David Bowie - Hunky Dory


1969年人類は初めて月に降り立ち、宇宙開発という壮大なる夢の第一歩を踏み出した。文明国の大半の人間がその映像に釘付けになったが、特に英国に於いてその映像と共に流れる音楽の印象的だったこと。それがデヴィッド・ボウイと言う若者の歌う「Space Oddity」と知れ渡ってから彼は一躍有名になったものだ。もっとも「Space Oddity」という曲の歌詞は決して宇宙旅行に相応しいモノではなかったのだが…。
そんなボウイが1971年に放った個人的には3本の指に入る素晴らしいアルバム「Hunky Dory」を取り上げてみたい。思えばThe Whoの「Who's Next」も1971年作、Zeppelinの「IV」も1971年の作品で、既にロックが確立されつつある中、ボウイはまだジギーに行き着く前のキャリアだったワケだが、それでも同じ1971年に「Hunky Dory」と云うロック史に残る傑作を生み出してたワケで、やはり偉人の才能があったんだろうなぁ。
ボウイとの出会いってのはなかなかこれ、ってものがなくって、強いて云えば「Let's Dance」や「戦場のメリークリスマス」だったりするんだけど音的にマジメに入って行ったのは何だったんだろう?結構不思議だけど、この「Hunky Dory」は早くもなく遅くもない出会いだったような気がする。ジギーとかの後だったのは覚えてるけど。最初期からこの頃までのボウイの曲はアコースティック中心の、云ってみればカウンターカルチャー的な曲ばかりで歌詞にしても独自のヒッピー的見解と空想が入り混じったもので面白いといえば面白いんだけど、別に取り立ててっていうものではない。でもね、このアルバムはそういうのがうま~く連鎖反応してボウイの天賦の才能の片鱗がキラキラと輝いて聞こえてくる良い~曲が多いんだよ。全部じゃない、全部じゃないけど、多い。だから名作にはならないけど凄い良いアルバムなのだ。中でも凄く綺麗で涙が出てくるくらい美しいのは「Life On Mars?」だねぇ。コレ一曲のためにこのアルバム買っても損しないくらい良い曲。面白いことにちょっと前のツアーでもライブで歌っていたんだけど、最近の歌の方が更にこの曲の良さが引き立っているしボウイの歌も心に染み入ってくるっつう、正に曲が育っているんだよな、それくらい素晴らしいんだけど、その原点がこのアルバムに入っているんだよ。もうひとつね…、「Quicksand」。これは別にバラードとかじゃないんだけど、ボウイならではの曲調でフォーキーだよね。うん、つぶやくようなメロディとサビのラインが綺麗でねぇ…、そういえばさ、このアルバムで鍵盤弾いてるのリック・ウェイクマンなんだよね。そう、この後イエスに入るんだけど、もしかしたらこのままジギーなボウイと一緒にやっていた可能性もあったんだろうなぁ、と。だって、あの格好ならジギーと一緒にステージ立てるもんな(笑)。そういうとこも考えてみると面白い。ちなみに他のメンバーはミック・ロンソンも含めてほぼジギー期の面子が揃っているしね。
それからさ、うん、「Changes」はまぁ、アルバム冒頭を飾るには良い曲で頑張ってるボウイさんなんだけど、ここから次の「Oh! You Pretty Things」の始まりのピアノが良くってね、もちろん歌もピアノ中心に歌われてるし、やっぱメロディーセンスが突出してる。ここから続く「Eight Line Poem」の実に味のあるミック・ロンソンのギターイントロソロがこれまた切なさを出してて良いんだよ。呟くようなボウイの歌と、やっぱりピアノの伴奏が見事に噛み合ってる。で、「Kooks」。これはねぇ、うん、キャッチーでポップなメロディなんだけどやっぱアレンジがヘン(笑)。こういうの聴いてるとボウイってやっぱ英国のアングラアーティストだったとしてもおかしくないよな、って思うもん。ケヴィン・エアーズあたりとやっててもおかしくないような曲なんだよ。「Fill Your Heart」もピアノとストリングスで始められる軽快な曲なんだけど、やっぱりメロディセンスが光っていてさ、ちょっとコメディ的なのもらしいところかな。「Andy Warhol」の冒頭のしゃべりとかさ、面白いよね、こういうの入れるのってあんまりない時代でさ、やっぱアングラ人だよな。それでいてアンディ・ウォーホールって歌作っちゃうワケで…、この辺はヴェルヴェッツに入れ込んでたんだろうな、ってのがわかる。曲も正にアングラ(笑)。でも、メロディはさすがなんだよ、ほんとに。そしたら今度はボブディラン向けの曲になるわけで、これもボウイの素直なトコロというかわかりやすいっつうか…、それでいて今度は心に染み入るメロディとピアノで構成された初期ストーンズでも歌いそうな曲ができちゃうんだよ。ストーンズっつってもロックじゃない方の側面ね。美しい…。「Queen Bitch」は、まぁ、これも言わずもがなの曲だからいいんだけど、ヴェルヴェッツを意識したボウイの代表作になっちゃってるかも。で、実は凄くヘンだけど興味深いのが最後の「The Bewley Brothers」かもしれん。メロディライン、アレンジ、楽器の構成、歌、どれをとってもサイケデリックっつうか幻想的っつうかドラッグやってなきゃわからんだろっていう感じなんだけど、全てが優れている素晴らしい曲。
やっぱ凄いな、マジメに聴いたの久しぶりだったけど、やっぱボウイって捉え所のない人だ。ロックなのか?と問われると回答に困るハズなんだけど「当たり前だよ」って言ってしまう人だもん。このアルバム以前の曲だけ聴いてたらそう答えられる人いないと思う。でもね、やっぱ凄くロック。知的で排他的でナイフのように鋭い感性を持ったロック。そのセンスがね、片鱗がね、ホントにチロチロと見え隠れしてるアルバムでさ、今でもシーンでは異色な作品だと思う。うん、いいな。
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