Art Bears - Winter Songs

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Art Bears - Winter Songs (1979)
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 人々の記憶に残る青春の一ページのようなポップミュージックもあればその人の人生のBGM的に寄り添っているヒット曲もある。ロックの世界でも同じような背景や自分の年齢や環境、背景にリンクするサウンドが伴うから結局はポップミュージックと同じく人生の時間軸に付きまとうアルバムや音楽がある。それはリアルタイムの作品もあればアルバムリリース年とは関係なく、自分が聴いていた時期とのリンクもあるので、既に一概にリリースされた年が年齢と一致しない場合も多いから面白い。若くても親の影響で古い音楽知ってる、昔よく聴いたなどと時間軸が定まらない会話も増えてきているし、自分自身もそう感じる事が増えてきた。それだけ時代が経ても残される音楽はやはり素晴らしいのだろうし、一般的に認知度が低くても素晴らしいアルバムはしっかりと残っている、残されている、と思いたい。更に再発見される場合もあるからいつまで経っても楽しめてしまう世界。

 アルバム「悲しみのヨーロッパ」でHenry CowとSlapp Happyの意外な融合劇が彼ら自身を刺激し、そのままライブや次なるアルバムに向けての活動を開始したが、その不思議な蜜月は一瞬で崩れ去り、ダグマー・クラウゼとフレッド・フリス、クリス・カトラーを除くと皆が皆前向きには捉えられなかったようだ。その結果Henry Cowは停滞し、同時にSlapp Happyも崩壊していったが、その賜物として上記三名が組んだ素晴らしいバンドがArt Bears。1978年にアルバム「ホープス・アンド・フィアーズ」をリリースしてその前衛的なサウンドを聴かせてくれたが今回は1979年リリースのセカンドアルバム「Winter Songs」を聴いてみた。これまでよりも更に研ぎ澄まされた緊迫感溢れる中でのダグマー・クラウゼの浮遊するボーカルが宙を舞い、そのボーカルスタイル自体もより一層複雑化しているからか単純にポップなメロディが、とも言えないムード。面白い試みがいくつも施されてて、ひとつのボーカル旋律に対して囁く歌声や低音での歌声などひとりで多重の歌声を被せていると書くと実にイージーだが、複数人が同じメロディを異なる世界で歌っているかのような複雑怪奇な、もっと言えば不協和音を心地良く組み上げている歌が印象的で、実にアーティスティック。そこにこれまでから更に一層鋭角的に刺さりまくってくるフレッド・フリスのギタープレイやクリス・カトラーのドラムが入ってくる。これほどの鋭さは果たしてどのように出来上がるのか、またこの緊張感の高さをどうやって作り上げていけるのか、そこにはフレッド・フリスならではのセンスが織り込まれまくっている。

 そんな自身のスタイルを極めていった挙げ句のダグマー・クラウゼの起用、彼女は彼女で実験精神旺盛に取り組んでいく事でバンドとしての、ユニットとしての実験性は高まり結果的に音楽的にかなりの高みに昇り詰めていった快作だろう。同じ時期にケイト・ブッシュがシーンに登場し、話題をさらっていた姿を横目に見ていてどう思った事だろうか。あちらはもっとポップな世界で超個性を発揮していたから意識していなかったかもしれないが、後の時代アート・ベアーズを聴いているとパッと聴いてみるだけなら似た雰囲気あるとは思う。ちょっと聴けばそれは表面上の、ダグマー・クラウゼの歌声だけが相通じる世界で音楽的な面ではまるで異なる事に気づくが、もっとアート・ベアーズを耳にしてもらう広がりの例えとしては有用だろう。この手の音はハマるとずっとハマる中毒性が高いので、存分に味わえるが、本作は軽快な面もあるが鋭角的に刺さる側面が強く、更にテンションの高さも武器にしている美しい作品。彼らのアルバムは自分自身に多少なりともゆとりがあり、じっくりと聴ける時に聴く事をオススメするし、そうじゃなければ苦痛にすら感じるかもしれない。ただ、本当に美しいアートセンス溢れる素晴らしきアルバムだと自分では思う。



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フレ
Posted byフレ

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