Ry Cooder - Boomer's Story

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Ry Cooder - Boomer's Story (1972)
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 ブルースに憧れて色々な情報を漁り、ジャケットを覚えてはレコード屋に探しに行って手に取って裏ジャケ見てクレジットを確認したりするが、とにかく色々と覚えておかないといけない事が多くて日夜勉強だった。普通に学業をこなして家に帰って適度に息抜いてからまた普通の勉強をして、その隙間に雑誌や本やパンフレットを眺めて今度はロックの勉強、こちらは勉強しているという概念すら持たないままに読み耽っていたと言う方が賢明だが、とにかくずっとそんな事ばかりしていた。若かったからなんでも吸収して覚えてしまうし、知識は深まる一方で、聴ける音の方が付いてこなくて、これは小遣いの範疇内しかレコードが買えないからやむを得ない、友人とカセットテープに録音したものをやり取りする、という手もあったがブルースなんぞを聴いて持ってる輩がいるはずもなく、完全に自分の中ではジャンルと共に音楽を入手する手法が決まっていた。メジャーで一般受けしてたものは目先の友人あたりに録音を依頼して適当に聴いておく。ロック系で多少偏った趣味を持っている友人にはその手のものをちょこちょこと依頼しておく、すると自分で使うカネは誰も持っていないジャンルのブルースや多少マニアックなロック系あたりばかりに使えて効率的。大人になるにつれて結局他のものも全部買い揃えていく事になるが、始めはそうやって色々な情報に基づく音楽を探して聴き漁っていた。だからブルースひとつ取っても、戦前戦後、エレクトリック、白人、ピアノ、ギター、シカゴ、モダン、テキサス、アーバンなどある程度区分されているなど分からないままに漁っていたからその深さを実感していた次第。今ならきちんと整理して聴けたり、体系化して感覚的に理解できたりするが、そこまでは至らず、ただただレコードを聴いていたからアルバムとレコードの印象だけがやたらと記憶に残っている。

 Ry Cooderの1972年の名盤3枚目のアルバム「Boomer's Story」に出会ったのはそうこうしている時期で、レコード屋で流れてたのを聴いて、これまでこういうアメリカ南部に根ざしたルーツ・ミュージック的ブルースとも言えない旋律が軽やかに爪弾かれる作品を耳にした事もなかったのでその場でレコード探してるふりしてじっくりと聴いてた。レジ周りにそのジャケットが飾ってある中古レコード屋だったので、アルバムが終わって店員がそのレコードを棚に戻したのを確認して手に取って眺めてからレジに持っていった。店員も宣伝効果バッチリと思った事だろうが、会計時に確か一言「コレ、良いよね」と言ってくれてた記憶がある。我ながらそんなシーンまで鮮明に思い出せるのが不思議だが、若かりし頃はそれこそレコード一枚一枚への想い入れがあったから当たり前かもしれない。

 ライ・クーダーはスライド・ギターの名手として知られているが、こういう南部の香り漂うルーツ・ミュージックの中でのスライド・ギターなのでロックでエレキで奏でられるあのスライド風味とは大きく異なり、アコースティックの味わい深い音色が魅力だ。特に本作「Boomer's Story」はそのルーツに根ざした音作りだからスライド・ギターが当たり前に音として鳴っているが、それが特徴的でもなく、南部の香りに普通に流れてくる音色として馴染んでいる不思議。昔レコード買った時から随分長い間知らなかったが、ライ・クーダーは幼少の頃に石を投げられて目に当たって失明したらしく、片目が義眼だそうだ。そして本作に収録の楽曲群も実はライ・クーダーが作った楽曲は1曲も入っておらず、ルーツ・ミュージックだったり往年のブルースメンのカバーやトラッドだったりするのも驚いた。だから正にルーツ・ミュージックをプレイするに卓越したミュージシャンとしてアルバムをリリースしていたようだが、聴いている側からすれば確かにその事実はさほど影響なく、どちらかと言えばライ・クーダーがアルバムをリリースする度にこうしてアメリカのルーツ・ミュージックを聴くのだから、そしてその良さを認識するのだからそれだけでルーツ・ミュージックが広がっていると言える。マイケル・ブルームフィールドも同じような事をしていたが、アメリカの真髄にいるとそうなるのかもしれない。古き良きアメリカがまだ開拓地だった頃の何もない時代を想像させるような乾いた南部を描いたアレンジ、楽曲が繰り広げられる大人の、落ち着いた音楽集。決してロックというカテゴリには入らないし、ポップミュージックですらない。普通にありのままのアメリカ音楽。

 このアルバムを入手してから何度も聴いてると、B面最初の「The Dark End of the Street」が一番心地良くて好きな曲になったので、いつもいつもB面からアルバムを聴いていた。この曲自体はインストだが、次の「Rally 'Round the Flag」の始まりも同じようなメロディなので、長いイントロの後に続く歌バージョンのように繋がって聴けていたのも心地良かった。この2曲の流れに任せてアルバム全てがまったりと味わい深く、そして風のように流れていく曲ばかりで身を任せていた。今回久々にじっくりと取り組んでみれば、実はスリーピー・ジョン・エスティスがギターとボーカルで2曲参加していたとは抜けていた。この人も片目失明から全盲となってしまったが、60年代にはそのままシーンに復帰してそれこそデビュー前のマイケル・ブルームフィールドを起用して凄い熱気のアルバムをリリースしているが、70年代に入り、今度はライ・クーダーに連れられての参加。もともとがアコースティックギターブルースの人だから違和感なく入っているが、ライ・クーダーの参加でちょいとオシャレなムードに仕上がっているのは主役がライ・クーダーだから当然か。それでもどちらも違和感なく馴染んでいるのはやはりルーツ・ミュージックだからこそで、歌のアクセントの強さはさすがにスリーピー・ジョン・エスティス。更に知らなかったがここで発見したのが「The Dark End of the Street」のオリジナルバージョンの存在で、元々1967年に黒人ソウル歌手のジェイムス・カーが歌入りでリリースしたシングルだったらしく、それをここまで美しくギターのみのアレンジで展開した曲だった。更にこの曲の作者のダン・ペンは1994年に自身の名義でこの曲を現代的なバージョンでリリースしており、地味ながらも名曲として脈々と継がれている作品のようだ。

 どことなく知ってる名前で書けば、ジム・ケルトナー、ランディ・ニューマン、それにダン・ペン本人もゲストで参加しているアルバム。ちなみにライ・クーダーは1969年リリースのストーンズの「レット・イット・ブリード」でゲスト参加しているが、ライ・クーダーのソロデビューは1970年なので、ソロデビュー前にストーンズに参加していたギタリストになる。ソロデビュー前にも幾つかのバンドでプレイしていたようなので、その辺で繋がっていったと思われるが、それにしてもそれだけのセンスと腕がなければ声がかからないだろうから、実力のほどは折り紙付きだったと分かる。おかげであのアルバムも英国産ながらもかなりアメリカ南部の土臭い香り漂う作品になっているし、そのセッションは後に「Jamming With Edward by Rolling Stones」としてライ・クーダーのプレイも拡張されてアルバムがリリースされている。







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フレ
Posted byフレ

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