The Kinks - Live The Road
0 Comments
The Kinks - Live The Road (1988)

先日そういえばキンクスのレイ・デイヴィスは今どうしているのだろうか、と気になった。ちょいと前まで新作アルバムをリリースしていて相変わらず天才的な才能を聴かせてくれていたので、さほどどうのと心配もしてなくてまた新作出してくるだろうくらいに思っていたが、よく考えてみれば60年代のビートルズやストーンズと同じ頃にはシーンに登場してヒットを放っていたバンドの主だから相当の年齢になっているし、ミック・ジャガーのように鍛えているようには思えない英国紳士な印象なので、ちょっと探してみたらYouTubeに最新の動いている姿を見つけた。Kast of the Kinksなるキンクスの元メンバーが中心となって構成されているトリビュートバンドのような本物のようなバンドのライブにレイ・デイヴィスがゲストで参加しているライブで、最後にちょこっと出て来て歌うだけだったが、これがもうヨボヨボのお爺ちゃんそのままで、とてもあのステージで元気に跳ね回っていた、とは言わないがロックして観客を盛り上げていた栄光の姿ではなかった。歳を取れば当然そうなるので別段不思議でもないが、やはり見慣れた姿とは大きくかけ離れた姿を見てしまうと寂しさが募ってくるのはしょうがない。それでもキンクスの残した数々の作品のカッコ良さと天才的なセンスは永遠だ。
1987年のアメリカツアー中の6月末のコロンビアと7月初頭のフィラデルフィア公演が録音されて、そこから概ねフィラデルフィア公演を中心にライブアルバム「Live The Road」が翌年になりリリースされた。当時キンクスはロンドンレコードに所属しており、往年のパイやRCAの楽曲とは切り離れたアリスタ以降の楽曲で構成されたライブアルバムになり、キンクス史上で「You Really Got Me」や「All Day And All Of The Night」などが収録されていない珍しいライブ盤だ。契約の関係上でライブ音源ですら使えなかったのか、どうせロンドンレコードからリリースする新たな録音のライブ盤なら最新の姿をそのまま届けようと言う試みだったか、とにかく珍しい曲順が際立つ印象で、その分新鮮さは半端ない。冷静に見れば「Apeman」しか古くからある曲がなく、ほかは80年代の作品、しかもつい最近の作品ばかりで、1987年のツアー音源からと考えれば妥当だが、その甲斐あって自分では割とこのライブアルバムは気に入って聴いていた。冒頭の「The Road」はスタジオレコーディングの新録長尺曲で、この出だしからして静かにレイ・デイヴィス節そのままで歌われ奏でられる素晴らしき名曲。起承転結をしっかり味わえ、ライブツアーやロックバンド、そのビジネスの厳しさやノスタルジー、そして今現在と物語が紡がれる美しく素晴らしい歌詞に加えて楽曲のやるせなさと力強さ、そしてそれでも進み続ける意思がしっかりと感じられる気合の一曲。このライブアルバムを聴くのが好きなのは「The Road」と後に出てくる「Cliches of the World (B Movie)」、「It (I Want It)」が理由だ。
アルバムでは2曲目となる「Destroyer」はライブそのままだが、いつものキンクスらしく「All Day And All of The Night」と同じリフで始まるのでドキリとしながらレイ・デイヴィスの語りも入り、唐突に「Lola」が語られてからスタートするユニークな展開で、さぞやキンクスのライブは楽しかろうと想像出来る疾走感。アルバム全体の音の質感が随分硬質と言うかチープでもありソリッドでもある音色なのでやや聞き辛さはあるが、ライブの勢いがそれでもしっかり感じられるのは生ライブがどれだけ凄かったかを象徴している。そしてまた「Lola」のイントロギターがかき鳴らされてからの「Apeman」ですら新鮮な響きに映るのはこの音の質感のせいだろう。ふとクレジットを見るとこの音もレイ・デイヴィス所有のコンクスタジオでミックスしているようなので、相当に狙って作った味付けかもしれない。そして80年代のキンクスのヒット曲といえば「Come Dancing」だが、随分とアコースティックに静かめにかき鳴らされているアレンジから始まっているので他のライブ盤とは印象が異なる。よくよく聴けばデイブ・デイヴィスのギターすらもあまり歪ませていない音で出されているから珍しいパターンだ。続いての「Art Lover」もそういえば大好きな曲で、どこかキュンと来るセンチな味わいすら感じさせてくれる名曲。その実キンクスはコーラスワークも独特でしっかり聴かせられるバンドなので、こういう曲でのコーラスもなかなか魅力的。80年代中後半のキンクスのベストチョイスライブ・アルバムに仕上がっているとしか思えないナイスな選曲で、A面最後は全く新しい曲調の展開を示してくれた「Cliches of the World (B Movie)」で締める。これまでのキンクスではあまり出て来なかったコード進行と構成と展開によるやや長尺な楽曲で、どこかドラマ的演劇的だが妙にシリアスで悲壮感が漂うのも見事なメロディ。ほとんど表に出てこないがとんでもなく名曲だと思っている素晴らしき曲。この時代のレイ・デイヴィスはまだまだチャレンジして新しいスタイルに進んでいるクリエイティブなアーティストだった。
B面はガラリと変わってデジタルチェックな「Think Visual」からスタートし、また尖ったR&Rを展開してくるが、この硬質な音が似合う一曲とも言え、これは次のデイブが歌う「Living on a Thin Line」でも同じように言える。レコードの音も当時の音だったからそのイメージが強いのだろうが、曲そのものは60年代のビートの利いた時代の楽曲と類似する部分も大きい。メロウな曲の後には80年代後半の曲ながらまたしてもキンクスお得意のホロリと来る「Lost And Found」が奏でられるので、つくづくレイ・デイヴィスの才能と枯れなさ具合や豊かさに痺れる。今普通に聴いてても素晴らしいメロディは健在だし、キャッチーさにしてもポップさにしても哀愁漂うムードにしても、そしてロック的センスにしてもホントに素晴らしい。この曲も目立たないが実に美しき名曲。そして7分弱もの「It (I Want It)」はまた別の角度で物語性、ステージ演劇性を持ったダンサンブルで不思議なプログレッシブ作品とも言える楽曲。これもウケないだろうが、こんな凄い曲を他のバンドの作品で聴く事はないし、こういう作りをする人たちもいないのでニッチな世界。当時としても斬新な発想の楽曲だったハズで、レイ・デイヴィスはこの頃、こういう演劇性の高い作品を目指していたようにも思えるので、たっぷりと楽しんでほしい。そして終盤戦は盛り上がり方を知っているバンドならではの楽曲スタートとしか思えない、誰でもノリにノレる「Around The Dial」、そして「Give The People What They Want」と立て続けにとどめを刺してくれるR&Rで終演。改めて55分に凝縮されたライブアルバムを聴いていると、実に練られた楽曲ばかりで占められており、またそれが過去の名曲群に縛られない当時にしてみれば「今の」キンクスの進行形を示した、そして革新的ですらあるかもしれない曲をライブで活かし切って聴かせてくれているライブアルバムだった。昔から好きなアルバムだったが、つくづく何故好きだったのか、好きになったのか、そして今も好きなのかが分かった。曲の良さ、アレンジの面白さ、そして何よりも前に進む革新性アーティスティック性が尖っている点だ。

先日そういえばキンクスのレイ・デイヴィスは今どうしているのだろうか、と気になった。ちょいと前まで新作アルバムをリリースしていて相変わらず天才的な才能を聴かせてくれていたので、さほどどうのと心配もしてなくてまた新作出してくるだろうくらいに思っていたが、よく考えてみれば60年代のビートルズやストーンズと同じ頃にはシーンに登場してヒットを放っていたバンドの主だから相当の年齢になっているし、ミック・ジャガーのように鍛えているようには思えない英国紳士な印象なので、ちょっと探してみたらYouTubeに最新の動いている姿を見つけた。Kast of the Kinksなるキンクスの元メンバーが中心となって構成されているトリビュートバンドのような本物のようなバンドのライブにレイ・デイヴィスがゲストで参加しているライブで、最後にちょこっと出て来て歌うだけだったが、これがもうヨボヨボのお爺ちゃんそのままで、とてもあのステージで元気に跳ね回っていた、とは言わないがロックして観客を盛り上げていた栄光の姿ではなかった。歳を取れば当然そうなるので別段不思議でもないが、やはり見慣れた姿とは大きくかけ離れた姿を見てしまうと寂しさが募ってくるのはしょうがない。それでもキンクスの残した数々の作品のカッコ良さと天才的なセンスは永遠だ。
1987年のアメリカツアー中の6月末のコロンビアと7月初頭のフィラデルフィア公演が録音されて、そこから概ねフィラデルフィア公演を中心にライブアルバム「Live The Road」が翌年になりリリースされた。当時キンクスはロンドンレコードに所属しており、往年のパイやRCAの楽曲とは切り離れたアリスタ以降の楽曲で構成されたライブアルバムになり、キンクス史上で「You Really Got Me」や「All Day And All Of The Night」などが収録されていない珍しいライブ盤だ。契約の関係上でライブ音源ですら使えなかったのか、どうせロンドンレコードからリリースする新たな録音のライブ盤なら最新の姿をそのまま届けようと言う試みだったか、とにかく珍しい曲順が際立つ印象で、その分新鮮さは半端ない。冷静に見れば「Apeman」しか古くからある曲がなく、ほかは80年代の作品、しかもつい最近の作品ばかりで、1987年のツアー音源からと考えれば妥当だが、その甲斐あって自分では割とこのライブアルバムは気に入って聴いていた。冒頭の「The Road」はスタジオレコーディングの新録長尺曲で、この出だしからして静かにレイ・デイヴィス節そのままで歌われ奏でられる素晴らしき名曲。起承転結をしっかり味わえ、ライブツアーやロックバンド、そのビジネスの厳しさやノスタルジー、そして今現在と物語が紡がれる美しく素晴らしい歌詞に加えて楽曲のやるせなさと力強さ、そしてそれでも進み続ける意思がしっかりと感じられる気合の一曲。このライブアルバムを聴くのが好きなのは「The Road」と後に出てくる「Cliches of the World (B Movie)」、「It (I Want It)」が理由だ。
アルバムでは2曲目となる「Destroyer」はライブそのままだが、いつものキンクスらしく「All Day And All of The Night」と同じリフで始まるのでドキリとしながらレイ・デイヴィスの語りも入り、唐突に「Lola」が語られてからスタートするユニークな展開で、さぞやキンクスのライブは楽しかろうと想像出来る疾走感。アルバム全体の音の質感が随分硬質と言うかチープでもありソリッドでもある音色なのでやや聞き辛さはあるが、ライブの勢いがそれでもしっかり感じられるのは生ライブがどれだけ凄かったかを象徴している。そしてまた「Lola」のイントロギターがかき鳴らされてからの「Apeman」ですら新鮮な響きに映るのはこの音の質感のせいだろう。ふとクレジットを見るとこの音もレイ・デイヴィス所有のコンクスタジオでミックスしているようなので、相当に狙って作った味付けかもしれない。そして80年代のキンクスのヒット曲といえば「Come Dancing」だが、随分とアコースティックに静かめにかき鳴らされているアレンジから始まっているので他のライブ盤とは印象が異なる。よくよく聴けばデイブ・デイヴィスのギターすらもあまり歪ませていない音で出されているから珍しいパターンだ。続いての「Art Lover」もそういえば大好きな曲で、どこかキュンと来るセンチな味わいすら感じさせてくれる名曲。その実キンクスはコーラスワークも独特でしっかり聴かせられるバンドなので、こういう曲でのコーラスもなかなか魅力的。80年代中後半のキンクスのベストチョイスライブ・アルバムに仕上がっているとしか思えないナイスな選曲で、A面最後は全く新しい曲調の展開を示してくれた「Cliches of the World (B Movie)」で締める。これまでのキンクスではあまり出て来なかったコード進行と構成と展開によるやや長尺な楽曲で、どこかドラマ的演劇的だが妙にシリアスで悲壮感が漂うのも見事なメロディ。ほとんど表に出てこないがとんでもなく名曲だと思っている素晴らしき曲。この時代のレイ・デイヴィスはまだまだチャレンジして新しいスタイルに進んでいるクリエイティブなアーティストだった。
B面はガラリと変わってデジタルチェックな「Think Visual」からスタートし、また尖ったR&Rを展開してくるが、この硬質な音が似合う一曲とも言え、これは次のデイブが歌う「Living on a Thin Line」でも同じように言える。レコードの音も当時の音だったからそのイメージが強いのだろうが、曲そのものは60年代のビートの利いた時代の楽曲と類似する部分も大きい。メロウな曲の後には80年代後半の曲ながらまたしてもキンクスお得意のホロリと来る「Lost And Found」が奏でられるので、つくづくレイ・デイヴィスの才能と枯れなさ具合や豊かさに痺れる。今普通に聴いてても素晴らしいメロディは健在だし、キャッチーさにしてもポップさにしても哀愁漂うムードにしても、そしてロック的センスにしてもホントに素晴らしい。この曲も目立たないが実に美しき名曲。そして7分弱もの「It (I Want It)」はまた別の角度で物語性、ステージ演劇性を持ったダンサンブルで不思議なプログレッシブ作品とも言える楽曲。これもウケないだろうが、こんな凄い曲を他のバンドの作品で聴く事はないし、こういう作りをする人たちもいないのでニッチな世界。当時としても斬新な発想の楽曲だったハズで、レイ・デイヴィスはこの頃、こういう演劇性の高い作品を目指していたようにも思えるので、たっぷりと楽しんでほしい。そして終盤戦は盛り上がり方を知っているバンドならではの楽曲スタートとしか思えない、誰でもノリにノレる「Around The Dial」、そして「Give The People What They Want」と立て続けにとどめを刺してくれるR&Rで終演。改めて55分に凝縮されたライブアルバムを聴いていると、実に練られた楽曲ばかりで占められており、またそれが過去の名曲群に縛られない当時にしてみれば「今の」キンクスの進行形を示した、そして革新的ですらあるかもしれない曲をライブで活かし切って聴かせてくれているライブアルバムだった。昔から好きなアルバムだったが、つくづく何故好きだったのか、好きになったのか、そして今も好きなのかが分かった。曲の良さ、アレンジの面白さ、そして何よりも前に進む革新性アーティスティック性が尖っている点だ。
- 関連記事
-
- Ray Davies - The Storyteller
- The Kinks - Live The Road
- The Kinks - Misfits +4