本作品をきちんと再現するのに33年もの月日が掛かったのはその象徴かもしれない。

 こういったライブを見て聞いてしまうと、いつもの事だがオリジナル盤をまた聴きたくなるし、実際聴いているが、するとこれまで聴こえていなかった音が聴こえてきて、また違う印象の作品になるのは面白い。やはり70年代の作品にはその空気感が詰め込まれているし、ミュージシャンの魂もそこに封じ込められていると思う。映像を見たからこそアルバムのイメージも掴みやすくなり、またオリジナル盤の良さを味わった。ちなみにライブバージョンの方は最後に救いとも思える「Candy Says」「Rock Minuet」「Sweet Jane」が演奏されていて、それまでのダークなムードを一蹴してくれるのもありがたい。





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フレ
Posted byフレ

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