The Gil Evans Orchestra - Plays the Music of Jimi Hendrix

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The Gil Evans Orchestra - Plays the Music of Jimi Hendrix (1974)
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 ジミ・ヘンドリックスがマイルス・デイヴィスと一緒にプレイする予定だった、少なくともその方向性を睨んでいた、と言われているが、実際それは噂だけでなく、ギル・エヴァンスの指揮の元、1970年9月21日に皆が一同に介して様々な可能性を打ち合わせる予定だったらしい。ところがジミはその直前の9月18日に旅立ってしまった事から幻の会合と化し、またマイルス・デイヴィスとジミヘンのセッションの可能性も消え去った。そこには実はギル・エヴァンスが介在している事があまり知られておらず、両者の知名度から夢を膨らませるおとぎ話ともなっていた。一方の仲介者、ギル・エヴァンスはその時に企画していたジミの楽曲のジャズ・オーケストラアレンジもアタマにあり、いつか発表したいと目論んでいたのか、機会を伺っていたのか不明だが、歴史的にはきちんと1974年にカーネギー・ホールでジミ曲だけのコンサートを行い、その後直ぐに本アルバム「Plays the Music of Jimi Hendrix」をレコーディングしている。昔このアルバムの存在を知って聴いた時にはジャズオーケストラの総帥がこういうのを手がけるものなのか、それにしては妙にマチマチで印象が異なる曲も多いし、やはりジャズは深い、と思ったが、改めて紐解いてみると、どうやらギル・エヴァンス自身がアレンジしたのは数曲だけで、他は本アルバム参加の弟子たちがアレンジを手がけており、なるほどその人達の個性が出たアレンジに仕上がっていたようだ。

 1974年のリリースなのでジミ亡き後4年前後が経過しているが、録音されているカバー楽曲がかなり渋い、と言うかこのくらいの楽曲でなければあまりにもジミ色が強すぎてジャズアレンジすらも出来なかったのかもしれない。とは言っても「Foxy Lady」や「Voodoo Chile」が入っているのでジャズアレンジ面から見た時にぴったりとマッチしそうな楽曲が選ばれただけだろうか。端的に言ってしまえば、ギル・エヴァンスが手がけた楽曲「Castle Made Of Sand」「Up From The Skies」「Little Wing」あたりは原曲のイメージすら思い出す事なくジャズ・オーケストラアレンジが施されていて、まったくジャズってのはこういう原曲分からなくするのが上手いアレンジが存在するものだとつくづく思う。その意味では他の弟子たちのアレンジした楽曲はジミらしさ、元の曲らしさが残されている中でのアレンジなので明らかにギル・エヴァンスとのアレンジ能力の差、ジャズオーケストラの指揮者編曲センスの圧倒的な違いが際立ってしまっているとも言える。「Crosstown Traffic」などはボーカルラインまで入ってくる始末で、ギターの音色部分が他の楽器で鳴っているだけじゃないかとすら思えるアレンジもあり、聴きやすさはあるもののジャズアレンジのオーケストラに求める音でもないが、その辺りが入り混じっているからこそこのアルバムは聴きやすくもあり、また編曲者のセンスの違いを味わえる聴き方も出来て楽しめるし、飽きない面がある。こうして聴いているとギル・エヴァンスとマイルス・デイヴィスとジミだけで構成されたサウンドだったら一体どうなっていたのだろう、と興味津々で妄想も果てなく紡がれてしまう。旋律はマイルス・デイヴィスが哀しげにトランペットで鳴らすとしてもオーケストラアレンジはギル・エヴァンスのこの明らかに原曲からかけ離れたスタイルだろうし、など。

 やはり静かめの楽曲、「Angel」や「Little Wing」などは仰々しいジャズオーケストラアレンジが向いているし、特に「Little Wing」は元が素晴らしいからもあるが、ギル・エヴァンスのこういったアレンジになっても美しく素晴らしいのでホント、マイルス・デイヴィスのトランペットだったら、と思ってしまうくらい。それにしてもあれだけのロック曲「Voodoo Chile」のぶち壊しぶりもかなり凄まじいし「Gypsy Eyes」あたりだと妙に分かりやすいアレンジが施されているのもあって、聴けば聴くほどにジャズの深さを理解していくかもしれない。基本コード進行と主旋律はキープされているが、ジャズの場合はコード進行が同じでも使われるコードが異なったりメジャーでもマイナーでも展開されるし、鳴らされる音の違いから別のトーンに繋がるなどどこまでも突き抜けていけるのが魅力。故に何の曲か分からなくなるくらいにアレンジされるのが多くなる。アナログ時代には7曲しか入っておらず、先の「Little Wing」も未収録だったがCD時代になりボーナストラックとして追加され、2001年のリマスター盤では「Little Wing」に加えて「Angel」「Castles Made of Sand」「Up From The Skies」「Gypsy Eyes」の別テイクが収録されているようだが、そこまで大きく変化があるようにも聞こえないのは自分の聞き込みが足りないせいだろうか、やはり自分には少々大人しすぎるアルバム、否、大人のアルバムのため自分にはまだまだ慣れ親しめないハイレベルなのだろう。話題の面白さとジミヘン曲のジャズアレンジにしてもそこまでセールスが伸びなかったようで、あと数歩の捻りや取り組みがあれば変わったのかもしれない。それでも1974年の初発表からギル・エヴァンスは何度となくこの試みにトライしているので、自信の作品だったのかまだまだいつまでも未完の楽曲群だったのか、いずれにしても難関な作品に取り組んでしまったようだ。






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フレ
Posted byフレ

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おっさん  

フレさん今年もよろしく。
ギル・エヴァンスは晩年まで
ジミヘン曲を演奏していましたし、
マイルスもグループのギタリストに
「ジミヘンのように弾け」と言ってたので
ジミヘンがジャズに与えた影響は大きですね。

2021/01/08 (Fri) 06:16 | EDIT | REPLY |   
フレ
フレ  
>おっさん

ども♪今年もよろしくです。

しかし晩年までやってたんですか…、凄い影響力ですねぇ。

2021/01/08 (Fri) 22:54 | EDIT | REPLY |   

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