The Pogues - If I Should Fall From Grace With God (Expanded & Remastered)

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The Pogues - If I Should Fall From Grace With God (Expanded & Remastered) (1988)
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 アイルランド民謡、即ちケルティック旋律による伝承音楽のスタイル。英国ロックを聴いていればその影響や類似した旋律が聴かれるだろうし、もっと言えばThin LizzyやGary Mooreのアルバムでは顕著に飛び出してくる衝撃的で攻撃的なフレージングがそれだ。ただ、それもケルティック旋律の一部でしかなく、バンドや音楽全般を言うならばDublinersやChieftainsを聴けばそのムードは分かるだろう。アイルランドは音楽の街だとよく言われるが、昔は街中やパブ、公園やちょっとした広場でも数人集まれば何かと音楽を演奏していたと聞く。実際どうだったかは知らないが、それくらいに音楽が溢れている国でダブリンはその中心地だ。そこでは伝承音楽に加えて先端のロックも隣の英国からすぐに入ってくるし、当然ながら同じように革命的なサウンドや融合的ロックを独自の文化と気候、そしてバックグラウンドのケルトを交えて取り組んできた歴史も長く、ポップシーンでもアイルランド出身のバンドやアーティストもかなり世界的に知られている。

 1980年代は一般的にはキラキラしたバブリーな時代だった。ところがアイルランドから出てきたのはU2やThe Pogues、ちょっと後にシニード・オコナーと少々攻撃的で個性豊か、寒さを音にしているかのようなバンドばかりで全くバブリーな雰囲気とは無縁な世界のようにも思えたが、今回はそこから1988年に3枚目のアルバム「If I Should Fall From Grace With God」をリリースしたThe Poguesを取り上げてみよう。元々が先に書いたようなアイルランドから出て来たが、それに加えて時代背景に丁度パンクを通過していた事からアイルランドの伝承音楽とパンクを融合させた不思議なサウンドを編み出してシーンに登場した。本作「If I Should Fall From Grace With God」はその融合が歌詞も含めて見事に昇華されたThe Poguesの大傑作アルバムとして知られており、自分も何度も聴いているが名盤の称号に偽りはない。ただ、聴き慣れないとこのアルバムの音色の不思議さに馴染まないので、聴いてすぐに名盤と思う事も多くはないだろう。さて、どんな音だろうか、とワクワクしながらアルバムを聴いていくと、冒頭からなるほど、ケルトパンクとはこういう音かと両者のエッセンスが見事に注がれている楽曲に驚くばかり。簡単に書けば、アイリッシュ民謡の旋律とバンド演奏を割と勢い良く演奏している中に、ジョー・ストラマー的に吐き捨てるかのような歌い方をぶち込んで出来上がったような作風。ボーカルのシェイン・マックゴーワンがとんでもない才能の持ち主で、これらの楽曲や歌詞もほとんど作り上げており、更にステージでは酔いまくりのフラフラで歌っているギャップ。それこそがポーグスと言わんばかりの印象を植え付け、アルバムではこんな素敵な作品が出来上がるのかと。

 ジグやリールに巻かれた曲が多いので割と短めな楽曲ばかりで当然ながら民族楽器中心で弾かれているから電子楽器の音はさほど聴かれないあたりは斬新に響くだろう。そこにパンクボーカルだ。なるほど、とまず目からウロコ的にバンドの熱唱と演奏が染み入ってくる。その最中にとんでもない名曲「Fairytal of New York」が鳴り響き、一気にテンションマックス状態にまで持ってこられる始末。更に「Fiesta」のお祭り騒ぎ的ロックが本作の楽しみを高めている。これだけ楽しそうに音楽を奏でるバンドもなかなか見当たらないだろうし、これからも出てこないだろう、それくらいに斬新なロックの音を届けてくれている。B面はもっとアイリッシュに近づいた作風が多く、曲数が多いからやや飽きを感じてくる面もあるが、単純にケルティックな旋律に身を委ねていれば心地良く聴けるシロモノばかり。どこかで聴いたようなフレーズや音使いもあちこちで出てくるから自分的には馴染みやすかった。

 2004年にはエキスパンデッド・バージョンと称して4曲ほど多くボーナストラックが収録されており、オリジナルアルバム発表時にはカセットテープにのみ収録されていた「South Australia」「The Battle March Medley」が後半に持ち越され、The Dublinersとのジョイント曲「The Irish Rover」「Mountain Dew」も収められている。この2曲もポーグスお得意のサウンドに近いが、そこはダブリナーズの得意技で、より一層ケルト色が明るく感じられる味わいを聴かせてくれるのと、シェインとは違う、本物のアイリッシュボーカルが響くのでやたらと目立つ。更に2曲のボーナストラックを加えての19曲バージョンが現在では一般的に入手できる本アルバムだろう。なかなかロック的に取り上げられる事も多くないが、ネームバリューはあるしそれ以上に音楽が面白いのでオススメだ。ちなみにプロデュースはスティーブ・リリーホワイトで、その奥方で英国ポップシンガーだったカースティ・マッコールが「Fairytal of New York」でシェインとデュエットしているのも忘れてならない歴史。美しくも素晴らしいアルバムの出来映えに乾杯。





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フレ
Posted byフレ

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