Mountain - Twin Peaks

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Mountain - Twin Peaks (1974)
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 70年代のロックをひたすらに探求していくと必然的に英国のロックばかりが中心になり、そのまま60年代後期も漁る事になるので、反面アメリカのロックの歴史を紐解いている時間が多く取れずに自分的にはかなり後回し的おざなりな状態だった。それでも70年代ハードロックレベルになればキッスを筆頭にエアロスミスやその辺りのハードロックにも目が向いていったが、そういう区分けを意識する前、普通にロックを聴いてカッコ良い、と思った時にいくつかレコードを漁った時があり、まだまだ随分と子供の頃だったので記憶が怪しくもなっているが、MTVか何かで一瞬だけ見たのがマウンテンのレスリー・ウェストのプレイで、その頃マウンテンのライブビデオなど無かったと思うのでどこかの何かのTV番組を流していたのかもしれない。恐ろしくデカくてデブで、到底ロックとは無縁なスタイル、カッコ良さがまるでない風貌をやや斜に構えながら見ていながらも出てくる音のカッコ良さ、特にギターの音色とフレーズのまろやかさにかなり痺れていた。それでもこんなかっこ悪いバンドを気に入っている、好きなバンドだ、などと思ってはいけない、それはロックに反する、などとどこか勝手なロック幻想を抱いていた中で思って、封印していた気がする。それでもあのギターとマイルドなトーンは印象深く残っており、今じゃそのレスポールスペシャルは自分の手元に置いてある一本にまでなっているのだから縁深い。そのレスリー・ウェストが年の瀬も迫ってきた先日、この世を去ったとの報が入り、いつもながらそこまで感情に揺られる事もなかったが、ただ、そうか、と思ってその訃報を読んでいた。どこか残念、と言うか、あのギターを今でも聴けた訳じゃないから重ね合わせての思い出もおかしな話だが、やっぱり好きだったな、あのギター、と思って何枚か引っ張り出してマウンテンを聴いていた。

 味わい深いギタープレイとメロディとフレーズ、そしてトーン。昔、マイケル・シェンカーがレスリー・ウェストに最も影響を受けていると何かのインタビューで読んだ事があって、どこがどうしてそうなる、と少々不思議に思っていたものの、何度かレスリー・ウェストのギターを聴いていると納得してくる。確かにメロディアス感も練られているし、ギターのトーンにしても上手い具合にマイルドに作り上げていて、突き刺さらないサウンドを出しているし。フレーズで言えばペンタトニック中心なのはブルース・ロックだから当然ながら、そういうブルースフレーズを武器にしたプレイでもなく、音使いがペンタトニック中心でプレイがハードロックで、メロディを意識して弾いている元祖かもしれない。ただ単にブルージーに、ではなくメロディアスに、にこだわっているのか、自然にそうなるのか、その辺りは正にマイケル・シェンカー的ですらあり、なるほどと頷ける部分。久しぶりに聴いたMountainの1973年8月の大阪厚生年金会館でのライブを収録したアルバム「Twin Peaks」は相変わらず、そして無茶苦茶熱気ムンムンの会場の空気がそのまま聴こえてきた。きちんと書けば、知られているように一度解散したマウンテンからレスリー・ウェストはジャック・ブルースとコーキー・レイングとバンドを組み、日本公演まで決まっていたが、その直前に空中分解してしまった関係上、元々マウンテン再結成を願っていたレスリー・ウェストが契約消化の重要性もあってフェリックス・パッパラルディにヘルプを頼み、他もセッションメンバーを見つけて再結成マウンテンとして来日公演を行ったショウを記録したのが本作。コーキー・レイングとモメてなければ引っ張り込めただろうに、そっちを連れてこれなくてフェリックス・パッパラルディと来たワケだ。結果的にはフェリックス・パッパラルディとレスリー・ウェストがいればマウンテンとして成り立つとの回答は正解で、実に素晴らしいライブプレイを聴かせてくれた。この前の年のフリーの来日公演でもファンは何も知らないままにポール・ロジャーズとサイモン・カークしか残っていないフリーを見せられていたようだが、ここでは逆にレスリー・ウェストだけでも見れればとのライブからフェリックス・パッパラルディまでも見れて、マウンテンのライブを体験できたとの嬉しい勲章まで付いた。それが1974年にリリースされ、マウンテンの再結成ライブ一発目のアルバムとして歴史に残されているが、今の所デラックス盤などで拡張された再発は行われていない模様。

 冒頭の「Never In My Life」からしてあの調子でのヘヴィなリフとプレイでいきなりブルースハードロックの渦に巻き込むアクの強さとレスリー・ウェストの今度はボーカルスタイルの迫力も素晴らしく、ギターのトーンと相まってぶっ飛びのパフォーマンスを満喫できるし、そのまま今度は歌のメロディまでトロリと溶け込むかのような「Theme for an Imaginary Western」が続けられ、2曲目にして既にライブの佳境を迎えた気分になり、ずっとライブを聴いている気がしてくる。この懐かしさ、哀愁さ加減のメロディメイカーは実に素晴らしく、それがライブだと普通はテンション劣るが、レスリー・ウェストの場合は逆に更に感情豊かに盛り上げてくれる。しかもギターソロまでもがメロディアスに鳴らされ、見事にギターが歌っている姿が聞けるし、その隙間と言うかバックでプレイされているベースプレイの起伏の素晴らしさも躍動感を煽っている。さらにそのムードを保ったかのように今度はロックに展開されるヘヴィナンバー、そしてギターのメロディが見事な「Blood of the Sun」辺りからはサイドギターのボブ・マンのプレイぶりも実は結構な役割じゃないかと目立ってくるし、そのプレイは実はレスリー・ウェストに引けを取らないプレイとフレーズで、似せているのか元々似た環境でのギタープレイをする人なのか、だからこそレスリー・ウェストが気に入って連れてきたのだろう。そして夏なのに「ジングル・ベル」が間に挟み込まれる不思議な季節感を持つレスリー・ウェストの6分弱のギターソロコーナーもリズムがしっかりしていて、フリーながらもフリーではないプレイが聴きやすい。そしてアナログ時代にはCD面に跨って収録されていた「Nantucket Sleigh Ride」はCD時代になってからは32分まるごと切れ目のない長尺バージョンで聞けるようになり、一つのライブの中でどれだけ重要なポジションでプレイされていたかも分かる感じとなっている。冒頭の勢いはともかくながら、白熱のプレイからレスリー・ウェストのソロ、そしてボブ・マンとの掛け合いギターソロ、ベースの唸りも挟みながら動から静へと曲が進んで終焉へと向かい、そしてまた歌に戻ってこの大作をもとに戻して美しいメロディを奏でて終わる。アメリカのこの時代にこういう形で30分もライブを演奏するバンドもほぼ無かっただろうし、今でもなかなか見当たらないだろう。インプロではあるがインプロだけでもなく、それなりに形作られているのでプログレッシブなブルースハードロックとも言える唯一無二の傑作、そしてそれが存在できた時代の素晴らしさとバンドの力量。

 その大作が終わればややご機嫌なムードに戻っての「Crossroader」でやはりブルースに根ざしたバンド感を戻してくれ、やや軽めにすら聴こえるプレイにホッとする。かと思えばこちらも名曲「Mississippi Queen」で迫力の歌声と圧巻のギター、そしてベースのブリブリ感も出しながらの正しくアメリカンロックバンドなスタイルで攻め立ててくる。この辺りは英国ロック連中では出てこない風味なので面白い違和感を味わえる。「Silver Paper」はひと山超えた後に出てくるような終焉に相応しい軽快なナンバーで、ここでも当然ながらギターが主役なので嬉しく、ここまでギター弾きまくってくれるライブアルバムもなかなか多くないのでギター好きなら聴いていてかなり満足できるライブ。最後の最後はこれでぶっ飛んだ人も多いだろうチャック・ベリーの「Roll Over Beethoven」のカバーながら、今で言えばもっとヘヴィメタリックですらあるアレンジとギタープレイなので度肝を抜く。カッコ良いと言うよりもヘヴィすぎる解釈とこれもまたお得意とばかりに、そして想像と何ら変わらないそのままのギタープレイを聴かせてくれる満足感。いやはや、日本公演がここまでのクォリティでのライブアルバムに仕上がるのはやはり嬉しいし、今の時代でも名ライブアルバムとして語られるのも納得の素晴らしい作品。良い時期に良いバンドが来日し、記録が残されていて良かった。レスリー・ウェストも存分に楽しんでこの世を去ったと思いたい。





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フレ
Posted byフレ

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