The Kinks - Misfits +4

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The Kinks - Misfits +4 (1978)
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 The Kinksに入り込むには多少の時間が掛かる場合が多い。一方では往年のロックバンドも含めてThe Kinksのカバー曲をやっているバンドは数多いので、入り込むどころか楽曲単位かもしれないがロック少年達に一撃を与えるインパクトを持った曲も多かった証拠。特に60年代のキンクスは衝撃的なインパクトを放っていたから近場のロックミュージシャンにも影響を与えまくっている。一番近い所ではThe WhoやBowie。あのディストーションサウンドを知らしめたのもキンクスだからジミー・ペイジにしてもジミヘンにしてもこれは、的に影響を与えていたようだ。信じられるだろうか、さほど名前の知られていない当時十代のデイブ・デイヴィスがキンクスのレコードで放ったちっぽけなアンプから鳴らされたディストーションサウンドが今のギタリストに至るまでの元祖の音ですらあるのは。開拓者とはそういうものかもしれない。キンクスの影響はその後も続き、The StranglersやThe Jamは知られた所ながら、今度はVan Halenのカバーが知られているだろう。ノリにしても歪みにしても楽曲のシンプルさや力強さは15年経過してハードロックギターの革命者エディからしても良い題材だったらしいし、1980年前後ではThe Pretendersもマニアックな「I Go To Sleep」なるシングルB面曲を取り上げたりすらしている。90年代に入ると今度はブリットポップの連中、BlurやOasisあたりも当然のようにキンクスを讃え、レイ・デイヴィスを崇めているセリフを見ることも多かったが、21世紀になってからはその辺りが集大成となり、今度はメタリカまでもがトリビュートしてくる始末とどの年代のある程度の幅を持ったロックファンならキンクスやレイ・デイヴィスの名をどこかで耳にしているだろうし、楽曲も聴いているだろう。それくらいには知られているバンドだが、如何せん最初期のヒット曲ばかりが注目されているので、以降のマニアックな楽曲やアルバムになるとその知名度はガクンと下がってしまう。ところがそれだけ騒がれる元祖だからアルバムや曲が悪いハズがない。自分もキンクスに入り込んだのは少々時間が掛かった、と言うよりはすぐにピンと来ない事が多かったので、何度となくアルバムを聴いているウチに妙にしっくり来て、その曲の良さに痺れ始めたからこそ次々に進んでしまったパターン。

 1978年にリリースされたアリスタ移籍第二弾となる「Misfits」はそれこそVan Halenがハードロック革命者としてキンクスの「YouReally Got Me」を引っ提げて出てきた頃、アメリカに進出していた本家キンクスはハードロックに進まずに普通にAOR路線とも言える少々爽やかチックなサウンドアレンジへと舵を切っていた。それでも元祖ディストーションギターの革命者デイヴ・デイヴィスがいるからギターの音は歪んでいるのが基本、これぞロック魂はきちんと見せつけている。一方でソングライターの主役レイ・デイヴィスの作曲能力は相変わらずの天才的センスで、メロディを追っているとどの曲もレイ・デイヴィス節が詰め込まれており、泣けるメロディもキャッチーなセンスもツボを突くような味わい深さもそのままで、60年代からまるで変わらない。表面的なアレンジは異なるが、センスそのものは見事にそのまま、そういう風に聴かせないあたりも見事。アルバム制作時の逸話的にはベースが脱退、更にまた脱退、鍵盤も同じく、とドタバタとした環境下だったらしいが、レイ・デイヴィスからしてみれば所詮は演奏者の一人でしかなく代替があるならそれで良し、ただしバンドメンバー、従業員なのでそうそうヘンなのも入れられない面もあったと推察される。一方でスタジオミュージシャンを従えてアルバムを創り上げてしまう事は容易だったろうが、そうしなかったのはバンドを重要視したからか。ツアーも決まっていただろうからその選出も考えただろうし、そんな背景はあまり気にしてアルバムを聴く必要もないからそのヘンにしておこう。

 「Misfits」は冒頭から静かで美しいバラードとも言えるアルバム・タイトル曲から始まり、そのメロディセンスの美しさには最初から惹かれていくだろう。普通なら「Live Life」あたり、もしくはシングルヒットとなった「Father Chrismas」あたりを冒頭に入れてロックアルバムを見せつけていく気もするが、そうは進まずに前作「Sleepwalker」の流れを組むかのような「Misfits」からスタート。おかげでアルバム全体が静かめでおとなしい作品との印象を今でも植え付けられたままだが、曲順を替えて取り組むとなかなかハードな側面を持ったアルバムにもなる。それにしても「Misfits」の美しさは60年代の名曲群に拍車を掛けており、知らずままにしておくと勿体無いだろうとすら言い切れるレベル。同じ意味では「Rock'n Roll Fantasy」も挙げられるが、60年代のレイ・デイヴィスでは出てこなかった楽曲のメロディじゃなかろうか。どこがどうとは言い切れないが、長年聴いているとこの辺りのレイ・デイヴィスのセンスの研ぎ澄まされ感は若かりし天才肌に加えての重みや技量も加わっている気がする。「Hay Fever」は軽やかなポップ調の作風を中心にしながらデイヴ・デイヴィスの独特のコーラスが際立つ曲、続いての「Black Messiah」はややレゲエチックなリズムとカッティングを魅せ、メロディも歯切れ良いものの、全く明るくなりきれないところがキンクス節。稀代の名曲「Rock'n Roll Fantasy」に至っては静と動に加えての叙情性、ストーリー性が見事に飛翔してロックバンド風味のバラード、とも言い切れない美しき作品。これだけのメロディが書ける人も多くはない。A面はここで終了してアナログだとここからB面となる「In A Foreign Land」はそれこそAOR的とすら言われるかもしれない作風がやや悩ましいが、これもアリスタ時代のキンクスに特徴的な風味として捉えておきたい。更に「Permanent Vacation」も同様の路線に聴こえるが、こう流れてくるとひとつの技とも聴こえる。個人的な好みで言えばさほどでもないが、こういうコケティッシュな作風も英国ユーモアにはある点は分かる。そして勢い余るほどのロックナンバー「Live Life」がカッコ良く、特にギターソロで聴けるギターの音色のマイルドさは自分的に超絶好みなサウンドなので聴く度に惚れ惚れする。アメリカでは1分ほどカットされたバージョンがシングルでリリースされていたが、今の所はボーナストラックで普通に聴けるので比較してみても面白いだろう。その熱気を抑えるが如く次の「Out of the Wardrobe」ではまた静かでメロウなレイ・デイヴィスらしいアコギ一本でも歌い上げられるだろうソングが心地良く鳴り響き、地味ながらも良曲。そして同じようなバラード楽曲が続くかと思えば随分と差し込んでくるギターの音色が印象的な「Trust Your Heart」はデイヴ・デイヴィスの超高音ボーカルで歌われるやや異質感漂う個性的な作品。アルバム最後を飾るのは迫力のボーカルを聴かせるロックナンバー「Get Up」で、何もこういう楽曲を最後に持ってこなくても良い気もするが、ここではドタバタ劇でベースを弾くことになったRon Lawrenceのブリブリベースがやたらと目立つ少々変わりネタ風味のある楽曲で、キンクスらしさは薄味になっている点が弱いかもしれない。

 リマスターCDでは+4曲のボーナストラックがあるが、シングルエディットは正にボーナストラックながら、こういう形での収録しかなかったかと惜しまれるクリスマスソングのくせに勢いありまくる「Father Christmas」はやはりアルバムのどこかに入っていてほしかった。売れ線シングルでレーベルからの要請な気もするが、それでもきちんとその要求に応えての作品が出来上がるのだから素晴らしい。面白いのは「Rock'n Roll Fantasy」のB面になりながらも前作「Sleepwalker」のボーナストラックに入ってしまった「Artificial Light 」の存在で、おそらくレコーディング時期が中途半端だった所でどっちつかずな作品になってしまったのだろう。楽曲的には確かに「Sleepwalker」寄りでもあるが、それなら「Rock'n Roll Fantasy」のB面に入れないでくれとも思う代物とブツブツ言うこともあるが、今となってはそれもどちらでも良く、この「Misfits」を改めてまたたっぷりと楽しんで過ごせた。しかしYouTube見てたら「Misfits」のテレビ出演映像があるとは知らなかった。ベースにはジム・ロッドフォードが参加しているので当然ながらレコーディング後のメンバー確定しての出演だろうが、こうして聴いても素晴らしい曲。





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フレ
Posted byフレ

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