Mike Oldfield - Tubular Bells 2003

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Mike Oldfield - Tubular Bells 2003 (2003)
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 アーティストが一度録音してリリースした楽曲やアルバムを後々になり再度録音し直したいと思うのは至極当然の事だろうと思っているし、リリースした瞬間からああすればこうすれば、もっと時間があればカネがあれば、もしくはテクニックがあれば、あの楽器があればなどと様々な後悔が怒涛のように押し寄せるのではないだろうか。それは言い始めたらキリがないので締切や納期まで限られた範囲の中で出来うる事をとことんやり切るような集中力もアルバムや楽曲の魂になっているだろう。ごく一部のアーティストやバンドにしか許されないだろうが、一度リリースした曲やアルバムを後々になって再度録音し直してリリースする、などと言うパターンもある。大抵は何らかのアレンジが施されているが、そのまま純粋に再録音するパターンもあるので様々だ。リマスターやリミックスではなく、再録音、すなわち今の時代の録音技術と音色、それこそコンピューターを使う時代になってからの録音技術を駆使してやり直せる事はとんでもない恩恵が受けられるだろうから、作り直したいという欲求に駆られるのも至極当然か。ライフワークで音楽を作っているならそれも可能だろうがどれもこれも仕事である以上、そう簡単にできる話でもなかろう。ただ、このコロナ禍であまりにも時間が多く取れるようになったりすればその意思もあり得るとは思う。もっとも大抵はライブでアルバム完全再現、それをライブアルバムでリリースして今時のサウンドで蘇らせる事もあるし、オーケストラバージョンと称して新録音する事もある。アコースティックかもしれないしオペラかもしれないし、若いバンドとのジョイントかもしれないしとあれやこれやと昔の曲を再録音しているケースもあるからそれなりには満足している場合も多いだろう。

 Mike Oldfieldのようなアーティストの場合はそういった表現ではなく、もっと純粋に今時の機材とデジタル技術があればもっと良質なサウンドで抜けた音で情景を録音できるのが分かっていたからこそ、時間のない中、隙間を見つけては録音していた若かりし無名時代の手法ではなくもっと恵まれた環境で再録音したいと常々願っていたようだ。契約上の縛りもあった事で、簡単に再録音出来なかったとも聞くが、それはそれとして1973年にオリジナルアルバム「Tubular Bells」がリリースされた30年後の2003年に何と新録音による「Tubular Bells 2003」をリリースしてきた。ジャケットも新装開店とばかりにクリアーに美しく仕上がり、中味の音もどれもこれも美しくはっきりくっきりと楽器そのままの音が記録され、昔のアナログ時代の重ねまくった録音によるサウンドからは圧倒的に素晴らしくなっている。それでいて使われている楽器そのものは同じで、メンバーも、とは言えないが、サリー・オールドフィールドの参加は継続、あの有名な楽器の名を読み上げていたヴィヴィアン・スタンシャルはこの時点では既にこの世を去っていたので、モンティ・パイソンのジョン・クリーズの喜劇がかった読み上げ声になってはいるが、他は全てそのまま、楽譜通りでほぼ編集なしアレンジなしでそのままが聴ける。こういうリリースはほとんど聞いた事もなく、随分と珍しいパターンだろうとは思うがそれが許されてしまうくらい、許されるどころか、こちらの方が本物で良いじゃないかとまで思えるのは素晴らしい。1973年バージョンとの大きな違いはマイク・オールドフィールドの若さ溢れる狂気じみた熱気が詰め込まれているかいないか、だろう。流石に時間の無い中、隙間を縫って必死にアレンジして作り上げて録音もほぼ一人でやってと、今なら宅録だと言われる話だろうが、当時はそんな概念もなく、その宅録をスタジを使って一人で実際に楽器を演奏して作り上げていたのだから。また、オリジナルバージョンを聴いていると所々でやや未熟な楽器のテクニックと言うか演奏が未熟な箇所も散見されて、さすがに20才で作り上げた天才と言えども楽器の習熟度はキャリアに勝るものもなく、その意味ではまだ成長途中でもあったが、2003年バージョン「Tubular Bells 2003」は当然キャリアも積み、テクニックも安定した演奏がこなれて聴けるので明らかに2003年バージョン「Tubular Bells 2003」の方が素晴らしい面が多い。音楽的には当然相変わらず感動させる展開そのままなので、何ら文句も無かろう。

 ただ、どうしても70年代信者からすると所詮時代の空気が入っていない録音だから、と切り捨てられる部分があるのも分かる。それでも、もう30年もオリジナルバージョンは聴いてきたのだから、ここでまた新しい音色とクリアな音で聴ける「Tubular Bells 2003」も良いじゃないかと。純粋に素晴らしさを再認識出来たし、こんな音も鳴っていたのかとまたしても感動するシーンもあり、自分的にはこういうのアリだと感じている、どころかこの手の宅録系アルバムは皆さん世を去る前に録音し直してくれないだろうか、とすら思う。バンドの演奏が中心の場合は再録してもしょうがないが、一人で作り上げている作品ならこれはありだろう。あぁ、チューブラベルズの音色が宙を舞った瞬間の、どこか世界が広がっていった情景の美しさは素晴らしい。これほどに長い曲なのに一気にそしてドラマを思い浮かべるかのように聴いていけるのはホント、凄い。そして今回はオリジナルアルバムのような曲の表記ではなく、それぞれのセンテンスにタイトルが付されているのもありがたく、どうもファンたちが勝手にこう名付けて本作を語っていた曲の区切り名からそのままタイトル化したらしく、なるほど分かりやすいし覚えやすいし話しやすくなっている。こうしてみるとイントロダクションのあの有名なリフレインと最後のフィナーレだけが長めになっているだけで、後は小曲が挟み込まれているというシンプルな構成も見えてくる。挙げ句パート2の方はもっとそれが顕著でバラバラの楽曲が組み合わされているだけとも思えるもので、アルバムの構成上パート2としていただけかと妙に納得。それでも素晴らしさは変わらずの情景で、いずれにしてもこの美しきアルバム、全くプログレでもないしクラシックでもなく、現代音楽でもなくポップスでもない唯一無二の世界観、あえて言うならば幻想の浮遊感を表した美しく優しい音色の音楽アルバムだろう。2003年バージョンで改めて聴いていたが、どうにも感動してしまいついつい何回もリピートしてしまった次第。本来オリジナルが素晴らしいと書くべき所だが、このアルバムに関しては2003年バージョン「Tubular Bells 2003」を是非とも聴いてみてもらいたいと思う。





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フレ
Posted byフレ

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