Pink Floyd - Atom Heart Mother




夏の日の日中、とてつもなく心地良いサウンドを探してみるが何のことはない、目の前にあるじゃないか…とPink Floydの「原子心母」を手に取る。原題が「Atom Heart Mother」なので「原子心母」。いつもの気の利いた邦題ではなくって直訳タイトルなんだが、「原子心母」と聞くと「ハッ!」とするものがあるのは見かけない日本語だからだろう、それはイコール邦題って言うには相応しいタイトルだったってことで、実に明快な選択をしたのは素晴らしい。40年経過した今でも十分に印象的な単語として残っているのがその証拠だ。
1970年にリリースされたPink Floydの5枚目の作品、既にPink Floyd節を創り上げつつある頃で、最初期のサイケデリックバンドから逸脱し、プログレッシブロックバンドとして歩み始めた頃、頃と言っても1970年なので全然ロック創世記に既に進んでいたということだ。そしてこのジャケット。誰が見ても知っている牛。牧場にいる後ろを振り返った牛。一体何を考えて牛なんだ?ヒプノシス?と問いたくなるのだが、未だにその由来をきちんとは知らない。Pink Floyd側は提示されたアートワークを良しとしただけだとは思うが、アートスクール集団の思考回路で正にヒッピー時代なのでその趣向は理解出来ないのだが(笑)、とにかく牛だ。ロックばりばりだ~ととんがってた自分にはこの牛を手に取るかっこ悪さはなかったので、思い切り若い頃のロック少年にはとてもとても聴かないアルバムだったね。もっとかっこ良いのがロックだぜ、なんて年頃だったからさ。
時が経ちいくつものロックを聴き漁るようになるともちろんPink Floydと言う存在をアチコチで耳にするワケだ。あ、来日公演の話題もあったしね。もうロジャーなしの時代のヤツだけどさ。まぁ、そんなことで一応友達にテープをもらって聴くんだけど、もちろんこんなの分かるはずもなくやっぱR&Rだぜ、って言って全然聴かなかった(笑)。それ以降にちょこちょこと聴くことがあっていつしかハマっていったという経緯だからまだPink Floydとの付き合いは25年くらいなもんだ(笑)。それでもタイトル曲「原子心母」の長さは苦痛だったな…。まだ音楽を理解していなかった頃だろうからさ。
ってな経緯があって、今ようやく牛を取り上げるんだが、このブログでもPink Floydってのはもちろんかなり好きなので取り上げている回数も枚数も多いハズ。んで、この牛がようやく登場ってトコロなんだが、やっぱり圧巻の一言に尽きる。Pink Floydの名盤は「狂気」「炎~あなたがここにいてほしい~」、そしてそれ以降の作品の方が質が高いと思ってはいたんだけど、やっぱりこの「原子心母」や「おせっかい」あたりも素晴らしいサウンドなのだった。世界中でPink Floydにハマり込む人が多くて根強い人気を誇るっていうのもよくわかる。凄い。とにかく凄い。
「原子心母」24分。ところがこの壮大なるテーマのメロディの大きさ…、大地が宇宙が世界が束になって自分に覆い被さるかのような包みこみ…これは全く心地良いもので正に「母」の「心」に立ち戻り「原子」に戻るような感覚が訪れる。24分もの曲でそんなに展開があるわけでもなく歌がメロディアスなハズもないのになんでこんなに聴きやすく覚えやすいのだろう?大きなメロディの変化はないけど、流れの中のウネリがとても壮大。他のどんなバンドにも出来ないこの空気の醸し出し方はPink Floydのひとつの最高傑作とも云える融合。更に素晴らしいと思うのはアルバム最後の「アラン」で、まだまだ実験的な精神を捨てることなくアヴァンギャルドな試みを行っていることだ。ひとつの完成形をみた「原子心母」に満足することなく次なるステップのために取り組む姿勢…、一方では「If」という素朴で牧歌的なフォークソングをも生み出しながらバランスよくアルバムを保たせている。元来自然に作れば簡単にできるのであろう「If」のような曲をそのまま入れることでそれまでの壮大な「原子心母」組曲から息抜きさせる…これもまた母なる地球に戻るかのような安心感が大きく包みこむ。あまり書かれることもないだろうが、「原子心母」は母の愛の塊みたいな作品であろう。年と共にこのアルバムの心地良さが身に染みるのだ。それをまだ当時20代の若者たちが作っていたワケで、それを今に自分たちが心地良く聴く…、一体どんなんだ?
誰にも時間と場所がある。この「原子心母」のCDでもレコードでもいいから大音量で流せるところに持って行って体で「原子心母」を聴いてみてほしい。耳ではなくて体で。これこそ体で感じるものですよ。その波の心地良さがわかるならばロックという世界と隣同士連れ添って生きていくのが楽しくなるハズ。
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