Pink Floyd - Piper at the Gates of Dawn (40th Anniversary Edition)

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Pink Floyd - Piper at the Gates of Dawn (40th Anniversary Edition) (1967)
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 Pink Floydの話をするとそれぞれ実は好きなアルバムや時代、作品や楽曲が異なるし取り組む姿勢も異なる。それは単純にピンク・フロイドが恐ろしく幅の広い、深みを持ったバンドと言うに他ならない事だろうが、自分もその深さ広さを意識しないままにロックバンドとして聴いていたからどうしても後期=いわゆる「狂気」以降の作品がもっとも馴染み深くて好きで良く聴いた、聴いている作品群となる。その直前までのいわゆるプログレッシブ・ロックと呼ばれ始めた頃の「吹けよ風、呼べよ嵐」「エコーズ」あたりを中心とする音楽的実験精神旺盛な時期は聴くには聴くし、人並み以上には聴いていたが好きかと問われるとそこまで好きでもないかもしれない。世界観としては好きだし聴いてて心地良いし音が鳴ってればそれなりに口づさんで次のフレーズまでも分かるくらいには聴いているからそこはあるが、やはり「狂気」以降が一番。次はそのプログレッシブ・ロック期。難しいのは自分的には圧倒的にロジャー派なのでギルモア時代のフロイドをどう捉えるか、と忘れてならない最初期のシド・バレット時代との接し方だ。ギルモア時代は美しきサウンドイリュージョンを中心とした音楽集団として雰囲気を楽しむ意味で完成された構築美があるので、それはそれでありだろうし最近も「Delicate Sound Of Thunder」のリストアバージョンがリリースされているので、それもまた気になると言えば気になるが、未だに難解と言うかきちんと制覇し切れていないのが実はシド・バレット時代のピンク・フロイドそのもの。1966年のUFOクラブでの「Interstellar Overdrive」のライブ映像を昔々に見た事もあって、凄さやトリップ感、サイケデリック感は実感しているがそれが好きかとなると少々違ってて、怖さもあるしやはり理解しきれない自分もいてロックへの憧れと同時にドラッグ世界で見られる情景は想像するしかなく、その世界をあまりにも天才が音楽で作り上げてしまった作品は到底理解仕切れないのも当然。その怖さや難解さが悩ましく、それでも迫力や凄さ、あまりにも超越した何かは全身で感じられるので困りモノ。分からなければ、と切り捨てられれば良いが、何か引っ掛かるし、ロックを追い掛ける以上このハードルはいずれにしてもぶつかるだろう。そういった難しさを孕んでいるのがピンク・フロイドだ。

 1967年に発表されたピンク・フロイドのファーストアルバム「Piper at the Gates of Dawn」はピンク・フロイドと言うよりもシド・バレットの唯一のまともな精神状態時で制作された作品として捉えた方が賢明だと思っている。これをピンク・フロイドの作品とするとこの後の作品とは到底整合が取れないし、作風もアプローチも、そもそも作っている人が異なるのだから当然だろう。そこから見れば後年のピンク・フロイドとはシド・バレットの幻想を追うのみで超えられない集団が音楽的主張で頑張りきったバンドとも言えるが、当然そんなややこしい評価にはならず、純粋に「狂気」以降のピンク・フロイドが最高のバンドで、それ以前のプログレッシブ・ロック時代は「狂気」までの布石、プログレッシブ・ロックの実験時代と位置付けられ、ファーストアルバムの「Piper at the Gates of Dawn」は異質なサイケデリック作品で、時代がそうだったからと片付ける事も出来る。とは言えピンク・フロイドだ。やはりシド・バレットだ。今回随分久しぶりにきちんとファーストアルバムに取り組んでみたが、今の時代になると色々と再発が重ねられていて昔ブログに書いた時とはまた大きく状況が変わっているが、大きくは2007年に40周年記念盤として「Piper at the Gates of Dawn (40th Anniversary Edition)」がCD2枚組、デラックス・エディションではCD3枚組でリリースされている。1枚目のディスクはモノラルバージョン、2枚目がステレオバージョン、3枚目はレアシングル集や未発表曲が収められたボーナスディスク的扱いだが、マニアな方々の間でも賛否両論溢れるモノステ議論がまとめて聴けるのもありがたい。モノラル盤は全く再発されていなかったようで、このリリースは皆が皆手放しで喜んだようだ。そして近年、2019年にはオフィシャル盤ではないようだが、超マニアが評判の悪いステレオ盤をそこまでじゃないだろうと奮起してモノラル盤とステレオ盤と最近のテクノロジーを駆使して音の分厚い今の時代に通じる2019リミックスステレオバージョンを作り上げてアングラで流通しているが、これがまた確かに随分と手の込んだ、そして音圧もパワフルで初期音源の弱さを全て払拭するかのような音質に仕上げている傑作。そのうちオフィシャルもこういう形でリリースしてくる可能性もあるが、今更ここまでいじれるかとなると難しいかもしれない。

 モノラル盤とステレオ盤については時代考証の上で良し悪しが変わってくるが60年代なかば頃まではモノラル盤が一般的だったので、その時代の作品でステレオ盤と銘打ってあっても、それはステレオに分離されている程度の話でステレオに対応する音圧や音の散りばめ方が未熟な時代だからステレオ盤は本作も含めて随分と陳腐で弱々しく薄っぺらい印象の音作りになってしまう。もっともモノラル盤を聴いてしまうとその印象が深まるとの話なので、ステレオ盤しか聴いていなければそういうものだ、と割り切れるが、こうしてモノラル盤を普通に聴けてしまうとその音のチープさは顕著になるし、確かにもっと今時の音圧とミックスで増強したら更に一層カッコ良いアルバムに聴こえるかもしれないと幻想を抱く。それまでは当然モノラル盤に分があるのは当然だが、それでも60年代終盤にもなればステレオ盤の幅の広さは既にうまく活用され、音圧も高まりアルバムは大抵ステレオ盤に進化していくから技術の進化、プロデューサーやバンド、エンジニアの技術の発展も貪欲な姿勢を見せている。少々前から60年代のバンドについては大抵モノラル盤が好評を博しているが、今なら大抵モノステ両方が入手できるので聴き比べも随分進化しており、アチコチのサイトでマニアックな諸氏がきちんと両者の違いを解説しているので素人が聴いていてもなるほど、と分かりやすく納得して楽しめている。不思議なのはモノステと何かしらの音の出る位置が異なったりする場合で、それは明らかに別ミックスのみならず別の録音ソースを持ち込んでいる状態とも想像されるので、異なるトラックの音が入れられているか、機材がまだそこまでシンクロしていなかったからタイミングがズレて入ってしまうのかだが、それも有り得ないので不思議な話だと思っている。曲の長さが異なったりイントロがあったりなかったりみたいな話はミックスが別だから分かるし、ステレオなら入れても良い音もモノラルだと埋もれて邪魔になるから小さくしたりと言うのは分かるがいずれにしてもそんなマニアックな楽しみをするには今の時代ならデジタルに変換した曲をモノステ並べて同時再生するのだろう。随分マニアックな話だ。

 そして本作「Piper at the Gates of Dawn (40th Anniversary Edition)」もモノステでは明らかに異なり、浮遊感やサイケデリック宇宙観で言えば当然ステレオ盤の方がマッチしているので、それが一般的そして当時からしてもピンク・フロイドのスタンスが理解しやすかったと思うが、一方のモノラル盤の音の図太さが塊になったサイケデリック感を味わせてくれるのもまた魅力的。正直楽曲については理解不能で、妙にポップなメロディだけがアタマに残るのもあればグワングワンするだけのもあれば「星空のドライブ」のように魅力的でシリアスなロックスタイルを実感する曲もあり多彩多様、ただしどれもこれもシド・バレットの宇宙観だからやはり理解は仕切れない所に戻る。ひたすらメンバーが、そうあのロジャ・ウォーターズ、ニック・メイソン、リック・ライトがシド・バレットの世界観を再現するためだけに集中して音を探し出して紡ぎ出しフワフワ感を作り上げている。ただ面白いのはそれだけのメンバーが頑張って音を作り上げているのに、シド・バレットはひとり、ギターと歌でそれらとは明らかに次元の異なる超越した世界観を出してしまっていて、その差は歴然と存在している。その際立ち感は普通に聴いているだけでは分かりにくいし、何度聴いても意識しないと分からないだろうが、何十回と聴いているとそれは明らかに別世界が存在すると分かるし、聴いている側から2つの世界が組み合わさっている作品だと認識出来るだろう、いや、そういう風に聴いている自分。所々バンドで共作と言うか共演セッション的になっている曲でその境目を曖昧にしているが、圧倒的にシド・バレットの恐るべし世界がアルバムを、バンドを制している。だからこそロジャ・ウォーターズはシドが壊れた時に途方に暮れてバンドをどうするか悩んだのだ。なるほど、そういう歴史を知って本作を聴いてみれば全くその通りにシド・バレットの世界だけを再現したバンドが初期のピンク・フロイドだったワケだ。ただ、それでもロジャ・ウォーターズの世界が出来上がり、バンドは世界を、そして今の時代までも制覇したのだから凄い。皆が皆シド・バレットを持ち上げすぎている面もあるが、ロジャ・ウォーターズのふんばりと才能も素晴らしい。また、このファーストアルバムで言えば、リック・ライトのピアノやオルガンなどの効果音的センスはロジャ・ウォーターズよりもシド・バレットの世界を表現できているような気がする。改めてモノステで聴き直し、同時に楽曲のアプローチも深く聴き直した「Piper at the Gates of Dawn (40th Anniversary Edition)」だが、以前よりも全然好きになってきた気がする。







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フレ
Posted byフレ

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photofloyd(風呂井戸)  
フロイドの原点と・・・

「シド・バレットの宇宙観だからやはり理解は仕切れない所に戻る。ひたすらメンバーが、そうあのロジャ・ウォーターズ、ニック・メイソン、リック・ライトがシド・バレットの世界観を再現するためだけに集中して音を探し出して紡ぎ出しフワフワ感を作り上げている。・・・シド・バレットはひとり、ギターと歌でそれらとは明らかに次元の異なる超越した世界観を出してしまっていて、その差は歴然と存在している。・・・何十回と聴いているとそれは明らかに別世界が存在すると分かるし、聴いている側から2つの世界が組み合わさっている作品だと認識出来るだろう、いや、そういう風に聴いている自分。・・・・圧倒的にシド・バレットの恐るべし世界がアルバムを、バンドを制している」
 感動的なフレさんのシド・バレット・フロイド分析拝見しました。アルバム・タイトルからしてシドの好きな童話からであり、ロジャーの曲は"神経衰弱"のみ、その他は全てシド単独かシドが関係している。ライブでの彼らのペインテット・サウンドと呼ばれたフロイド色はむしろこのアルバムでは薄れている。シドたりともビートルズからの影響を受けたポップ感覚がここでは表に出ている。やはりシドの独壇場、シドとロジャーの違いが"曲の演奏の中から感ずる"というフレさんに脱帽です。
 シドが危うくなった後のロジャーのフロイド再建は、彼の色で進められたことは事実で、次のアルバム「神秘」でインスト曲"神秘"の登場が、ここに既に"戦争とその後"が描かれるなどロジャーの世界が顔を出し、シドとロジャーは明らかに異なっていたことが解りますね。私個人はこの「神秘」以降が・・・フロイドなんですが。そこは皆それぞれ楽しめれば良いんですが。

2020/12/16 (Wed) 12:47 | EDIT | REPLY |   
フレ
フレ  
>photofloyd(風呂井戸) さん

「神秘」以降…なるほど、それもありますね。皆さんそれぞれの感性と合うアルバムあたりが何か、そんな楽しみも出来る奇特なバンド、です。

久々にこれじっくりと何回も聴いていて、あぁ、シドの世界かぁ…って思ってたら突如その空気感とは異なる風景が流れてきて、あ、やっぱりロジャー?的な印象。そりゃシドのはやはり変ですもんね(笑)。

2020/12/17 (Thu) 19:56 | EDIT | REPLY |   

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