Matching Mole - Matching Mole (Expanded Edition)

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Matching Mole - Matching Mole (Expanded Edition) (1972)
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 カンタベリーシーンがややこしく感じるのはプログレッシブ・ロックとの前置きがあってのジャンルに位置づけられてしまうからだと思っていて、それよりも軽快なポップ調のメロディに彩られた中、そのバックのアレンジにはジャズからのエッセンスをたっぷり含んだテクニシャンによるそれらしい演奏が付けられている。そして、時にはその演奏陣営の好みからあまり外れ過ぎない程度にジャズインプロ的な楽器のぶつかり合いや音の作り合いから生まれてくる曲があり、それがフリージャズやインプロと言われればその通りなので、プログレッシブ・ロック的に思われる側面だ。一方では先に書いたようにポップなメロディを武器とする時もあり、どちらがどうとも言えない中で見事に同居しているバンドもある。キャラバンや初期のソフト・マシーン、今回のマッチング・モウルもその類だが、もうひとつ言えるのはそれらのカンタベリーシーンを支えているメンツのそれぞれが各バンドに参加したり組み立てたり、あちらこちらに登場したり友人を連れてきたりと仲間内でのメンバー編成が全くの友人関係らしく出来上がっているので人脈を把握するのに大変になる面か。ただ、それは後で気に入った音を出すバンドや人を意識した時に追いかけていけば良いだけなので、まず音楽的な面では普通にポップ系統のが良いか、フリージャズチックなプログレッシブなものが良いか、の2択な気がする。もっともそれを意識しないでカンタベリーシーンのバンドに挑戦したいという場合もあるだろうが、その際にはキャラバンやソフト・マシーンから入るのが普通だろうし、ちょっとこなれればハットフィールド&ザ・ノースあたりかもしれないが、正直どれもこれも浮遊感漂う鍵盤があってポップなメロディがあって、もしくはクールな演奏が繰り広げられる音楽、とメモっておけば良い気がする。

 Matching Moleの1972年リリースのファーストアルバム「Matching Mole」はソフト・マシーンを離脱したばかりのロバート・ワイアットが同じくQuiet Sunから離れたばかりのフィル・ミラーと何かやろうと組んだバンドで、そこにベーシストのビル・マコーミックを呼び込んで、当時忙しかっただろうと思うが、一方ではキャラバンもドタバタしていた時期でもあったためタイミング的にバッチリと合ってしまったデヴィッド・シンクレアがキャラバンの活動の隙間に参加する事になり、圧倒的なパフォーマンスをここでも展開してくれているので存在感の大きさはハンパない。ある種スーパーバンドでもあるマッチング・モウルは冒頭からデヴィッド・シンクレアが作曲した名曲「O Caroline」から開始するが、ただ単にこの曲が素晴らしいメロディで美しい旋律を奏でる曲と言うだけでなく、ロバート・ワイアットの見事に情けない未練たらたらの男の心の叫び声を歌詞にした素晴らしさもその評価を手伝っている。要するに離婚した奥様かフラれた恋人への未練をツラツラと語っている歌で、美しき楽曲のメロディに相応しく、またロバート・ワイアットの哀しげな歌声にもぴったりな素晴らしき名曲。ソフト・マシーンでの「Moon in June」があるので、ワイアット作曲かと思ったらデヴィッド・シンクレアだったというオチだが、素晴らしさに変わりはない。更にその続きとばかりにタイトルが「Instant Pussy」となる2曲目は妙なコーラスワークばかりが入ってくる浮遊感漂うサイケデリック調ですらあるインプロ要素の強いインストもので、強いて書くなら悩める男の煩悩の最中、とでも言おうか。その煩悩の終わった後に繋がるようにピアノから始まる「Signed Curtain」はこれもまた素晴らしき歌詞で有名。「これが第一節、そしてコーラスで多分サビです。そして第二節で最後のバース。更にサビです。気にしないで、所詮は信じられていない自分の事で、どうせ君には伝わらないから」と結局情けない未練たらたらの恨みつらみが最後に出てくる始末。ただ、こういう歌詞を歌にしてしまうセンスは凄いと思う。意味のない歌詞がここまで書けて、最後には意味を持たせる、と言うか発散する皮肉。見事。

 そして本アルバムの中での目玉曲であろう「Part of The Dance」はフィル・ミラー唯一作で素晴らしき展開を見せるので、冒頭の「O Caroline」の素晴らしさと本曲の素晴らしさ、いずれもワイアット作ではない所がマッチング・モウルらしい。この曲は見事にバンドのインプロヴィゼーションを描いており、ドラムのフィルの凄さ、ギターのフリーさ加減、鍵盤のアドリブ感、ベースのドライブ感とインプロ感も素晴らしく、バンド全員の息が合ってて緊張感も漂う素晴らしきセッションで、2012年リリースの「Matching Mole (Expanded Edition)」盤に収録されているジャムバージョンあたりを聴いていると、そのセッションから随分とアルバム収録用にカットして作り込み、ソリッドなところにまで持っていった事も分かり、その途中経過としての「Take One」バージョンも収録されているので深く楽しめる。テーマは同じながらアドリブスタイルの個々人の噛み合わせなどミュージシャンらしい側面が断片的に聴けるのは実にスリリングだが、この辺りはその角度に興味がないと厳しいかもしれない。何せジャムバージョンは20分強の演奏そのままが聴けるから曲として聴いているとツライだけだし、「Take One」にしても7分半あるのでそれこそアルバムバージョンとの違いもどうなのかと聴かないといけなくなるが、そうではなく、なるほどこういうセッションが繰り広げられてああなったのか、と理解するだけなので面白く聴ける。ちなみに本作のB面からはインプロ中心のジャズカンタベリーそのままが繰り広げられるのでワイアット作ながらもそっちのカンタベリー側面がひたすら流れてくる。この辺りは気分次第でメンバーのプレイヤー要素をどれだけ楽しめるか、となりそうだ。

 2012年になり本作が「Matching Mole (Expanded Edition)」盤として2CDで再発され、本編に加えて「O Caroline / Signed Curtain」のシングルバージョン、もっとも「Signed Curtain」のシングルバージョンのどこが異なるのかよく分からない。それと「Part of The Dance」の21分のジャムバージョン、その語「Take One」バージョン。そして「Signed Curtain」のTake Twoバージョンは5分半にも延長されての収録で歌メロ部分がまたワイアットのコーラスワークで奏でられる歌が長々と展開されているので余計に情けなくなれる事間違いなし。「Mmeories Membrane」は11分強にも及ぶバンドでのインプロ展開曲で、アルバム中のB面に収録されていてもおかしくなかったが、あまりにも似通った曲ばかりになるのを恐れたか、単に収録時間がなかったか、十二分なクォリティの楽曲。そして「Horse」はビル・マコーミックのカッコ良いベースラインとワイアットのドラミングから開始されるジャジーでスピード感のあるカンタベリー的サウンドで個人的にはとっても好みだが、このマッチング・モウルのアルバムに入る曲かとなると少々色合いが合わない気もする先鋭的なオルガンプログレッシブ・ロックに近い作品。最後2曲はBBCセッションから演奏ばかりが収められており、この頃本気でマッチング・モウルで攻めていこうとしているバンドの勢いある姿が聴ける。

 久しぶりに聴き直してみれば2012年のデラックス・エディション盤がリリースされていた事で、これを含めて今回じっくりと聴き直せたから良かった。どうにもジャズインプロ色が強い後半は聞きにくさもあったが、ボーナストラックでいろいろ入ってくれたおかげで曲の制作過程と共に楽しめたのでアルバムそのものもまた新鮮に味わえたし、何よりも歌詞の衝撃が大きかったが、まだまだ知らない事も山のようにあるからこうして何度も楽しめる。





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フレ
Posted byフレ

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