Caravan - For Girls Who Grow Plump in the Night +5

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Caravan - For Girls Who Grow Plump in the Night +5 (1973)
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 プログレッシブ・ロックを聴く機会も昔に比べれば随分と減ったし、そこまで熱を入れて聴けなかったが、それもこれも時間の無さとゆとりの無さから来るものが大きく、時間がゆったりと取れるようになるとまたいつしかその辺りも何度となくアルバムを聴き直してみたりと視界に入るのも必至で、特に最近はそういうゆとりが出来ているのか、プログレの面白さも再認識してふらりと聴いたりする事も増えてきた。気合があまりにも必要なアルバムはまたそれはそれで疲れるのでもう少し余裕が必要な気もするが、そもそもプログレッシブ・ロックと銘打たれていた作品も、70年代だと今聴くとそこまでプログレッシブ・ロック的でもなく、普通にロックとして捉えて聴けてしまう面も大きい。今時のプログレッシブ・ロックがあまりにもプログレッシブだからかもしれないのと、既に何度も何年も月日が経過して自分にも馴染んでいる部分が大きいからだろう。聴けばどこか懐かしく、そして口づさめる部分も多く、ここまでキャッチーだったかと思うくらいには覚えていたりもするので、それだけ一時期は聴きまくったのだろう。思えばもう何十年も前の話になっているが、相変わらず同じようなものばかりを聴いている自分も果たして良いのかどうか。そんな能書きを垂れつつも15年前の自身のブログも突然ここでプログレ、しかもカンタベリーへと舵が切られているのも面白く、しかもカンタベリー・ロックの名盤中の名盤が登場しているから嬉しくなる。随分と久しぶりに聴くアルバムになりました。

 カンタベリーの雄、Caravanの1973年リリース作「For Girls Who Grow Plump in the Night」はリチャード・シンクレアが脱退して云々と言われつつも、それを抜きにして普通に音だけを追いかけて聴いてみればとんでもなく名盤アルバムとして君臨しており、メンバー交代が何の影響も及ぼさなかったどころか好転している兆しすらあり、また一方のリチャード・シンクレアはHatfield & The Northを結成しての名盤が生まれ出るのだからどちらもめでたしな世界。これこそカンタベリーの成せる業でもあり、ジャズのメンバー編成に近く、個人名でプロジェクト組んで都度都度アルバムをリリースする形態が常態化していると思った方が分かりやすい。バンド名にこだわりがない、と言うべきか、そういう作品のリリースで成り立っている。それでもリスナー側はバンド単位で意識するから当然そのバンドの名盤や名演奏が存在するが、その中でも最高峰に位置する「For Girls Who Grow Plump in the Night」は自分も含めて全くヤラれまくった一枚。普通に聴けばどう聴いても軽快でポップでキャッチーなロック。ギターもオルガンも歌も入ってくるストレートですらある軽快なロックなので、カンタベリーやプログレッシブ・ロック的な偏見を持っている方にはちょこっと試してもらいたい一枚で、まるで気負う所のない普通のロックです。それでも当然ながら引っかかる箇所や素晴らしい曲の出来映えやメロディセンス、美しき演奏の組み立て方にオルガンとベース、そしてギターフレーズなど聴き所は満載で捨て曲は無いどころかどれも名曲のオンパレード。しかも小曲が組み合わされた組曲形式もあり、それがまた素晴らしく美しく繋げられて牧歌的な雰囲気に拍車を駆けてくれているので美しい。この質感は他のバンドやアルバムではなかなか味わえない素晴らしき雰囲気。

 圧倒的な名曲「Memory Lain, Hugh / Headloss」から開始され、この軽快なギターリフレインにまず驚くことだろうし、そこから繋がれるボーカルのメロディラインの美しさとコーラスワークには更に不思議な浮遊感を覚えるだろう。そして、ここで新加入となったはずのJohn G Perryのベースラインの歌いっぷりが素晴らしくもマッチしており、このセンスが曲作りの一端を担っているようにすら思う素晴らしきベースセンス。このベースセンスありきでこの曲が成り立っていると行っても過言ではないし、またデイブ・シンクレアのオルガンも素晴らしく美しく鳴り響いてくれる、どれもこれも非の打ち所がない最高の曲で始められる。ちなみに2001年のリマスター盤ではこの曲の「US Mix」バージョンも収録されており、聴き比べてみるとさすがにアメリカのミックス、と言わんばかりにオルガンが強調され、全体的にワイルドな感じにミックスされているのもお国柄の違いが反映されている点がよく分かる。聴き比べれば聴き比べる程にオリジナルミックスバージョンの繊細さが浮き上がってくる素晴らしさ。更にこのディスクには「He Who Smelt It Dealt It ('Memory Lain, Hugh')」としてこの曲の最初期デモバージョンまで収録されており、アコギでかき鳴らされるギターリフからボンボンとしたベースラインも入り、ゆっくりと丁寧に紡がれていく。歌メロも鍵盤で弾かれているし、ドラムも入ってるからバンドでのデモバージョン段階の演奏がきちんと聴けるのも嬉しい。こうしてあの楽曲が出来上がっていったのかと思うと、どこか感慨深く、またバンドのセンスもよく分かるバージョンが楽しめる。そしてアルバムは更に軽快でファンキーさすら漂う「Hoedown」へと進むが、どこまでファンキーにスピーディーに奏でてもこの軽やかさとキャラヴァンらしさは損なわれることなく、どちらかと言えば英国フォークダンス調の延長とばかりに鳴らされる楽曲として捉えた方が賢明なスタイル。ジグやリールまでも登場するから当然そちらの方向から楽曲がアレンジされたのだろう。そして美しさの筆頭格でもある「Suprise, Suprise」へと曲が進み、ここでもJohn G Perryのベースラインが曲を構成していると言っても良い程に引っ張りまくっている。加えてこの美しいメロディラインとサビの歌メロがどこまでも至福の時へとリスナーを旅立たせてくれる素晴らしさ。この曲もボーナス・ディスクにはアコギでのデモバージョンが収録されており、もっと全然ゆっくりとしたまさに英国フォーク然とした曲調が聴ける。これはこれでかなり斬新で美しさが更に募るバージョンとして素晴らしいが、やはりオリジナルリリースバージョンの素晴らしさには敵わない。しかし、ここでもその素晴らしきアレンジ能力が発揮された事が聴いて取れるのは間違いない。続く「C'thlu Thlu」はややムーディなスタイルを奏でた喜劇調の楽曲ながら今度はパイ・ヘイスティングのギターが曲を引っ張り、メロディの力強さも印象に残る作品。

 B面に入り「The Dog, The Dog, He's at It Again」ではキャラヴァンのコーラスワーク全開で、クィーンの三声コーラスワーク重ねとは異なり、もっと上品でソフトにコーラスが重ねられた味わい深い作風で、とにもかくにも品格の違いが圧倒的な素晴らしさ。そして打って変わって力強いロック風のアレンジから始まる「Be All Right」が鳴り響き、パイ・ヘイスティングのギターの音色がこれもまたエグく突き刺さってくる派手な展開が印象を強めており、続いてのデイブ・シンクレアの鍵盤も後に続く勢い余りあるロックチューン。そこから「Chance of a Lifetime」に流れると突然雰囲気たっぷりでムーディな音になり、この辺りがカンタベリー的ロックと言うか、普通にロック曲だけで進まないあたりで、しかも聴いていると妙にその世界が心地良く馴染んでくる不思議。ここでもJohn G Perryのベースラインが曲の骨格を見事に打ち出している。そしてラストは5曲の小曲からなる11分弱の組曲で、ユニークなのは作曲陣営の中にマイク・ラトリッジの名がクレジットされている辺りで、なるほどこの時期に登場とはソフツで居場所が無くなりつつある頃かと勘ぐりながらも昔の仲間の所でちょっと遊んでいたら出来上がったような話かもしれない。そんな所がカンタベリーシーンの身内仲間ネタらしくて微笑ましく見えてしまうが、それにしてもこの組曲のヘヴィさと軽やかさとメロディックさ、どれもこれも流石に組曲として持ち込むだけあり聴き応え満載の迫力のサウンドに仕上がっているので、本名盤の最後に相応しい大曲でアルバムを聴き終えた感が募る。ちなみに2001年のリマスター盤には「Be All Right / Chance of a Lifetime」もプリプロバージョン的なバンドデモが収録されており、そちらもゆっくりとしたバージョンでのバンドの演奏が聴けるので興味深い。また、完全未発表曲として新たなるメンバーによるセッション曲の「Derek's Long Thing」が11分弱で収められており、これもまた新しい世界観を見せつけるかのような作風に仕上がっており、メンバーの相性も悪くなく期待させるスタイルの曲だ。

 アルバム・タイトルも人を食っているし、ジャケットもそうですか、としか言えない写真ながら中味は恐ろしく充実しまくったカンタベリー・ロック最高峰の作品で、全く素晴らしい以外の言葉もない傑作。改めて聴いてみても冒頭に書いたようにプログレッシブ・ロックをまるで意識する事なく普通にカッコ良い軽快なロックとして捉えて聴いてほしい作品。





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フレ
Posted byフレ

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