Johnny Winter - Saints & Sinners

2 Comments
Johnny Winter - Saints & Sinners (1974)
B000002ARU

 多少なりとも自分の中で知っている方だと思っていたミュージシャンやギタリストでも今の時代になり、ネットでちょこっと調べ直してみるとぞれはもう膨大な情報量がすぐに読めてしまし、また音も聴けるので昔からちょっとやそっとのアチコチの雑誌やライナーノーツ、聞きかじった程度の情報レベルとは雲泥の差があり、キャリアなどはまるで意味のない情報過多の時代になっている事に改めて驚かされる。ジョニー・ウィンターについても随分と古くから知っているギタリストだし、アルバムも初期からそれなりに揃えて聴いていた人だったが、英国ロックのように幅広く深く探求しなかったのはある。それでもどことなく見知った人だったが、今回久々にアレコレ見ていたらそんな経緯があったのか、と知らなかった逸話に巡り会い、またインタビュー記事も見れた事なかったが、今じゃそれなりに見られたりもするのでジョニー・ウィンター自身の考え方や影響、どういう状況でアルバムを作ったのか、メンバーを変えていったか、また音楽性の変化も含めて当然ながらそれらの理由も分かったりして、ホント、知らなかった事ばかりだったので面白かった。今回も取り上げる際に、実は最初期のメジャーデビュー前時期の音源をまとめたアルバムあたりを紹介しようと考えて聴いていたが、どうにも面白味がないため、どういう経緯でこうなっているのかと探求してみれば納得。簡単に書けば15才頃から天才ギタリストとして名を馳せ、さっさとギターで稼ぐために売れそうな音楽は何でも作ってシングルでリリースしていったようだ。一方でブルースはカネにならないから趣味でやり続ける音楽と決めていたらしいが、それもこれも1960年代初頭からのお話。その後60年代末期頃になるとブルース・ロックが普及してきたので様々な側面からそちらにシフトする事を決めて100万ドルのギタリストとしてコロンビアとメジャー契約を果たしたと。実際は30万ドルや60万ドルとも言われており、100万ドルはなかったらしい。

 そのジョニー・ウィンターもブルース・ロックで出てきたは良いが、早々にブルースではシーンの時代遅れになるとこれまたアチコチから指図が入り、食うにはしょうがない、とそこで空いていたThe McCoysのメンバーと弟のエドガーを従えてご機嫌なR&Rサウンドを奏でる方向へチェンジ、そのヒットがリック・デリンジャーとの邂逅とJohnny WInter Andの結成となり、70年代中盤頃まではこのR&Rスタイルをひたすら突っ走る。その中で最もバランス良く、またあらゆるカテゴリーやジャンルにも手を伸ばせば届くと言うようなR&Rスタイルが聴けるのが1974年リリースの「Saints & Sinners」。この人の場合はオリジナル曲もカバー曲もレベルに差がなく、どれもこれも自分流のスタイルでプレイするのと、そもそも似たようなサウンドをカバーするのもあって、アルバムの統一感は半端ない。本作もオリジナル曲は半分も無いだろうが、どれもこれもジョニー・ウィンター節が貫かれているからか違和感なくご機嫌なR&Rアルバムとして最初から最後まで一気に聴ける快心の作品。それに加えてジョニー・ウィンターよりも曲作りのセンスに長けた弟エドガー・ウィンターと、これもセンスの良いリック・デリンジャーの両名が積極的にジョニー・ウィンターに協力しているから曲の粒ぞろいの良さも素晴らしいバランスで鳴ってくれる。むしろジョニー・ウィンターオリジナル曲の方がシンプルすぎて見劣りする面すら感じられるが、その意味ではチャック・ベリー曲あたりも入ってくるので、バランス良い。更に面白いのはここでストーンズの「Stray Cat Blues」までも取り上げている事で、この後にはストーンズから曲を貰い受けるので、相性も悪くないのだろう。意外なジョニー・ウィンターの側面がもうひとつ、ヴァン・モリソンの「Feedback On The Highway 101」までもカバーされている辺りで、ジョニー・ウィンター自身はカバー曲にさほど想い入れがあるワケでもなく、周辺から良いんじゃないかと言われる曲をそのままジョニー・ウィンター流にしてカバーするらしく、ブルース以外は大抵そんな感じのようだ。それで簡単に出来てしまうのだから当然ながらのミュージシャン。

 「Saints & Sinners」は始めからご機嫌な曲が流れてくるが、Supas Jamboreeなるバンドの1971年の曲「Stone County」のカバーで見事にカントリー風味を出したジョニー・ウィンター的には少々珍しいパターンではあるが、その分幅の広さをアピール出来ているか。特にギタリストとしての技量が聴かれる作品でもないが、掴みは上々でバンドのコーラスワークが素晴らしい。続いての「Blinded by Love」はその筋では有名なアラン・トゥーサンの曲だが、本人リリースバージョンの前にジョニー・ウィンターがリリースしているパターンで、ソウル・ファンク的なスタイルは後のアラン・トゥーサンそのままだろうが、ジョニー・ウィンターがここでプレイするのもなかなかユニーク。ただ、これも当然ギタリスト志向からはさほど意味もなく、ジョニー・ウィンターとバンドの器用さが花開いている感じで、リック・デリンジャーの趣味っぽい気が多分にする。そしてようやくご機嫌中のご機嫌曲、チャック・ベリーの「Thirty Days」が出て来てノリノリのプレイが聴けるが、ここまで全てアメリカらしい明るさを持っているのはさすがだ。ここまでと言うよりはアルバム全てがその雰囲気だが、バンドにゆとりがあった時代だからこその音にも聴こえる。そして待望のストーンズ曲「Stray Cat Blues」はさすがに本場のブルースメン、ジョニー・ウィンターがプレイするとストーンズよりももっとブルースなスタイルが顕著になるバージョンへと進化しており、圧倒的にジョニー・ウィンターバージョンの方がそれらしく、ギタープレイも流暢で完全にお手の物にしている。なるほど、だからこそストーンズもジョニー・ウィンターに楽曲提供したくなるはずだ。ミック・ジャガーがブルースを一生懸命歌う時の声とジョニー・ウィンターの歌声も割と親しい事も判明したユニークなカバー曲。「Bad Luck Situation」はジョニー・ウィンター作となっているが、アレンジのせいかこれもまたリック・デリンジャー色がかなり付いている3コードR&Rで、この辺りはもうギタリスト諸氏には聴き応えのある作品が並び、続いてのエドガー・ウィンター作のかなり秀逸な楽曲「Rollin' 'Cross the Country」は全くジョニー・ウィンターにぴったりなスタイルで、さすが兄弟、兄貴のクセを良く知っていると言わんばかり。そしてオーソドックスな50年代のブルースのカバー「Riot in Cell Block #9」はもうギター必聴パターンでこれこそジョニー・ウィンター色満載の楽しみ。かと思えばジョニー・ウィンター自身の作品「Hurtin' So Bad」は珍しくも泣き叫ぶR&Bスタイルでの歌もの系でホーン・セクションまで入っている代物。なかなか聴けないこういった曲もすんなりと馴染んでしまう本作の懐の深さが見事で、その余韻を余所に、最高にご機嫌な「Boney Moronie」へ続き、なるほど全くアメリカンな野郎だぜ、と言わんばかりにプレイし、歌っている。こういうスタイルを聴いているとアメリカではジョニー・ウィンターはどこへ行ってもライブでウケただろうと勝手に想像してしまう。そこまでやっておきながらここでヴァン・モリソンの「Feedback On The Highway 101」でまた随分とソウルフルにカチャカチャとギターを鳴らすのだから面白い。この辺はバンドメンバーお得意の楽曲にも思えるが、オリジナルリリース時は本曲が最後を飾っていた。CD時代になりボーナストラックでジョニー・ウィンターお得意のドブロでのスライドが超絶にカッコ良い「Dirty」が加えられているので一気に引き締まるアルバムとして終える。これこそジョニー・ウィンターのギターと言わんばかりに痺れるスタイルは全曲を聴いた後になると、アルバムには似つかわしくなかったと思えるが、それでもこうして聴けるのは嬉しくありがたい楽曲。







関連記事
フレ
Posted byフレ

Comments 2

There are no comments yet.
Tommy  
2人のサポート

本年初めての投稿させて頂きます。
私はこの時期が一番のお気に入りです、というのもご指摘のようにエドガー、リックデリンジャーの2人の素晴らしいサポートが全面に入っている時期のアルバムだからです。
特にエドガーのアレンジは秀逸でHurtin' so batという曲でのホーン、オーケストラアレンジはブルースの泥臭さを良い意味で抜いてスマートでかっこいい曲に仕上がっているかと思います。
この後は2人のサポートから少し離れてフロイドラドフォード、リチャードヒューズらとR&Rをライブ盤などで披露していきますが、やはりそれ以前の先程の2人のサポート時代の方が私の好みからすると格段に素晴らしい曲、演奏ではと感じてしまいます。
本来のジョニーは更にその後のブルースに特化した時期が元々やりたかった事だとは思いますが70年代中期までが私のジョニーの最盛期であったと今でも思います。
最後に追記ですが、Togetherのライブ盤の完全盤や映像は出てこないものでしょうか?
未だ待ち続けています。

2021/01/09 (Sat) 10:25 | EDIT | REPLY |   
フレ
フレ  
>Tommyさん

Together期もアリそうなモンですけどね。また何かの機会まで待つしかなさそうな…。

2021/01/10 (Sun) 21:39 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply