Led Zeppelin - Presence

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 70年代後半はロックシーンにしてみるとやや不安定な時期だったと云えるみたい。大物は大物で不振だったし新人ではあまりバンドが出てきていない。ただアングラな世界ではこのヘンから後に羽ばたくバンドが芽を育てつつあった時期ではあるが。そんな折りにヒーローとして出てきたのはヴァンヘイレンあたりとなるワケで、パンクからは完全に一線を画したテクニカルなギターヒーロー登場と言う訳だ。一方王道を走りながらもややどことなくマンネリ感や飽きが来た感じの大物バンド群はこぞって方向性を見失いつつあった。我らがツェッペリンも何となく暗い影を落としながら…、これは音や才能ではなく事故に見舞われてっていうのが多かった。1975年夏には日本公演を含むツアーリハーサルを行いながらもプラントの自動車事故によって敢えなく中止、ここでの車椅子生活と有り余ったエネルギーが次作「プレゼンス」の勢いともなるが。1977年ツアー終盤となった夏頃にはプラントの息子が急死という悲劇。この辺りからツェッペリン伝説も翳ってきた所か。

プレゼンス フィジカル・グラフィティ
Led Zeppelin - プレゼンス プレゼンス

 さて、そのプラントが怪我してリハビリをしている最中からジミー・ペイジは合流してせっせと曲作りに励んだようだが、走り続けていたツェッペリンがプラントの事故で止まってしまった時、他のメンバーは家族団らんの時間を持てたことで喜んだようだが、真のミュージシャンで脂の乗りきったジミー・ペイジはバンドなし、音楽なしでは生きられなかった人のようで、妙に凝りまくった作品が大半を占める。プラントもあまり余ったエネルギーの全てをぶつけてきており、まぁ、並じゃないレベルの作品を録りまくった。それがこの「プレゼンス」だ。勢いと技術とのせめぎ合いに基本的なリズムでの勝負も入ってくることで圧倒的な存在感を示したタイトル通りの作品。

 冒頭の「アキレス最後の戦い」からして10分半もの長い曲だが、これがプログレのダラダラとしたものではなく、思い切りハードでエッジの立った、そして複雑で緻密に詰められた結果の長さなのだから聴いていて驚くばかり。長いとかは一切感じることなく、そのテンションの高さと迫力、リズム隊の圧倒的な存在感の上によくもまぁメロディがついたもんだと感心するくらいのプラントの歌、もちろんどこからこういう発想が浮かぶのかというくらいに豊富なアイディアを詰め込んだジミー・ペイジの天才的センス。ジョンジーをして、「ジミー、キミの探しているスケールはこの世の中にはないんだよ」と言わせてしまったくらいヘンな旋律の上昇下降入り混じったフレーズが何度も登場する疾走感。イントロとエンディングにしか出てこない天才的なアルペジオ…。やっぱり勢いかなぁ、この曲は。こんなに複雑で長くて決まった感じの曲なのにライブでは更に自由にギターを弾いたりアレンジを加えていたりするのもさすがにツェッペリンと唸らせる。そういえば、終盤に差し掛かったころの「Ah Ah Ah」の所なんて普通では4回のところを5回で回していたり、前半でもリフを奏でる弦楽器隊に対してフレージングを間違って捉えたボンゾのミスもそのまま収録していたりして、聴けば聴くほどに味が出る。いや、結局最後は凄ぇ~で終わるんだけど(笑)。そして2007年12月10日のツェッペリン再結成ライブで登場した「For Your Life」。こちらは音の空間と新解釈ブルースとも云えるミドルな響きが心地良い曲。これももう圧倒的にボンゾの黒い音に影響を受けながら更にロックの音として持ち込んだ重低音なドラミングとリズムによる効果が圧巻な一曲で、シンプルな曲構成ながらも聴かせてくれる。こういう「待ち」ができるバンドって今はないし、当時もなかっただろう。希有な存在ですよ、やっぱり。それとアーミングを使っていることでわかるけどストラトで弾いてるんだよね、これ。その姿ってのはあまり浮かばないけどちょっくら驚いたもんだ。続いては一気にドタバタとした感じのする「ロイヤル・オルレアン」というこれもまた変わった曲で、そもそもツェッペリンってのは実はギターの音があまり歪んでいないので何でも対応できるんだけど、この「プレゼンス」というアルバムではそれが顕著に出ている。故にハードロックらしいハードロックってのがない。その中で「ロイヤル・オルレアン」ってのはこれもまたリズム重視で出来上がったもので、ソリッドな音でカチャカチャと鳴っているギターとやっぱりボンゾだな。プラントはこういうのキライじゃないからノリノリで歌っている感じでさ、スタジオセッションではかなり楽しんだであろう感じがする。あぁ、不思議な曲だ…カリプソとソウルのミックスなのかな、決して上手くはないジミー・ペイジのギターが絡むのも面白いが(笑)。そんな所でA面が終わり、圧倒的に「アキレス最後の戦い」のインパクトが強くて、続く二曲はそのインパクトと疲れを癒してくれる意味合いが大きいために空間の多い曲と疲れない曲になっていたのだろう。

 「プレゼンス」のジャケットはヒプノシス…って見りゃわかるか(笑)。不思議なオブジェクトがそこかしこで存在しているということ=「プレゼンス」という意味合いでもあるようだが、あまり好きじゃなかったなぁ、このジャケットは。どこかツェッペリンらしくないと言うか、芸術性もあまり感じられなくてね、よくこんなのジミー・ペイジがOK出したもんだと思うけど、今でも見ていて飽きないってのは凄い。好きじゃないけど中ジャケまで色々と見ていて何だろなぁ~と飽きないもん。ヒプノシスって大体そうなんだけど、多分考えても意味ないから考えないけど気になる(笑)。それよりもスワンソングのレーベルってかっこよいなぁ~とか、そっちに行っちゃうってのもあったかな。

 そしてB面はこれまたガツンと「俺の罪」というパクリともカバーとも言われるがどう聴いてもオリジナルだろう、これは。プラントとペイジでしか出来なかったであろう冒頭のユニゾンからして強烈、そこにリズム隊が絡んでくるんだが、これもまた凄くてメロディ隊とリズム隊が完全に別のことやってるみたいにぶつかり合って進められる。それが途中から一緒になるから面白い。この辺になると自分達の出来ることが相当レベル高くなってりうから単にギターフレーズに対してキメを打つリズム隊としても一風変わった取り組みをしているんだろうけど、それにしてもあり得ないだろってくらいのキメワザ。これもまたリズムな曲だが、プラントの歌も本領発揮とばかりに雄叫びを上げまくっている。そしてジミー・ペイジもここでは弾きまくったギタリストになっていて、最もツェッペリンらしい一面が出ている曲で、ハードロック的です。だが、やはりリズムが中心になっているからこの時期の特徴がよく出てきてるし、ギターの音色もかなり変化しているのもよくわかるし。そして「キャンディ・ストア・ロック」ではシャープでソリッドでドタバタしたツェッペリンらしいロックが聴けるね。もうちょっとこの曲ってクローズアップしてあげてもよかったんじゃないかと思えるくらいの出来映えでしてね、うん、ハードなギターの音に加えてしっかりアコギが入ってるから面白くてさ、三枚目のアルバムみたいにアコギ中心で考えてたら、この曲もアコギで出来ちゃったんだろうな、なんてのがわかるから勝手に想像できる。それでもこういうアレンジとノリにしたのはこの頃の勢いだろう。途中な曲を繋ぐパートがあるんだけど、そこが妙~に浮いていてプログレッシブな雰囲気を出しているのは自然ながらもひとつづつの音を無駄にしないでフレーズとして使っているかってのがある。しかしここでもリズム隊…ボンゾの圧倒的な存在感が目立つ。続くはこれもまた空間を利用した曲でA面の「For Your Life」に対抗したものか?それにしてもこういう普通のリズムの中で変拍子的に聴かせるフレージングってのが面白くてさ、ツェッペリンらしいよね。こういうの聴くとついコピーしたくなるし、どういう風になっているんだろう?っていう興味が沸くもん。しかし楽曲の重さに反比例してえらくキャッチーでメロディのある歌の旋律ってのもこれまた狙い通りなんだろうけど、さすがだなぁと唸らせる。アレンジを全く変えてしまったら何の曲かわからなくなるだろうけど、ポップに聞こえるだろうなぁとちょっと想像を駆り立てる曲かも。しかし…、かっこよい。こういう曲ってのも飽きないなぁ。終わったと思ったらまだまだ続くという曲構成もツボを突いてるしさ(笑)。そして最後の真打ち「一人でお茶を」。スローブルース…というだけでは言葉が足りなくて、アダルトな大人の雰囲気が漂うブルースをオシャレに解釈した曲で、ギターの音色やフレーズ、歌の感情表現などなど基本的にブルースを繰り広げていたツェッペリンならではの味わいが聴いて取れる素晴らしい作品。メジャーどころではあまり出てこないがディープなファンには圧倒的な支持を得る傑作。9分半にも渡るブルージーな空気の中には感情の起伏と音への表現、そしてギタリスト、ジミー・ペイジここにありと言わんばかりの弾きまくり姿も心地良い。こういう引っ掛かりのあるギターってのはこの人にしかできないでしょ(笑)。正に成熟したツェッペリンの最後のブルースソング。

 「プレゼンス」ってさぁ、初期のツェッペリンのアルバムほど取っ付きやすくないんだよね。だから最初は難しかった…ってか、リズム隊が強調されすぎてたからかもしれない。ギターに情熱を燃やして聴いている頃はやっぱ初期聴くからさ。でも、だんだんツェッペリンそのものが好きになってくるとあちこち気になって…、それで「アキレス最後の戦い」をバンドでコピーしてみて、その凄さと緻密さとかっこよさに内側から気付いたっていうかさ、聴いている時だけの感覚じゃなくてね、そういうのがあってからこのアルバムが凄く面白くなった。完璧なアルバムってのはそうそうないけど、「プレゼンス」はかなりその部類に近いよ。一生聴いても飽きないっていうのもあるし…、それは多分「フィジカル・グラフィティ」もそうだけど、ディープなんだよ。いや、面白いんだよ。楽しいんだよ。あぁ~、やっぱツェッペリンの世界は素晴らしいねぇ…。





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フレ
Posted byフレ

Comments 12

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オダ  

いつもながら気合の入ったZepの記事は楽しまいですね。

このアルバムはギターとリズム隊とのせめぎあいが凄くて、好きなんですよね。
ほんとに飽きがこないアルバムです。

ただ自分のテンションが低いときに聴くととんでもなく疲れてしまいそうで、Zepの中ではあんまりヘビ・ロテで聴けなかったりするんですよ(笑。

2009/08/15 (Sat) 20:17 | EDIT | REPLY |   
LA MOSCA  

フレさん、熱いですねぇ(笑)
あまりに熱く素晴らしいレヴューに、思わず久々に引っ張り出して
聴いてしまいました。
ウォークマンにも入れてしまった!
やっぱりカッコイイ!
なんだかんだ言って、ZEPで一番好きなアルバムです。

2009/08/16 (Sun) 21:30 | EDIT | REPLY |   
ドイツ特派員  
やはりZEPだと

まず長いっすね、解説が(笑)。全然否定じゃなくて、やっぱ自分の城のブログはこうでなきゃ。で、思わず聞いちゃいましたね。改めて何が凄いって、別にドラムの音量がとても大きいとか、凄くギターが歪んでいるとかじゃないのに出てくるこのでかい音の塊。「アキレス~」の最後のマーチ風ドラムの間違いすらもうロック。

こんなロックを聴いた日にゃ機械のようにぴたりと合わせるだの、子供の戯言のように思えてくるってもんです。初期衝動をそのままぶつけたボンゾのドラムに「ええい、乗っけてやれ!」というペイジのギターを聴きながら右往左往しているジョンジーということでしょうか。

2009/08/21 (Fri) 23:15 | EDIT | REPLY |   
フレ  
Thank You…

>オダさん
うん、やっぱ気合い満点で書いてしまいます(笑)。でも、ホント、疲れるので何回も聴くという時期は過ぎてますが…。それでもやっぱ聴くとハマりますねぇ。

>LA MOSCAさん
久々に引っ張り出すきっかけになって嬉しいです。たまにはこういうの聴かないとね(笑)。Zepで一番って言うのは難しいんだけど、やっぱかっちょよいアルバムですねぇ。

>ドイツ特派員さん
聴きながら書いてるとね…つい突っ込みたくなる箇所が多くなって長く長くなります、Zepは(笑)。これだけアルバム制作の枚数を重ねてもその初期衝動の本能を根元にしているって凄いですよ。そこにテクニックが重なるからそりゃもう強烈…。

2009/08/23 (Sun) 10:02 | EDIT | REPLY |   
zagan  
う~ん、こまったぞ・・・

久しぶりに聞き直して、またもや感嘆してるんですが・・・
今日のブログのおかずにしようと思ったんですが・・・

書くことなくなっちゃいました。。。

2010/11/26 (Fri) 18:10 | EDIT | REPLY |   
フレ  
>zaganさん

自分でも今見てて、凄い量書いてるなと呆れました…。
聴いてるとキリないですよねぇ、Zeppelinは…。
Zaganさんとこも色々出てくるので楽しんでますよ♪

2010/11/27 (Sat) 12:40 | EDIT | REPLY |   
zagan  
なんとか埋めました

音楽評というより、ファン批判になっちゃいましたが。

このアルバム好きなんですよね。

2010/11/27 (Sat) 21:43 | EDIT | REPLY |   
フレ  
>zaganさん

あ、見ました。コメント何回か書いたんですけど、permissonがどうの~でエラーになっちゃいました…。

このアルバム、割と好きな曲とそうでない曲があります…ってもレベルが違いますが(笑)。

2010/11/27 (Sat) 23:14 | EDIT | REPLY |   
zagan  
すみません

サーバーのログにはフレさんがコメント送信した記録が残ってたんですが、エラー出てました。
デフォルトではパーミッションも適切に設定されるはずなんですが、何故か妙なパーミションになってました。
修正しておきました。

2010/11/28 (Sun) 17:08 | EDIT | REPLY |   
zagan  
コメントありがとうございました

御手を煩わせてしまい、恐縮です。
ありがとうございました。

2010/11/28 (Sun) 21:49 | EDIT | REPLY |   
akakad  

Zepで2番目に好きなアルバムです
1番はインスルージアウトドアです
ああいうハードなポップなプログレっぽいのやロカビリーがかなり好きであとエイジアも

2014/01/10 (Fri) 21:12 | EDIT | REPLY |   
フレ  
>akakadさん

その辺だとZeppelinよりも得意なバンドいっぱいいますからZepの分が悪い気が…(笑)。

2014/01/13 (Mon) 22:03 | EDIT | REPLY |   

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  • 2009.08.20 (Thu) 12:57 | ROCK野郎のロックなブログ