Sly & The Familystone - There's A Riot Goin' On (Bonus Track Edition)

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Sly & The Familystone - There's A Riot Goin' On (Bonus Track Edition) (1971)
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 15年前の同じ日にこのブログに登場しているアルバムを今の目線で、今の耳で聴いてみてどうなのかとのチャレンジをしているのは、単純に最初期のレビューは特に目的も定めず何となくその日聴いたアルバムを記しておけばとの考えだったので文章は短いし、何となくの感想文でしかない。そこから15年経過した今だと、更に音楽を聴いているし同じアルバムやバンドやアーティストや似たようなジャンルも色々と聴いているし更に新しい音楽との出会いも散々あるし情報量も膨大なのもあって改めて聴き直して書き直してる。直していると言うよりは新しく書いている気分で、ある種よく見知ったアルバムをまたじっくりと聴いて書ける楽しみの方が大きいし、そういうの聴いてたのかと思い返す部分もあるので物凄く個人的なノスタルジックでしかない。それでも読む人は最新のを常に見ているだろうからあまり意識する必要もなくいつものように見てもらえれば良いか。

 1971年にリリースされたSly & The Familystone名義の難産アルバム「There's A Riot Goin' On」はほぼスライ・ストーン独りの宅録作業で仕上がったようだ。当時そこまでの情報量もなく、普通にアルバムとしてリスナーは手に入れて聴いていたはずだが、それでも大ヒット作でSly & The Familystoneの代表的アルバムともなっている。実際に聴いてみれば分かるように収録されている楽曲の大部分がドラムマシーンを使っているし、ベースにしてもラリー・グラハムのブリブリベースなどはまるで聴かれない、即ちスライが弾いているか他の人が弾いているかのような音なのは一目瞭然で、ギターにしてもSly & The Familystoneお得意のサウンドは皆無、どころか音すら聴こえてこない場合もあるからスライ・ストーンのアタマの中ではギターは鳴ってなかったのだろう。調べてみれば大人の事情が大きくてこのような鬱的作品制作になったらしいが、それでも名盤と語られる作品の仕上がりだから恐れ入る。この頃のスライ・ストーンの溢れ出るばかりの才能は物凄いし、音に対する敏感なセンスも他の人達とは一線を画すレベルの天才だったと思われる。数々の逸話を紐解いていると、どう見てもおかしいし、天才でしか分からない苦悩としか思えない事ばかり。バンドの音がグルーブしている時でもほんの4小節だけが完璧なグルーブに聞こえてきて、その部分だけを取り出してアナログテープにダビングしてループを作ってしまったり、本作でもリズムマシーンの多用はかなり早い時期の導入だが、それもリズムやグルーブが安定して鳴る、即ち自分の持っているタイム感と狂わない正確さが手に入れられたからが大きいようだ。天才がそういう機材を手に入れて使うようになると、この1970年頃のチープでしかない音色の、そして単純な組み合わせしか出来なかったであろうドラムマシーンでも名盤のバックドラムが出来上がってしまう。確かに音は機械だが、グルーブはまるで人間的で正確なリズムだからこそ出来上がるグルーブ感を出しているからスライ・ストーンが目指した姿に近づいたのだろう。きっとスライ・ストーンが今の時代ももう少し人間的な生活をしていたらパソコンやサンプラーや機材を使い倒してとんでもない作品を幾つもリリースしてきただろうと思う。もしかしたらザッパ以上にその手の機材への取り組み意識は高かったかもとすら思う。

 そして本作「There's A Riot Goin' On」は言われているようにマーヴィン・ゲイが同年5月に「What's Going On」と問いかけてきたアルバムに対しての「There's A Riot Goin' On」と。事実かどうかはともかくとして、そのままアメリカの時代背景を語っているからこその名盤説もあるが、あまり名盤として持ち上げるのも相応しくない気もするので、自分的にはどうなの、と思う節も大きい。もうひとつの逸話としてはアルバムタイトルの「There's A Riot Goin' On」はマーヴィン・ゲイの問いかけアルバムに対しての回答の意があったからA面最後に「There's A Riot Goin' On」なる0:00のタイトルを入れた、入れたと言うかアナログ時代はアルバムクレジットに記載した、とも言える。CDやデジタル時代には0:00トラックは無理なので0:04になっているが、これも別に記載するだけで良かったとも思えるがトラックとして必要だったのだろう。この一曲で費用が何か発生するのだろうとしたらなかなか不思議で面白い取り組みだ。意味合いは知られているように「There's A Riot Goin' On」=0:00、即ち「暴動など無い方が良い」との意思らしい。そんな逸話が先行するが、アルバムを冒頭から聴いてみればとにかくダークで気怠く、マリファナの香りすらプンプン漂う決して万人にオススメするようなファンキーな快作ではない。それでも後のアーティスティックなこの手の作品に多大なる影響を及ぼすに相応しい側面は多々持ち合わせているのも事実、後年のバンドやアーティストでこの影響を受けていないバンドもいないだろう。一般人的に聴けば、ただただダークで、妹のロージー・ストーンが歌う「Family Affair」と「Runnin' Away」だけが軽やかでポップさを持っている曲ながら家庭崩壊の歌詞がキャッチーで良いのかと。

 アルバムのテーマはもともとのアルバムタイトルとして想定されていた「Africa Talks To You」に代表されるようにA面B面で対になっている。B面には「Thank You For Talkin' To Me Africa」が最後に収録されてて、Sly & The Familystone最大のファンキー作品「Thank You」と同じリフを持ちながら半分程度にスピードをスローダウンしたダークな風味で迫ってくる。スライ・ストーンの創造と破壊が入り混じり、おそらく麻薬中毒になりながらトリップした状態でのクリエイティブさが現れてきているのだろう。60年代のビートルズを筆頭にサイケデリックから生まれた優れた作品は多いが、スライ・ストーンの場合はここでそれが出てきたとも言える。ただ、時代背景や人種問題、歴史的背景を含めた時に出てきたのがこれだけの破壊、ダークな方向性だったと。ひたすらに同じリフレインとコーラスが流され、妙な迫力を持って目線も合わないような気分になり、何処へ向かって良いのかすらも分からなくなるダウナーなムード。それを名盤と言ってしまえるなら確実に病んでいる。アーティスト的な名盤ではあるものの一般的な名盤とは成り得ない作品と位置づけるアルバム。はて、自分はどうだろうか。散々聴いてきてこの雰囲気を味わっているし、音楽的にもアート的に素晴らしさは実感しているが、よく聴くアルバムではない。ただ、そんな気分の時にはこういう作品が合う時もあるのだろう、と。いやはや、そんな理屈を付けてはいるものの、普通に聴いてて凄いなと思う作品だから暗いしダウナーだがこれぞスライ・ストーンの境地、として聴いているか。徐々にハマっていくのも恐ろしいアルバム。

 2007年にはボーナストラック4曲付きでリマスタリングされてリリースされているが上述したような背景と録音の中からはみ出された楽曲が3曲入っているので興味深く聴ける。いずれの曲も未発表なインスト作品でスライ・ストーンが実験していた楽曲の断片であろう事が想像できるもので、本編に入っている楽曲ほどの暗さはないので、もしかしたらアルバム作りの初期に試していたデモ的作品かもしれない。この手の曲調にスライ・ストーンの歌声が入っていたらどれだけ面白く聴けた事かと思うと勿体無さ感が募るが、今となっては叶わぬ夢。インストながらもこの音への取り組み事情が垣間見れた事を良しとしよう。





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フレ
Posted byフレ

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